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里地里山保全活動
(財)イオングループ環境財団の里山保全事業
第16回「里山の暮らしを楽しみ学ぶ綾部塾」

平成13年11月23日(金)〜25日(日)
京都府綾部市


綾部市

 綾部市は、京都府中部、奥丹波に位置し、里の標高は60m程度、由良川の支流が流れ、田園風景の広がるのどかな地域です。京阪神からほど近く、田舎暮らしへの志向が強まる中、染色家や陶芸家など、すでに三十人におよぶアーティストが移住しています。衣類メーカー・グンゼの発祥地であり、市内では工業団地も建設されるなど、商工業の発展を進める方向と、田園風景や自然、文化を活かしていく方向との二つの方面で前進を図っています。

里山ねっと あやべ

 地元パートナー「里山ねっとあやべ」は、21世紀の綾部の里山をデザインしようと設立されました。『里山力』(豊かな自然、美しい里山的風景、ランドスケープなど)と『ソフト力』(多様な里山文化、経験や知恵、芸術文化など)と『人財力』(夢や想い、志など)の『3つの力』を結集し、オンリーワンのまちづくりを目指し、21世紀の生き方、暮らし方(里山的生活)を探求・提案しています。
 拠点があるのは、綾部市の西端、福知山市と接する豊里西地区で、丹波山地に囲まれた山あいの盆地です。この地区の廃校となった豊里西小学校の校舎が、里山ネットあやべ(綾部市里山交流研修センター)です。

田舎暮らし初級ツアー

 今回のイオン里地里山保全活動は、この里山ねっと・21世紀の生き方、暮らし方を考えるためのあやべの田舎暮らし初級ツアーとのドッキングで開催しました。
 キーワードは、「地元学」と「自分探し」です。「地元学」は、6月に京都の環境市民の講演会で里地ネットワークの竹田が行った地元学の講義がもとになりました。「ないものねだり」ではなく「あるものさがし」を通して豊里西地区の風土や生活文化を見つめなおし、この地域が持つ『3つの力(魅力)』を確認し、21世紀の暮らし方を考えようというものです。もう一つのキーワード「自分探し」は、里山ねっと・あやべからの、「他火(たび)」の提案です。『旅はもともと“他火”。他者に火(愛や慈しみ、ちから、勇気…)をいただきながら歩行を進め、世界を自分を発見(ディスカバー)する文化的なしかけでした。』その“他火”の舞台が、地元学、民泊、農作業体験、草木染めを含む今回のツアーです。
 参加者は、田舎暮らしに関心のある夫婦、子どもに里山での楽しみを経験させたいという家族連れ、癒しを求める女性、以前の綾部での活動を機に精神的疲労から立ち直り新たに歩き始めた女性、農村との関わりを求めて今後の仕事や生き方を模索している女性などの19人で、地元の方々とボランタリースタッフを加え約50人で行われました。
 1日目と2日目は、地元学(「里地たんけん隊」)と民泊した農家での農作業体験や散策を行いました。3日目は、綾部に移住して来られた染色家の指導で草木染めを行いました。

里地たんけん隊

 小畑町、鍛冶屋町、小西町の大きく3つの地区(集落)に分かれて「里地たんけん隊」を行いました。班のメンバー構成等により、本格的に調査を行った班と子どもたちと散策して里の良さを発見する班など、趣が異なりました。

霧−空気の静けさ−
 参加者がみな共通にびっくりしたものは、霧です。朝、外を見ると空は真っ白、目の前は白くモヤがかかって、霧の深いところでは10m先が見えないほどです。10〜12月頃毎日のように出るそうで、午前11時頃になってようやく晴れてきます。この霧が、丹波の黒豆(この地域では「紫頭巾」という品種)をおいしくするといいます。小畑町チームは、野焼きの煙が20メートル上がったのち、その形を変えずに平行移動してたなびいていく様をみて、霧の一因ともなっている盆地特有の静かな空気の流れを発見しました。
 また、霧は昼近くにようやく晴れ、濃いほど天気が良いので、霧が晴れるときの風景は、明るい光が徐々に霧を透過し山や木々の姿が少しずつ霞の中に浮きあがってきて、何とも言えない美しい風景でした。

