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里地里山保全活動
第20回「人と自然が織りなす里地環境づくりシンポジウム」
郵便局コミュニティーセンターホール(千葉県印西市)
平成14年3月10日(日)

21世紀の持続可能社会・里地里山をデザインする

1999年より3年をかけて全国で実施してきたイオン里地里山保全活動の最終回にあたり、これまでの総括としてシンポジウムを行いました。会場となった千葉県印西市は、里地ネットワークでこれまでにもお世話になったケビン・ショートさんが住んでおられるところです。前日にはプレシンポジウムという位置付けで、ケビンさんのホームグラウンドである印西市結縁寺地区で、第19回の活動を行ないまいた(報告は別項)。
 シンポジウムは、「なぜ今里地里山か」という大前提の話から始まり、環境省と農林水産省から里地里山関連の施策について紹介していただいた後、土木(近自然工法)、農と食、市民参加の里山保全、自然エネルギー、地域活力の向上、とハードからソフトまで、国から市民まで、地球から地域まで、幅広い視点を結集した内容でした。とても多彩なテーマで広範囲に話が及びましたが、講演はスライド形式にし、すべての話にグラフや写真があったため、全体としてとても密度の高いシンポジウムとなりました。
 以下は概要版ですが、全画像を盛りこんだ報告書を近く発行いたします


■スライドショウ 12:15〜13:00
 第1回から18回までのイオン里地里山保全活動の紹介
■シンポジウム  13:00〜17:00
 司会/ケビン・ショート、竹田純一

開会挨拶

主催者挨拶/(財)イオン環境財団理事長 岡田卓也
 私どもイオングループは、12年前に環境財団を設立し、環境問題につきましていろんな事業を行なってまいりました。特にその中で里地保全の問題を、里地ネットワークさんとともにとりくみ、1999年から日本の各地20カ所で里山保全活動をしてまいりました。それらの活動は、地域の皆さん、NGO、自治体、市民の皆さんと一体となって進めてまいりました。こういう問題は地域の方々の参加型の事業が最も大切であろうと思っています。
 そのほかに、1998年から2000年にかけて3年間、中国の万里の長城に植樹を続けてまいりました。万里の長城の、森の再生プロジェクトを実証してきたわけですが、このプロジェクトには民間の方々が自ら進んで4200名、中国からは3200名の方に参加していただきました。そして、39万本の木を万里の長城のふもとに植樹を致しました。これが今すくすくと成長しております。北京政府も植樹の公園として長く保存するということです。
 里山保全の活動では、私自身もたびたび参加しておりますが、地域の皆さん、NGOの方々、あるいは私どもが環境省とともに全国各地に組織している子どもエコクラブの皆さんにも参加していただきました。
また、この2003年から3年間、モンゴルのウランバートル市でボランティアの方々の参加で公園を作り、そこに植樹をする運動を開始しようとしておりまして、モンゴルで苗木の育成に協力しております。
 こういう運動を、地域の皆さんと一緒にすることで、少しでも日本の環境、アジアの環境を良くしていこうと考えております。
 今日は、我が国で有数の先生方にご参加いただきまして、最近の環境における新しい情報やいろんなご意見を開示していただくということです。少しでも皆様の参考になり、このシンポジウムが成功するよう、また日本の里山保全について今後ともご協力を願いまして、私のご挨拶に代えさせていただきます。

