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里地里山保全活動
第19回「農都一体型の地域づくりを目指して」
千葉県印西市
平成14年3月9日(土)

 大きな駅の前に大型ショッピングセンター、広い道路に区画整理されたニュータウンの町並み。ところが斜面林をくぐって坂道を下りると、ニュータウンの陰も見えず、昔ながらの谷津の集落が広がり、トトロが出てきそうな別世界です。千葉県印西市周辺は、台地とそれを刻む谷津が複雑に入り組み、谷津には水田が、台地には畑が拓かれてきました。この台地の上にニュータウンが造成されてから人口が急激に増加しました。しかし台地の下にある谷津では、斜面林、水田、ため池、民家、寺社、といったかつてのたたずまいが残されています。
 里山博学者のケビン・ショートさんは、このニュータウンへ移住して以来、里山の自然や集落に伝わる文化に魅せられ、独自の調査活動をされてきました。また、印西市に事務局のあるNPOラーバン千葉ネットワーク(RCN)は、「開発以前からこの地に住む人々と、ニュータウンに新しく移り住んだ人々が、一緒に考え行動する、田園と都市が互いに助け合い共生するまちづくり」を目指し、ケビンさんとともに、里地里山を活用した活動を行っています。印西市も、昔ながらのたたずまいを残す地域を保全しようとRCNとの共同事業を進めています。
 今回は、ケビンさんのホームグラウンドであり、印西市がモデル地区として保全を進めつつある結縁寺地区で、RCN、ケビンさん、市との共催・協力で里地たんけん隊を行ないました。


クレソンを摘む、たんけん隊のひとこま
里地たんけん隊

 地元の方を案内役に、地元結縁寺地区の子ども達、隣接のニュータウンのご家族と子ども達が参加してグループに分かれて地域を歩きました。
 結縁寺地区にはいくつかの谷津がありますが、一番奥の谷津の先端はため池になっていて用水路の水源となり、その中の小島に水神様がまつってあります。すぐ近くには、由緒のあるお寺と神社が森に囲まれて鎮座し、地区の集会所(結縁寺青年館)もあります。この場所が、この地域の人々にとっての 物理的・精神的なよりどころのように感じられました。
 グループに分かれて、田んぼと斜面林の間の道を歩きました。斜面林の中に入る小さな階段を見つけ上ると小さな祠があり、そのいわれやお祭りについて話しを聞いたり、谷津の奥からの湧き水の流れに繁ったクレソンを摘んで食べたり、水路で生き物探しをしたりしました。道の三叉路の辻に、使い終えた御幣を差しておく習慣があり、地形と結びついた文化が感じられました。
 おそらく参加者にとって一番印象に残ったのは、お昼ごはんでしょう。谷津のしぼり水と井戸水で作ったお米のおにぎり、結縁寺でとれた野菜、手作りこんにゃくの田楽や豆腐、近隣集落の生活改善クラブの方が作っている郷土のお菓子“ばらっぱまんじゅう”などなど。みなさん至福の表情で味わっていました。まとめ作業の後、夜の交流会では、地元の方々と参加者達が杯を交わしました。

目次
里地里山保全活動
里地里山保全活動
00 里地里山保全活動とは?
01 秋田県鳥海山
ブナの植林
02 愛知県美浜町
竹炭焼き
03 島根県三瓶山
山地放牧と野焼き
04 長野県飯山市小菅
山の手入れ
05 三重県鈴鹿市
石組み
06 山形県最上町
地元学 (小学生版)
07 岩手県西和賀郡
地元学 (地域版)
08 北海道白滝村
水路と有機農業
09 神奈川県横浜市
ケビンの観察会
10 埼玉県武蔵野台地
落ち葉掃き
11 埼玉県小川町
自然エネルギー
12 新潟県佐渡島新穂村
棚田の復田
13 秋田県二ツ井町
杉の活用
14 三重県藤原町
里山テーマパーク
15 宮城県田尻町蕪栗沼
冬期湛水田
16 京都府綾部市
ふるさと拠点
17 沖縄県恩納損村
かまどづくり
18 神奈川県横浜市寺家町
ふるさと村
19 千葉県印西市
都市の里山
20 まとめのシンポジウム
様々な主体による保全への取り組み


主体のひとつ、婦人会のみなさん
 この結縁寺地区では、保全への取組が進められつつあります。
 ケビンさんは、地元の人との交流、自然や文化の調査、子どもたちとの自然観察会など様々です。それがテレビ番組として報じられ、地元農家の地域を見つめるまなざしは変わりつつあります。
 NPO法人であるRCNは、結縁寺地区以外でも活動をしていますが、例えば、人気の催し「里山の歴史を食べる会」(今回のお昼もその一環)では、地元の方にお願いして農産物を直接購入し、ニュータウンの人々が里山の恵みを体感し楽しめる機会、ニュータウンと地元の人が交流できる機会をつくり、田園(ルーラル)と都市(アーバン)が一緒に考え行動するための素地を作り、まちづくりを市民の側から進めています。
 印西市は、農家の声を拾い、RCNと協力しながら保全策を練っています。
 