 豊里西地区には、ため池がたくさんあります。小西町チームでは、山の麓のたくさんのため池と、ため池の水を有効に使うための複雑な用水路、手作りで工夫を凝らした水路、排水を再度池に溜める利用法、そのための村ぐるみの水管理などについて話を聞き、この地域での自然の中での人々の暮らしのあり方を学びました。
 鍛冶屋町チームは、山のふもとの防火貯水槽(山水を貯水)から、オーバーフローをため池へ注ぐようにしている水路を見せてもらいました。ため池は、鍛冶屋町の田を潤す農業用水です。「防火貯水槽」は他にもあちこちの山の麓にありました。また、飲み水を汲んだという湧き水の小さな池もあり、山からの絞り出る水を大事に大事に使ってきたことが分かりました。
様々な里の豊かさ
 そのほかに、小西町ではお茶の栽培と加工、“株うち”“組うち”という集落の相互扶助組織、鍛冶屋町では伝説や民話、子どもたちも楽しめる散策路、等などを調査・探検し、見つけたもの、それについて聞いた話を資源カードにまとめ、地図に記入し、拾ったツルや木の実などの実物でリースを作ったりして、この地区のさまざまな豊かさを共有しました。
目次
里地里山保全活動
里地里山保全活動
00 里地里山保全活動とは?
01 秋田県鳥海山
ブナの植林
02 愛知県美浜町
竹炭焼き
03 島根県三瓶山
山地放牧と野焼き
04 長野県飯山市小菅
山の手入れ
05 三重県鈴鹿市
石組み
06 山形県最上町
地元学 (小学生版)
07 岩手県西和賀郡
地元学 (地域版)
08 北海道白滝村
水路と有機農業
09 神奈川県横浜市
ケビンの観察会
10 埼玉県武蔵野台地
落ち葉掃き
11 埼玉県小川町
自然エネルギー
12 新潟県佐渡島新穂村
棚田の復田
13 秋田県二ツ井町
杉の活用
14 三重県藤原町
里山テーマパーク
15 宮城県田尻町蕪栗沼
冬期湛水田
16 京都府綾部市
ふるさと拠点
17 沖縄県恩納損村
かまどづくり
18 神奈川県横浜市寺家町
ふるさと村
19 千葉県印西市
都市の里山
20 まとめのシンポジウム
草木染め−ご近所の庭の素材で

 黄色系はくちなしの実、オレンジ系は枇杷の枝と葉、青緑系はクサギの実。小畑地区の古民家に移住して来られた染色家、森口夫妻から、身近な素材を使っての草木染めを教わり、各自2枚の綿のコースターの染色を楽しみました。絵柄をいれ、素材を煮て染液をとり、液にコースターをいれて煮ます。途中、くちなしはミョウバンの媒染液、枇杷は椿灰からとった媒染液を使いますが、クサギは媒染液が不要な特殊な素材だそうです。できあがったものは、思い思いに描いた里の風景や葉っぱなどの模様が浮かび上がり、とても素朴な色合いにしあがりました。
 森口夫婦は、京都市内で染色をしていましたが、生の素材を手近に入手できる環境を求めて移住してきたそうです。森口さんの、「アーティストはある程度エゴイスティックなものだけれど、ここに来て草木染めをしていると、上手に染まるのは自分のためではなく、偶然だったり素材によるものだということがわかってきた。それに素材は周囲の野山やご近所の庭から分けてもらっている。ここに来て、地域の自然や人々に支えられているからできるのだと思うようになった」とのお話しは、とても印象に残りました。
 
どれもおいしい!