開催地挨拶/千葉県知事 堂本暁子
 イオン里地里山保全活動第20回の記念シンポジウムが、千葉で今開かれることに意味を感じますのは、ちょうど私どもが、「とりもどそう、千葉の自然」という大キャンペーンを、県をあげて始めようというその時だからです。
 1年前になりますが、三番瀬につきましても、私は里山が好きだから「里海」という言葉を使わせていただきました。
 私たち日本人は、アジアの民族といってもいいかもしれません、里山里海と共生して生きることの天才だったんではないかと思います。そこで実現していたのは、まさに循環型の、自然と共生する人の生き方だったんではないでしょうか。
 里山はありとあらゆる生活の場、あそびの場であったと思います。鳥たちが実を食べるところも里山でした。
 例えば、私はマッキンゼー川を上って北極海にまで行ったんです。そこから帰ってきて日本の里を旅したときに、「あ、なんて里っていうのはぴったりした言葉なんだろう」と改めて思いました。荒々しい自然、その中で戦うように挑んでいる人間の生き様もございます。しかし、私たち日本人は1000年も前から、繊細で人と自然とが織りなす形でつくる里山里海の中で、循環型の社会を作ってきたと思います。そしてそこから日本人の生活文化、芸術文化が、いろいろな形で生まれてきたと思えてなりません。
 今までの20世紀、私たちは無我夢中で働き、世界に類をみないほどの高度経済成長に成功しました。でももう一回私たちの心が帰っていくところ、そこが「里」なのではないでしょうか。
  私どもがこれから始めようとしておりますのは、「取り戻そう、千葉の自然」をキャッチフレーズに、「千葉環境再生計画」です。ゴミや化学汚染の負の遺産をできるだけなくし、次の世代に、日本一のいい環境を残していこう、そのことを、行政も企業もNGOも民間も、ひとりひとりが皆でやれることを全国の皆様と一緒にやっていこうと考えています。
 この計画の核として、千葉環境再生基金というのを設置します。子どもたちが10円いれてもいい、そういった基金でいい里山を残していくという運動を、全県下で展開していきたい。
 今日のシンポジウムが、千葉から発信して元気な声が全国に響き渡りますようお願いして、私の挨拶とさせていただきます。

開催地挨拶/印西市長 海老原栄
 緑豊かな自然環境は、私たちの生活に潤いと安らぎを与えてくれます。そして安全で快適な町づくりの基礎となるものでございます。
 当市には千葉ニュータウン事業が始まって以来、急激な市街地の形成と人口の流入・増加が進展してきました。しかし幸いなことに、先人の方々のたゆみない努力と、それを受け継いできてくれた人々によりまして、当市の昔からのな風景ともいえる谷津田、谷津田と台地との間の雑木林、その雑木林を背にして、小さな集落からなる、当市の財産ともいえる里山が、首都圏にあってこんなにも残っていることに感謝と誇りを感じております。また同時に、この環境を子ども達に引きついでいく必要を深く感じているところでございます。
 しかし、当市の誇れる財産も、ひとりひとりが所有する土地でございます。開発や管理放棄等によって、急速に変化しております。私たちの関わりかた次第では、荒地にも貴重な資源にも成りうるものでございます。そこで当市の計画では、美しい自然と風景を有する地域と、利便性のニュータウン地域が共存している特性を活かしまして、人と人とのふれあいや、地域と地域との結びつきを深めていくことによって、潤いのある素晴らしい地域社会を市民と一緒に考え築くこととしております。里山は、そこで暮らす人々の生活の場であることから、この素晴らしい自然を思う市民ひとりひとりの意識のうえに、その保全は成り立っていかなければならないと考えております。
 これには、当市が行なってきた、地域を超えたコミュニティ形成のパイプ役となる取り組みをさらに発展させることが必要でございます。これからのまちづくりの主役は市民ひとりひとりであるので、従来からものづくりだけでなく、自然を守りものを大切にし、地域とのふれあいにより活き活きとした市民生活が営まれるよう、町づくりを進めていき、当市の目指している「人と自然が笑顔で繋がるまち 印西」を、この素晴らしい里山を中心として実現していきたいと考えております。
目次
里地里山保全活動
里地里山保全活動
00 里地里山保全活動とは?
01 秋田県鳥海山
ブナの植林
02 愛知県美浜町
竹炭焼き
03 島根県三瓶山
山地放牧と野焼き
04 長野県飯山市小菅
山の手入れ
05 三重県鈴鹿市
石組み
06 山形県最上町
地元学 (小学生版)
07 岩手県西和賀郡
地元学 (地域版)
08 北海道白滝村
水路と有機農業
09 神奈川県横浜市
ケビンの観察会
10 埼玉県武蔵野台地
落ち葉掃き
11 埼玉県小川町
自然エネルギー
12 新潟県佐渡島新穂村
棚田の復田
13 秋田県二ツ井町
杉の活用
14 三重県藤原町
里山テーマパーク
15 宮城県田尻町蕪栗沼
冬期湛水田
16 京都府綾部市
ふるさと拠点
17 沖縄県恩納損村
かまどづくり
18 神奈川県横浜市寺家町
ふるさと村
19 千葉県印西市
都市の里山
20 まとめのシンポジウム
ビジュアルプレゼンテーション要旨

