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(財)イオングループ環境財団の里山保全事業
第12回「佐渡トキの野生復帰をめざして」復田、地域づくり
平成13年5月19、20日(土・日)
新潟県佐渡島 新穂村生椿地区他
「えっ? どこを復田するって??」
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佐藤春雄さんの挨拶
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もと生椿地区の方々。
高野さん、大旗さん、鈴木さん。
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トキが戻ってくる日のために、耕作放棄された棚田を復田しようと集った老若男女は、草ぼうぼうの斜面を前に一瞬立ち止まってしまいました。ここが、四畝(約400平方メートル)に37枚の田んぼがあるという、三十数年前に耕作放棄された、生椿の棚田でした。
新穂村生椿地区は、小佐渡山脈の山間にある、水が湧き沢が流れる山あいの地です。かつては十数戸の家があり、山の斜面に開かれた棚田には、トキが餌をついばみに飛来しました。当時生椿地区に住んでいた故・高野高治さんは、トキと人間が仲良く暮らせるようにと各戸に呼びかけて有機農業を実践し、トキの餌付けを行っていました。昭和56年の一斉捕獲後は、山越えをして生椿の反対の位置にある旧佐渡トキ保護センターまで毎日往復数時間の山道を通い、餌を運んでトキの人工飼育に携わりました。
この地区には昭和36年まで3戸が居住し、その後高野家一戸が生椿に残りましたが、平成元年、高野家も山を下りました。その後今日まで、亡き父・高治さんの遺志を継いで、息子の高野毅さんが数枚の棚田を耕作し続けています。
里地ネットワークでは、昨年10月29日に、かつてのトキの生息地を訪ねて生椿地区とその周辺の散策会及び調査を行いました(詳細は『里地通信2000年11月号』に掲載)。今回はこれに続いて、再び生椿の空に美しく羽ばたくトキを迎えるために、トキと人間とが共生できる場所−どじょうやメダカのいる山間の田んぼ−を復活させようという試みに取り組みました。
この日は高野毅さんのほか、もと生椿集落の大籏さんと鈴木さんにご協力いただき、三十数年前から耕作していないという鈴木さんの棚田の復田に取り組みました。
開会式も早々に、小雨が降り出す中、参加者は草刈り鎌、鍬、スコップなどをかついで山道に入っていきました。数百メートル上から湧き出す沢を渡り、地元の方の「そこをあがった所だ」という声におされて明るいところまでのぼると、目の前は草藪の斜面。ここが今日復田する棚田だ、と知った参加者は「こんな所ほんとに田んぼになるの…?」といった、狐につままれたようなおももちでした。
それでも、とにかくやるのです。
はじめに、棚田の一番上で作業手順と道具の使い方の説明を受け、作業を開始します。なるべく元の棚田の形に注意してそれを生かすように、との注意を受け、2〜3人で一枚の田んぼを起こしていきます。
上の方から、草刈り機や鎌でのびた草を刈り、下に落としていきます。するとうっすらと、もとの田んぼの畦の形が浮かび上がってきます。次に鍬やスコップで草の根っこを切りながら土を掘り起こし、天地を返します。
はじめは、草が多くてどこがどうなっているのやらわかりません。田を起こすどころか畦を壊しかけたこともありました。若い女性は草刈り・草集めにはげみました、小さな少年はお父さんと一緒に鍬をふるっていました。
一番上の田んぼは、土を掘り起こすと下からじわっと水がしみ出てきました。どうやら、かつてこの棚田37枚を潤していた水源のようです。
一筆一筆の田んぼに分かれて作業をします。皆、黙々と土に向かいます。降りしきる雨の音と、自分の息づかい、鍬と土が立てる音が耳に響いています。
自分が立った畳一畳分ほどの田んぼを、それぞれが精魂込めて鍬をふるい続けること小一時間。休憩の声がかかって顔を上げると、「あっ、ほんとに棚田なんだ」。
たった小一時間で棚田の形がはっきりとあらわれました。等高線に沿って、三角形のたんぼ、ひょろ長い田んぼなどが連なっていました。
人の力はすごい。自分たちの作業が確実に実を結ぶことが実感できる瞬間でした。
雨は昼にかけてますますひどくなりました。結局午前中で作業は中止。
お昼には、地元の方に豚汁を用意していただきました。雨で濡れた身体を豚汁で暖め、自分たちの成果を確認し、参加者は笑顔を残して山を下りました。
もと生椿集落の方々も、多くの人たちとトキという縁で結ばれ、かつて自分たちが暮らしていた場所に多くの人の手がかかることをとても喜んでいました。
次回は7月下旬、その後は生椿の方々がもう少し整備して水を入れ、来年からはどじょうやメダカが泳ぐようにする予定です。
第12回の里地里山保全活動では、佐渡島内・外、総勢約40名の参加申し込みをいただきました。トキへの思いのあるご年輩の方、マイ・スコップ持参のやる気満々の女性、小学校の先生…。ある男性は、幼少の頃高野高治さんによく遊んでもらったということで、今回ご自分の息子さんを連れての参加でした。
また、トキが野生にいたころからトキの保護活動を長年に渡って続けておられる佐藤春雄先生、トキ保護センター、JA佐渡の生産者など、トキや佐渡の農業に関わる方々も参加していただくことができました。
減反政策のもと、機械が入らず手間がかかる棚田は、耕作を真っ先に放棄されます。しかし、棚田は急峻な山に降る雨を森と同じようにゆっくりと浄化し、下に流す役割を持っています。棚田が荒れることは、森が荒れることと同じです。
森が、木を切り出すだけの場所でないのと同じように、棚田も米を作るだけの場所ではありません。そこは、平野部の農地以上に、人と自然の接点なのです。
お米の収穫という経済だけでは語れないところに棚田の価値があります。この環境を、どのようの守り、受け継ぐことができるのか。トキの野生復帰をキーワードに、佐渡での試みがはじまります。
里地ネットワークは、佐渡に現地事務所を開設しました。ここを拠点に、棚田の復田や地元学調査など、腰を据えて取り組みます。佐渡に暮す人たち、佐渡にやって来る「ヨソモノ」の人たち、いろいろな場面で一緒に活動をしていきたいと思います。ボランティアスタッフなどの希望を、佐渡事務所までおよせください。
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