 交流会や昼食の際の食材は、地元の旬のものばかり。そしてそのおいしい食材をさらにおいしく料理してくれたのが、ボランタリースタッフの福良夫婦と、小畑町の味噌加工グループ「空山グループ」の皆さんでした。福良夫婦は「素材の顔をみて料理する」という、すばらしい料理人で、前回あやべの活動に参加したのが縁となり、今回は料理担当のスタッフとして大活躍しました。「空山グループ」が作った小畑味噌を存分に使って、いくら食べてももっと食べたくなる、おいしい料理を作ってくれました。
 ほっくりした栗が入った絶妙の味付けの栗ご飯、野菜たっぷりのさつま汁、地の山芋を使った麦とろご飯、小畑みそをつけて食べる衣かつぎや風呂吹き大根、大根のカナッペ、大根の皮とダシを取ったじゃこで煮物、という工夫もありました。
 
農家民泊でできた絆

 参加者は、地元の農家に泊まりました。料理や農作業を体験し、どの家でも自家製のおいしいお漬物やとれたての手作りの山里の食事をたくさんいただきました。みな、夜遅くまで生き方についての悩みの相談に乗ってもらったり、またあつく議論をしたり…。ホストとなった地元の方とお世話になった参加者は、楽しかったというだけでなく、交流を超えた強い絆を結ぶことができました。
 
「行きつけの田舎」に

 3日間を追えた参加者からは、地元学を通して発見したことへの感激や、農作業体験の楽しさ、薪ストーブの香り、風景の美しさなどへの感想、そして自分たちを温かく迎え入れてくれた地元の方々への感謝の言葉が述べられました。一方地元の人からは、「風景などは毎日見ていると当たり前すぎて鈍感になってしまっているが、こんな平凡な田舎に、また来て欲しい」「気軽に『今日行くで』といって来てもらえるところでありたい」「ここを『行きつけの田舎』にして、また疲れたら帰ってきて」といった温かい言葉が返されました。同時に、高齢化が進み田畑を耕作する後継者が不足していて田畑が荒れ始めている現状と、そのような田畑を緑にしたいという強い思いが語られました。
 
最後に

「田舎」には、二つの側面があります。一つは、壊さなければならない田舎。封建的で、家長制や家制度、あるいは排他的な側面です。もう一つは、守り受け継ぐべき田舎。これまでに培われてきた、自然の中で暮らす知恵や技術、生活文化などです。里山ねっと・あやべでは、様々な人々との交流を通じて、綾部の3つの力を感じてもらい、その人と共に受け継ぐべき田舎を保全しようと動き出しています。
 そこに住んでいる人にとっては何の変哲もない風景や暮らし。でも実はそこに、失ってはならない地域固有の自然や風土、そこで暮らすための知恵、受け継いできた文化、人々の気風があります。そして、それを求めている人が増えています。「何の変哲もない風景や暮らし」こそが、これからの時代、農村の「ちから」になるのだと思います。その「ちから」は、それを求める人のためになるだけではなく、めぐりめぐって、そこに住んでいる人にも、よい影響を及ぼしてくれるのではないでしょうか。
 
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里地里山保全活動
0. 里地里山保全活動とは?
1. 秋田県鳥海山/ブナの植林
2. 愛知県美浜町/竹炭焼き
3. 島根県三瓶山/山地放牧と野焼き
4. 長野県飯山市小菅/山の手入れ
5. 三重県鈴鹿市/石組み
6. 山形県最上町/地元学 (小学生版)
7. 岩手県西和賀郡/地元学 (地域版)  
8. 北海道白滝村/水路と有機農業
9. 神奈川県横浜市/ケビンの観察会
10. 埼玉県武蔵野台地/落ち葉掃き
11. 埼玉県小川町/自然エネルギー
12. 新潟県佐渡島新穂村/棚田の復田
13. 秋田県二ツ井町/杉の活用
14. 三重県藤原町/里山テーマパーク
15. 宮城県田尻町蕪栗沼/冬期湛水田
16. 京都府綾部市/ふるさと拠点 
17. 沖縄県恩納損村/かまどづくり
18. 神奈川県横浜市寺家町/ふるさと村
19. 千葉県印西市/都市の里山
20. まとめのシンポジウム
人と自然が織りなす里地環境づくり
トキの野生復帰プロジェクト

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