ゼロエミッションの地域づくり・地域内循環
システムから持続可能社会をデザインする
京都大学大学院環境地球工学研究科教授
里地ネットワーク代表幹事 内藤正明

【要旨】
 なぜ今エコロジカルな社会変革に必要か。そうしなければならない状況に我々は追いこまれている。エネルギーや資源の消費、温暖化などの限界が予測されている。こういう状況をふまえて、日本では二つのシナリオが描かれている。一つは先端的な革新技術でまだ経済的豊かさを追求できるという技術中心シナリオであるが、多くの人がこの無理に気づいている。そこでもう一つのシナリオが、産業や循環のあり方も変える社会変革シナリオである。これは脱工業社会、脱企業社会、脱石油文明ともいえる。
 工業社会では全体のエネルギー効率は2、3%しかない。これをお金の価値に内部化できれば良いが、今の経済原理の中にはそのメカニズムがない。そこで資源とエネルギーをどう使い直していくかだが、日本の場合外国から大量に有機物が入ってくるため資源循環は基本的には無理だ。それでもいろんな代替案を組み合わせて取り組まねばならない。
 社会の方向性としては、これまでのように役所がすべて公共サービスをやってくれるというのは限界に来ている。今後重要なのはコミュニティーで、なるべく自然の力に頼りながら、小規模な地域社会で適正なローカル技術を使いながらやっていくことだ。ここで、里地的な要素が大事である。
 問題は私たちがそういう社会を本当に望んでいるのかということである。望んでいない人にも里地里山の価値を認めてもらう必要がある。そのため、GNP中心から、心の豊かさとのバランスが必要だ、ということ、心の豊かさとは何かということを、実際の現場で作って見せる必要があろう。
 ただ注意が必要なのは、資源とか環境の制約というのが極めて厳しくかかっていることである。そこで、これからの持続可能社会へ向けての大事な指標として、環境面では、ハーマンデイリーのナチュラルステップの原則、社会面ではアワニーのコミュニティー原則、経済面ではデビットコーテンの脱企業社会の原則などがある。「脱企業社会」とは、心の豊かさを指標とし、生産者・消費者の別な、人間として、生活者として暮らせる場のある社会のことである。
 これまでの都市工業社会は、ITバーチャル社会と、近隣コミュニティーの農工連携社会に二極分化すると考えられるが、本当の人間の生き方を模索するならば、農工連携・里地里山であろう。
 将来のシナリオと社会像としては3種類考えられる。技術中心シナリオで行けばIT・バーチャルな情報社会はカプセル社会になりかねない。それに対し、社会を変革していけば、新しい循環共生型の社会になる。そのどちらにもならないとすると、配給社会・サバイバルな闘争社会にもなりかねない。
 里地里山を中心とした都市と農村の連携、里地と都市との連携、農工がうまくバランスを取れた社会を早く築く必要がある。
 
農村振興と環境との調和
農林水産省農村振興局資源課室長 富田友幸

【要旨】
 日本1億3千人の食糧を確保するには約1800万ヘクタールの農地が必要だが、平成12年現在の農地面積は483万ヘクタールであり、今後どんなに政策努力をしても、減少傾向が続くとされている。
 かつて日本人のほとんどは百姓であり、生きるために田畑をつくり雑木林を管理してきた。これが人間の生産活動とからんでできあがってきた自然であり、その中で物質収支のバランスが取れていると、それで持続的な生活が保障されていた。里地里山では、そのような人間の持続的な生産活動による、ある程度安定した環境にうまく適応した生き物が共存し、多様な生態系を作ってきた。しかし戦後の工業化に伴って、山間では耕作放棄により、都市部では宅地転用等によって、農地が減少していった。また生産効率を高めるため農地整備が行なわれたが、これは必ずしも環境にやさしい農業とはいえなかった。
 そこで昨年、土地改良法を改良し、特に農地や水路を整備する場合にそこに住んでいる生き物のことを考えようと政策を打ち出した。農村地帯の水のネットワーウ、緑のネットワークを考えて農地農村を整備しようというものである。
 農林水産省も様々な政策を取っているが、厳しい状況だ。農家の生産活動の中で生み出された里地里山という環境を守り維持することは、農家だけでなく周辺の人々にも恩恵を与える。行政にも限界があるので、皆さんにも農家を支えていただくことが必要と考える。
 
