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(財)イオングループ環境財団の里山保全事業
第5回「白鳥陵・石組み修復プロジェクト」
−里山保全の技術を学ぼう−
三重県鈴鹿市
平成12年6月17、18日(土・日)
今回は、6月17日(土)18日(日)の二日間、三重県鈴鹿市の加佐登神社周辺を舞台に「石」を見る目をやしない、近自然工法を学びました。集まったのは、鈴鹿亀山生活創造圏ビジョン推進会議のメンバー、地元鈴鹿市のガールスカウトたち、周辺の山の保全活動をされている園芸家、加佐登神社のお世話をされている方々、三重グリーンボランティアのメンバーら、総勢50名ほど。指導していただいたのは、近自然工法の思想と技術を日本に広め、屋久島の舗道や日本の河川の自然復元を実践されている西日本科学研究所の福留脩文先生です。
石の顔
初日は朝から雨。梅雨時です。加佐登神社もぬれています。神社の参道から見下ろせる白鳥湖も霧にけむっています。予定では加佐登神社裏の参道にある石段を修復する予定でしたが、自然の言うことを聞かないわけにはいきません。無理をするとケガのもとです。みんなで傘をさして参道の石段などを見学してから、社務所に参加者が全員ぎゅうぎゅうに集まって、座学をすることにしました。福留先生から近自然工法についての基礎知識を学びました。
コンクリートで三面張りした川にわずかな石を水の流れを読みながら置いていくだけで、数カ月後に藻が付き、草が生え、虫がより、魚が住みつくようになること。川の流れには早いところ、遅いところ、よどんだところ、渦を巻くところがあって、そのどれもが川に生き物が住むために必要なこと。近自然工法は、自然環境を元に戻す工事ではなくて、自然環境が勝手に回復するための種を蒔く工事だということ。だから、数時間の工事で半年後にアユが戻る川にすることもできるけれど、屋久島で山道をつくるときには、1年かけて屋久島の自然やこれまでの人と山との付き合い方などを調べてから、手を入れたことなど、興味のつきない話ばかりです。「現代の土木や工法よりも前の土木や工法を知っている人は、地形や自然条件をみて、それに逆らわずに工事をする目を持っていました。今でも私が現場でお話しすると年をとった方々は、その目を思い出してくれます」と福留先生。今は、高知大学などで近自然工法について若い人に伝授しています。
もうひとつ、今回のテーマである「石」についても、実際に石を組みながら基礎を学びました。石には「顔」があります。ツラやシリがあります。石と石は組み合わせる向きや位置があります。石段を組むならば下に落ちないよう支え合うように組まなければなりません。川に石を並べるならば、流れに合わせて石が崩れないような並べ方があります。ひとつひとつの石のツラとシリをみて、合わせる場所を決めること。福留先生が実際に石を並べながら説明してくださいました。この講義がはじまると、石積みの経験があったり、土木工事の経験がある大人達がいっせいに身を乗り出し、真剣に見つめます。ただ石を組み合わせるのではなく、石の顔を見極めること、その目を少しでも身につけようと矢継ぎ早に質問が飛び交いました。さすがに子ども達には専門的すぎましたが、子どもからお年寄りまでの座学は夕方遅くまで続きました。
近自然工法について詳しくは、「近自然工法の思想と技術」(テキスト『里地』福留脩文)をご覧ください。
石は支え合う
翌日の天気予報は雨。濡れた石はすべりやすく慣れない手には危険です。初日は座学でしたが、どうしたものかと思案しながら夜を過ごしました。ところが、翌日は早朝から快晴。天気予報はみごとにはずれ、作業日和となりました。
まずは、昨日予定していた加佐登神社周辺の参道の石段を修復します。
きちんと石組みをしてある石積の建造物は1000年でも形を保つといいます。そこまではいかなくても数百年をめざして作業をはじめました。石段の周囲には、かつて使われていた石が転がっています。参道周辺の森に散乱した石は、森の手入れにとって大敵です。下草刈りなどで草刈り機が使えません。そこで、今回の作業には、石積みをしているうちに、散乱した石を拾い集めようというもうひとつの目的もありました。
昨日の福留先生の話を思い出しながら、まずは、スコップで土を掘り、大きな石から順番に並べていきます。並べては槌で石を叩き、しっかりした石段にしていきます。作業は力仕事。子ども達は自分で持てる重さの石を運び、どう並べればいいのかを真剣に考えます。大人達はスコップや槌を使っての力仕事。それにしても石を組み合わせるのはとても難しい作業です。「どっちがツラだっけ」「この角と角を合わせれば、しっかりするんじゃないかなあ」時には福留先生のアドバイスをいただきつつ、しっかりした石段を作っていきました。
石段の階段で古いものは、横一直線にきちんと並んでいません。足を乗せるところはできるだけ平たくはなっていますが、石と石とは必ずしも同じ高さには組んでありません。
「歩きにくそうなのにどうしてだろう」とずっと以前から気にかかっていた疑問が福留先生によって氷解しました。石の上っ面で合わせることもできますが、そうすると隣の石とのひっかかりができません。石と石とは一番でっぱった部分がお互いに支え合うように並べるのです。その出っ張った部分が石段の端から端まですべて同じ高さに揃っていることで左右の力が均等にかかり、すべての石がお互いの石を支え合うようになるのです。
長い時間崩れない石組みをつくるため、上っ面の並びを少々犠牲にしているのです。自然の「形」をうまくりようした先人の知恵に驚かされました。
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