里地里山をどう保全するか

 里地里山保全の困難な点は、私有地が多く、生産の場・生活の場であるため、所有者の意志に任されているということです。法的な網掛けは、住んでいる人の暮らし方を規制する可能性があります。また懐かしいふるさとの風景は、そこに暮らす農家の日々の作業の上に成り立っていますが、それを支える収入や人手は十分でありません。
 このような場所を、地元合意の上で保全するには、農産物なり景観なりを享受する人々が一緒になって取り組む必要があります。里山での農作業や生き物探しなどを通じて、おいしさ、美しさ、面白さ等を発見し感動する体験を持ってはじめて里山の価値を認識し、その土地の産品の好買運動に繋げていくとができます(好買運動:不買運動ではなく好んで買う運動)。また、体験の機会には、近いがゆえに遠ざかっている地元の子ども達にも関わってもらうことがとても大切です。
 国土の4割を占める里地里山。この保全のしかたは多様です。横浜では寺家ふるさと村(第18回の報告を参照)のような取り組みもあり、神奈川県では52のモデル集落を指定し、集落ごとに里山協議会という組織を設け、農家、市民団体、学校などが協働で保全を行うしくみの検討を始めました。それぞれ異なる里地里山を保全するためには、地域の実情に即したしくみを考えることが必要です。
 この活動の翌日に行なった、第20回の記念シンポジウム「21世紀の里地里山をデザインする」では、里地里山を含む地域づくりのヒントが多方面から示されました。こちらの報告もご参照ください。
 
ケビン・ショート語録

 最後に、印西の里山に魅せられ人生が変わったケビンさんの言葉を、シンポジウムでの発言から抜粋します(全文は、後に発行するシンポ報告書に掲載予定です)。
【里山には哲学とか精神文化まである】
 里山自然には、豊かな生物相、歴史・暮らしがあります。でも我々人間の生き方とか、社会と自然との関係はどういうものであるべきかについての知識とか知恵、哲学とか精神文化まで、里山自然にあると思うんですね。ですから、これから我々人間達が、どういうふうに持続的に生きていくか、それに関して、里山にものすごく大きなヒントとか知識があると思うんです。

【日本には生態系や水系を破壊しないで利用する知識と知恵があった】
 日本は、国土の面積の狭い国ですね。そして昔から人口密度が高くて、土地、資源(水の資源、土地の資源、森林資源、魚の資源)全部、集中的に利用してきたんです。それにも関わらず、生態系や水系を破壊しないで利用する知識と知恵があったんですね。それが明治に入ると、西洋の技術を取り入れて日本の伝統的なノウハウを、一時的に忘れてしまった。でもこれからは、日本の昔からあった、土地の使い方、水の使い方、生き物との接触のしかた、そういうものをもう一回掘り起こして見直して役に立たせないと、もったいないなと思うんですね。

【文化の多様性が素晴らしい】
 生物の多様性というのは英語でbio-diversityと言います。それと同じように、文化の多様性をculture-diversityと言うんですね。ひとつの風習とか習慣とか、暮らしの知識とか知恵の一粒が消えるとその文化の多様性が減ってしまいます。日本は、特に食文化に関して、ものすごい豊かな文化の多様性に恵まれた国。同じ地域の中でも、隣集落に行ったらちょっと違うんですね。これがものすごい素晴らしいと思うんですね。

【日本中どこにいっても、その土地の自然に密着した暮らしを営んでいる人々がいる】
 僕は30年前徴兵されて無理矢理に日本に行かされた。その時は、早くアメリカの田舎に帰りたいという気持ちでやってきました。ところが僕は今でも日本にいるんですね。やはり僕は日本の何かにものすごく強くひかれました。それはひとつは日本の自然。日本ほど面積のせまい国に、日本ほど自然の多様性の高い国は世界にもないと思うんです。ですから、日本人は日本の自然について、誇りをもって世界に強調すべきだと僕は思います。
 でも僕がひかれたのは、自然だけじゃなくて、自然とともに暮らす人々の文化。つまり、日本中どこにいっても、その土地の自然に密着した暮らしを営んでいる人々がいるんです。
 僕は日本に最初兵隊で来たときにはエンジニアでした。そして日本の文化に刺激を受けて、自分の専門分野をエンジニアから文化人類学に変えました。それは日本の文化がそれほど力があるんです。

【里山は、一生楽しくいろいろ発見したり、学んだりすることができる場所】
 僕は大学の勉強が終ってから、独学で探検しながらいろんなものを発見するようになったら、本当に人生がおもしろくなった。それで日本の里山は最高だと思うんですね。出かけるたびに必ず何か新しい発見がある、新しい学びごとがある。そしてそれが僕にとって何よりも嬉しいんです。

 日本の里山自然が僕にとって何であるかといえば、もう、一生楽しくいろいろ発見したり、学んだりすることができる場所なんです。それは、僕だけじゃなくて、日本国民全員、世界の人々全員だと思います。日本の里山から学べることは一杯あります。世界遺産という番組があるけれど、僕の考えでは、里山の自然、またはその自然を作り上げてきた、食文化、人々の自然に対しての哲学、そういったものこそ、世界の遺産だと思うんです。
 
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里地里山保全活動
0. 里地里山保全活動とは?
1. 秋田県鳥海山/ブナの植林
2. 愛知県美浜町/竹炭焼き
3. 島根県三瓶山/山地放牧と野焼き
4. 長野県飯山市小菅/山の手入れ
5. 三重県鈴鹿市/石組み
6. 山形県最上町/地元学 (小学生版)
7. 岩手県西和賀郡/地元学 (地域版)  
8. 北海道白滝村/水路と有機農業
9. 神奈川県横浜市/ケビンの観察会
10. 埼玉県武蔵野台地/落ち葉掃き
11. 埼玉県小川町/自然エネルギー
12. 新潟県佐渡島新穂村/棚田の復田
13. 秋田県二ツ井町/杉の活用
14. 三重県藤原町/里山テーマパーク
15. 宮城県田尻町蕪栗沼/冬期湛水田
16. 京都府綾部市/ふるさと拠点 
17. 沖縄県恩納損村/かまどづくり
18. 神奈川県横浜市寺家町/ふるさと村
19. 千葉県印西市/都市の里山
20. まとめのシンポジウム
人と自然が織りなす里地環境づくり
トキの野生復帰プロジェクト

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