生物多様性に富んだ里地里山づくり
環境省自然環境局自然環境計画課 植田明浩

【要旨】
 里地里山とは、概念的には、都市と原生自然の中間に位置するところで、様々な人間の働きかけを通じて環境が形成されてきた地域概念である。具体的には、二次林、農地、ため池、草地、草原等で構成される。そうすると全国の約4割が該当する。一方里地里山保全活動は、その3分の1くらいが大都市圏に集中しており、都市住民の関心度が伺える。
 また生物の点では、動物の絶滅危惧種の49%、植物の絶滅危惧種の55%が里地里山に依存している。生き物の種類別でも調査をしているが、生物多様性上の価値が科学的に実証されている。
 一律に里地里山といっても特性がある。二次林で見てみると、植生の違いにより放置後の遷移状況などに違いがある。それぞれの特性を踏まえて今後の対応につなげたい。
 
生物多様性に富んだ里地里山づくり
環境省自然環境局自然環境計画課 植田明浩

【要旨】
 里地里山とは、概念的には、都市と原生自然の中間に位置するところで、様々な人間の働きかけを通じて環境が形成されてきた地域概念である。具体的には、二次林、農地、ため池、草地、草原等で構成される。そうすると全国の約4割が該当する。一方里地里山保全活動は、その3分の1くらいが大都市圏に集中しており、都市住民の関心度が伺える。
 また生物の点では、動物の絶滅危惧種の49%、植物の絶滅危惧種の55%が里地里山に依存している。生き物の種類別でも調査をしているが、生物多様性上の価値が科学的に実証されている。
 一律に里地里山といっても特性がある。二次林で見てみると、植生の違いにより放置後の遷移状況などに違いがある。それぞれの特性を踏まえて今後の対応につなげたい。
 
近自然工法の思想と技術
石を組み、風と水が自然を蘇らせる
西日本科学技術研究所所長 福留脩文

【要旨】
 「石を組み風と水が自然をよみがえらせる」とある通り、私は伝統工法に沿って石を使うが、自然を蘇らせる主役は水とか風とか土(土壌)である。これをどのように保全していくかというのが、仕事である。
 青森県大畑川では、河川改修で広げられ浅くなった川に石を配置して、アユの泳ぐ川を復活させ同時に堤防を守る工事を行なった。3週間後、実際にアユが帰ってきた。これは、石と水制の配置により、浅くなった川に自然の川同様の瀬と淵、澪筋ができて流れにメリハリが戻り、泥が流れてきれいになった川底の石に太陽光があたり、苔が生えたからである。生態系の復元の最初は植物生産であり、近自然工法の原理は、生態系ピラミッドの底辺を蘇らせることである。
 屋久島では石組みの登山道を作った。“外から一切材料を持ちこまない。現地にある15m以内にある材料を使う。木や石には一切傷を付けない。人間の手による伝統工法をここに用いる。この技術は全て地元に残す”ということで行なった。石は、現地をよく見て不安定な石から取り外し、下に安定した場所をみつけて収め、安定するように石を組んでいく。
 豊田市児ノ口公園では、運動公園をつぶして、そこにもともとあった小川と田んぼを地元市民の意志で復活させた。都市部の中にあるが、自然生態系が復元している。
 
食文化から見つめ直す農業・地域内自給、学校給食から見つめ直す地域政策
農林中金総合研究所研究員 根岸久子

【要旨】
 高度経済成長期を経て、農家の間でも食と農の乖離が進んでいった。そうした中、減反政策がスタートし米の収入が減ったため、食費だけでも減らそうと農産物自給運動が始まった。取り組みをしやすくするため「50万円自給運動」という形で、自給できるものをお金に換算したり、キャッチフレーズを掲げ、できるだけお金を使わないで、自分たちの持っている生産技術、生活の知恵、地域の資源を利用して、自分達の可能性を活かして生活の中に取り入れようということをうたった。この取り組みは、もっと積極的に自分の健康、家族の健康を守るという視点も加わり、さらに余剰農産物を直売・加工する取り組みへと広がった。そして、消費者にも安心・安全・顔の見える農産物・旬の農産物が歓迎されて発展した。こうして、自給によって手に入れたお金では買えない豊かな暮らしと消費者からの評価は、農家にとって豊かさを実感することとと同時に自信につながり、農家の生産・生活技術、地域の様々な資源を自分たちの生活に取り入れていくという形で生活の自立、生活者としての自立という側面も強めていった。そういう中で農家自身の価値観も変わっていった。より積極的に地域の農産物や食文化を地域に広げることを仕事とする女性も増えている。また消費者が市民農園・援農・農産加工等の形で生産に関わるなど、生産者消費者が一体となった取り組みも広がっている。このようにして、農産物自給運動が地域の食と農のあり方を変えていった。
 このような食と農が一体化した風土に合った食生活の取り組みは、地域ぐるみの地産地消型の学校給食という形でも行なわれている。福島県熱塩加納村では、生産者が届ける農産物について誰が作ったかも含めて子どもに情報を伝えている。また、まず献立ありきではなく地域で取れる旬の農産物を中心に献立を立て、先生、PTAも協力して郷土料理を子供達が作るなど、地元の食文化を活かした地産地消の学校給食が地域ぐるみで行なわれている。東京都日野市でも、子どもが畑を荒らすことへの対策から同様の取り組みが始まったが、地元の農産物への関心と需要が増えるなど、学校給食を出発点として地産地消の取り組みが全地域に広がっている。
 里地里山のことを考えるとき、最も日常的な食というキーワードが重要である。地産地消は地域農業に繋がるものであり、とりわけ影響力の大きい学校給食で地産地消を進めることは大変可能性が大きいし、子どもに安全な食べ物を、という思想は、地域の食と農を再生し里地里山を守っていくときの精神的バックボーンになる。
 
市民参加の里山保全
神奈川県自然環境保全センター 中川重年

【要旨】
 1960年を境に雑木林の利用価値は激減した。伐採・更新する雑木林は若いほど生き物の種類が多いが、そのような林は非常に少ない。死に体の雑木林はあるが生きているものはほとんどない。放置するとバイオマス量が増えるように見えるが、実は200〜300年の期間で比べると、20年に1回くらい伐採・更新したほうが、トータルの上がり量は多い。また放置して40、50年経つと萌芽林は再生力をなくしていく。放置した里山では子どもが遊ばなくなるし、生活技術も衰微してしまう。
 市民参加の森づくりは1980年代中ごろから起こってきた。里山整備支援型とスギ・ヒノキの林業支援型がある。里山保全活動は、田んぼや地域全体の再生など、里地全体の保全へと動いている。活動する市民の悩みに応え、最近では保全マニュアルづくりや、全国規模で保全団体が情報交換をする集会の開催などが進んでいる。
 里山は、伐採や下草刈りなどにより光を与えることで植物の種類が増える。落ち葉はきで2〜3倍、伐採で7倍増える。したがって、一定の地域の生物相を確保するには、20年に1回伐採するという里山の管理が重要である。ただし、かつての畑が雑木林になったところが相当あり、こでは別の植物相ができているので注意が必要だ。
 持続的に里山の保全活動をするための切り口はエネルギー問題である。神奈川県での木材の用途は、建築用材87%、パルプ・チップ10%、その他椎茸の原木等4%で、これが日本の平均的なものである。先進国は20%、アフリカでは95%がエネルギー利用なのに日本ではほとどが建築用材。これがここ30〜40年間に作り出された、森林に対する我々の見方と社会のしくみである。建材やクラフトだけでは、バイオマスの最後の「出口」がない。この部分に何かしくみを作らなければ市民参加の環境保全は次の段階へ進めない。そのためには、バイオマスの量をきちんと測る必要もある。薪で焼くピザ屋など食とつなげる、インターネットで薪を販売するなどの方法が試行されている。ヨーロッパでは地域暖房に木を使っている。チップやペレットにして燃やして80度の湯を沸かし、その湯を地域に供給する。このシステムにより、細かな時間毎の温度調整なども可能である。 エネルギー以外では、霞ヶ浦では護岸のための粗朶利用、中国では養蚕などに利用している。
 さらに今後は、ここで仕上がった森林空間の中で、もっと人間社会に有益な利用がされていくだろう。第一段階はレクリエーション活動、第二段階は生物の多様性、第三段階は、人間側の心の問題を解きほぐしたり、ヒーリングしたり、セラピー効果をもたらしたりというところで使われていくようになるだろう。
 
自然エネルギーを活かす里づくり・太陽熱、太陽光、風力、木質、畜産バイオマスの活用
小川町自然エネルギー学校 桜井薫

【要旨】
 小川町で自然エネルギー学校を始めたのは1996年だが、それまでに有機農業が根を張っていたこと、ゴルフ場建設反対運動があったことなどが、素地になっていた。
 山の手入れは、木を最終的に使う森の「出口」を何とか作りたいと町有林を借りて行なっている。「出口」として木質バイオマスのガス化の実験、ペレットストーブ運転を行なったところ、町としての取り組みに波及している。間伐は、きちんと山の管理ができるボランティアを小川町に育て、炭焼きなどを通してお金が落ちるしくみを作りたいと考えて行なっている。
 他にも柿渋作り、菜の花プラン、ガラス温室づくりなどを行っている。柿渋つくりは農作業のサイクルとあっているので、農家の副業にならないかと考えてやっている。菜の花プランは、菜の花を育て菜種油をしぼ追って燃料を作る。ガラス温室はビニルハウスがいやだという農家の方に好評だ。間伐材を使いガラスを切って組み立てる。
 自然エネルギーの特色のひとつは、自分達の手の中にある、自分達で管理・始末ができるということである。僕らが今やりたいのは、地元でどうやったら新しい副業、地場産業ができるのか。「百姓」という、百のことを組み合わせながらどうやって生活できるようにするのか、である。学校もひとつの工夫になればと思っている。
 小川町の特色であるメタン発酵曹は、生ゴミなどを投じて温水器で加温する。加温は手作りの太陽電池で行う。この活動を通じて一番感じるのは、自然エネルギーは技術ではなく、むしろ一番難しいのはゴミを運んでくるしくみを作ることだということだ。
 自然エネルギー普及のポイントは、自然エネルギーを自分達の手で作って自分達の手で普及させていく、そのしくみをどう作るのかという点である。その試みとして、NGOソーラーネットで太陽光発電の里親を募集するキャンペーンを行なっている。
 
交流と学習から生まれる地域シナリオ
外部参入者、新たなる担い手、集落計画、地域ビジョン
集落デザイン研究者 河原利和

【要旨】
 過疎地域の問題は都市・都市近郊の問題とも共通部分が多く、地域の活力と自治力をどう高めるかというのがカギである。
 熊本県小国町では、人口の数ではなくて質に着目しようということで、町の構想として「多彩な人々を誘致する」ということを明確にうたっている。実際に、芸術家や木工家、農業従事者などの外部参入者=ハビタントがおり、地域に直接的間接的に貢献している。ハビタントとは、地域に関わって貢献して影響を与える外部参入者である。
 小国にどうしてそれだけ外部の人が入れるのか。ひとつは、いろんな仲介的な役割の窓口があるということである。町長や研修施設館長など個人の窓口と役場や第三セクターなど組織の窓口とがある。もうひとつは外部参入者を吸引できる核があるということである。外のことにも精通し内外がよく分かっている町長などが求心的な核になっている。そして入ってきた外部参入者がまたイメージを発信して、どんどん外から新しい人が入ってくる。そういう相乗効果的な構造になっている。
 鳥取県智頭町で取り組まれているゼロ分のイチ運動とは、行政サポートのもとでの住民自治システムによる集落単位の活性化運動である。集落で計画してあずま屋を立てたり、集落の現在と10年後の姿を住民自身が絵に描き活動をすすめるなどの取り組みがある。行政は全集落によびかけ、やる気のあるところだけやってくださいという姿勢である。住民はゼロから最初の一歩を起すが、まったくのゼロではなく、種を見つけて自分達で計画をたてて実行していく。一番大事なのは、住みなれているところだが、自分たちでゼロの種を見つけて、それに水やったり土づくりをして、芽を出して、小さく産んで大きく育てましょうという運動だという点だ。理念は、住民自らのゼロからの最初の一歩、知恵・汗・金を出し合う、集落の誇りを創造する、ということである。大事なのは、実現に向けて取り組む際に、交流・情報、住民自治、地域経営という3つの柱を位置付けることである。
 私が地元の方と一緒に行なっている地域づくりの方法は、外部者と当事者(地元の方)とが、限定された時期と場所で共同的実践を行なう。その時に大事なのは、まずお互いに共同作業ができるかどうかを見分けること、そして、目的や価値観が共有できるかを見分けるときに一緒に検討すること、地域のしがらみにつからないよう、互いに地域の外側にスタンスを置くことである。また地域づくりで一番大事なのは活動の記述である。現在進行形でやっていることを地元の方も一緒に記述して、外部に情報を発信していくことが大事である。そして、小さいものでいいからみんなで生み出して、それを育てていく。そういうシステムでやっていくことが大切である。
 結論として、地域づくりに不可欠なのは、交流と学習、地域のビジョン(将来自分たちはどうなりたいか)、自治力の育成(行政も含めるが特に住民の方の)である。最終的には、地域の、自ら住んでいるところの自主的な選択と決定と自己責任。そこから自らの将来を選び取ることができないことには、その地域の将来には明るさがないと考える。
 
ディスカッション

「21世紀の里地里山をデザインする」
地球環境、生態学、民族学、工学、土木、林学、社会学の実践専門家が、
その枠を越え21世紀の持続可能社会を提起する
大島康行/内藤正明/福留脩文/根岸久子/中川重年/桜井薫/河原利和

【一部要旨】
(内藤)なぜ循環型社会にするのが難しいかというと、これまでの都市工業型の社会のままでは根本の仕組みが全く違う。だから、小さな活動を積み上げていくしかない。

(中川)地域景観がカギだ。今の死に体の里山景観ではなくできれば戦前の景観を出発点にして、なぜ現在の形になったかを考えて今後の自然と人間の関わり方の方向性を考えるべきである。自然と人間の適正な関わりの指標になるのが里山植物だ。これがある生態的評価で好ましいという場合、美しい里山景観ができる。里山景観は地域住民の自然に対する眼力や価値観といった文化性を反映する。

(河原)交流、特に異質な人との接触がカギだ。異質な人の目が加わることによって当たり前と思っていたものがすごく貴重なものに見方が変わってくる。特に閉鎖的保守的な社会に対して外との交流が必要だ。

(根岸)交流の重要性について賛成だ。農家が当たり前の存在と考えていたものを改めて経済的な価値で見なおす、第三者が評価する。その様な情報の交流、人との交流、客観的評価がエネルギーとなって、農家の側の地域の見なおしに繋がり、地域の資源を利用した循環型の暮らしの構築や地域の自立につながると考える。その意味で都市近郊の農村はメリットが大きい。消費者が身近にいるので、生産者は消費者の視点を持てるし、消費者は生産に関わることができる。現実の体験が、価値観の転換も含め大きな可能性がある。

(内藤)両極端を行き来している。循環が崩れたのは歴史をたどれば為替レートが崩れて外国からモノが大量に入ってくるようになったことである。そのような国際貿易という大きなものが背後にあるのに何ができるのか、という話がひとつ。もうひとつは、そうはいってもいろんな側面で破綻が起きていて多くの運動があちこちで起きている。それを積み上げていけば、大きなところが変わるのではないかという期待である。実際、国も追いこまれていることは事実で、これを捉えてどう一気に転回していくかは活動する皆さんの手にかかっていると思う。

(大島)ここ数年の日本人の自然に対する考え方は変わってきた。その追い風を受けながら、都市住民へ普及啓発もふくめて保全活動をしていかなくてはならない。里地里山は本来その特有の資源がある。それをうまく使い、その中で豊かさをそれぞれの人が持つことが大事だ。それには、かつての循環型の農村の姿から学びつつ、今の社会の変化の中で新しい里地里山のあり方を創出していく事が必要だ。切り口は本日示されたように様々であるが、取り組む際には全体の中での位置付けを認識しておくことも大事である。
 
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里地里山保全活動
0. 里地里山保全活動とは?
1. 秋田県鳥海山/ブナの植林
2. 愛知県美浜町/竹炭焼き
3. 島根県三瓶山/山地放牧と野焼き
4. 長野県飯山市小菅/山の手入れ
5. 三重県鈴鹿市/石組み
6. 山形県最上町/地元学 (小学生版)
7. 岩手県西和賀郡/地元学 (地域版)  
8. 北海道白滝村/水路と有機農業
9. 神奈川県横浜市/ケビンの観察会
10. 埼玉県武蔵野台地/落ち葉掃き
11. 埼玉県小川町/自然エネルギー
12. 新潟県佐渡島新穂村/棚田の復田
13. 秋田県二ツ井町/杉の活用
14. 三重県藤原町/里山テーマパーク
15. 宮城県田尻町蕪栗沼/冬期湛水田
16. 京都府綾部市/ふるさと拠点 
17. 沖縄県恩納損村/かまどづくり
18. 神奈川県横浜市寺家町/ふるさと村
19. 千葉県印西市/都市の里山
20. まとめのシンポジウム
人と自然が織りなす里地環境づくり
トキの野生復帰プロジェクト

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