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里地里山保全活動
第18回「ふるさとの原風景 三輪の里山を訪ねて」
東京都町田市三輪町、横浜市青葉区寺家町
平成14年2月17日(日)

私が生まれた42年前、下三輪では典型的な里山の暮らしが営まれていました。僕にとってのふるさとの原風景は、この小さな谷戸での遊びが当時のまま脳裏に焼き付いています。あらゆるものが循環していた当時の暮らし、その一端がまだここにも残されていました。第18回目の里地里山保全活動は、私自身のふるさとの風景を、そこに住む人々とともにめぐりたいと思います。


寺家の谷津を臨む
 三輪町と寺家町は、都県境を越えて里山でつながっており、都市近郊に残された貴重な谷戸として多くの人が散策などに訪れる場所となっています。寺家町は、集落を含む谷戸全体が、「寺家ふるさと村」として、横浜市の制度下で保全されています。町田市三輪町は、宅地開発されたところも多いのですが、残された里山の一部で保全活動が行われています。この一帯訪れて現在の姿を見るとともに、開発以前からこの地に暮らしてきた地元の方、現在活動を行っている方などに、都市近郊の里地里山の保全方法と現実の厳しさについて伺いました

寺家ふるさと村


寺家ふるさと村
◆ふるさと村を歩く
 住宅団地の前でバスを降りて3分ほど歩くと、急に視界が開けのどかな農村風景が広がります。西の方に大きな谷戸が伸びて田んぼが連なり、その両側はなだらかに雑木林に続いています。谷戸の奥には大小5つのため池があり、水不足のときは当番制で水をひいていました。
 都市近郊でありすぐ近くまで宅地開発が進んでいるにも関わらず、どうして寺家町ではこれだけのまとまりのある地域(86ha)を保全することができたのでしょうか。ふるさと村総合案内所「四季の家」を出発点に、自然観察指導員の杉本さん、寺家ふるさと村体験農業振興組合の方に話を伺いながらふるさと村を歩きました。
 現在ふるさと村では、農産物の直売、陶芸家による陶芸教室の開催、伝統産業である茶道用木炭生産などが行なわれています。また幼稚園が雑木林を子どもたちの遊び場として活用している場所もありました。田んぼの一部は中学生の農業体験に提供したり、外部の方に貸したり売ったりすることで耕作を続けています。また貸し農園の利用者は百数十人に上り、希望者が多いとのこと。これらの農業体験や貸し農園を、寺家ふるさと村体験農業振興組合が組織的に行なっています。また四季の家では、寺家で見られる動植物の展示、写真展などが行なわれているほか、レストラン、味噌・豆腐づくりをする農産加工室もあります。運営は、地元の方々による四季の家管理運営委員会が行なっています。

◆ふるさと村設立経緯とその保全方策
 ふるさと村に迫る住宅団地開発の波は、1960年ごろ(S30年代後半)から始まりました。しかし寺家町の農家の方々は、先祖伝来の農地や山林を守り受け継ごうと、幾度の話し合いを経て団結し、地域の特性を生かした地域活性化方策を検討し、市、県、国からも補助を受け、ふるさと村として保全していくこととなりました。この特徴は、事業主体が「体験農業振興組合」であることからも分かるように、農業を生産の追求からふれあいの農業へと、都市近郊の環境資源として価値付けを明確にしているとこです。

ふるさと村の設立
1982(S57) 基本計画を策定
1983(S58) 横浜市「横浜ふるさと村設置事業要綱」を施行
1984(S59) 事業主体として「寺家ふるさと村体験農業振興組合」設立、施設等整備開始※
1987(S62) 「四季の家」開館
運営;寺家ふるさと村四季の家管理運営委員会
  ※農林水産省自然活用型農村地域農業構造改善活性化事業

◆横浜市の都市農業保全施策とふるさと村



この寺家ふるさと村の保全は、国と横浜市独自の施策により支えられています。
・国 農業振興地域(1969、S44〜)
・市 横浜市農業専用地区(1971、S46〜)
・市 横浜ふるさと村設置要綱(1983、S58〜)
・市 横浜市市民の森(1971、S46〜)
 高度経済成長期の開発の波に対し、国では農地の無秩序な開発を防止し農業を振興する地域を保全する制度(農業振興地域の整備に関する法律)をつくりましたが、横浜市では、さらに独自の制度を設けました。それが「横浜市農業専用地区設定要綱」です。この目的は、「都市農業の定着を図るとともに、緑地空間として都市環境の保全に資するため農業用地区を設定し、総合的、計画的に地域農業に振興を図ること」です。この制度では、農地に加え「その土地の利用と保全上必要な周辺の土地」も一体として指定するので、田んぼ周辺の雑木林なども農地とともに保全することができます。
「横浜ふるさと村設置要綱」は、良好な田園風景を有する農業地域を対象に、地域農業の振興とあわせて、市民が自然環境・農業・農村文化に親しむ場として設置するものです。
 市民の森制度は、個人の土地を市が10年以上の契約で借り受け、住民団体などによる「市民の森愛護会」に委託して整備を行ない市民に開放する一方、契約者には緑地育成奨励金を支払い、固定資産税・都市計画税の減免等税制上の優遇措置をとるものです。
 寺家ふるさと村は、全域が農業振興地域、農業専用地区、農地は農用地区域であり、里山の一部が横浜市市民の森(「ふるさとの森」)になっています。

 上記のような先進的な行政施策のもとでのメリットや、それでも厳しい現状について、ふるさと村の事業主体である体験農業振興組合の方にお話を伺いました。

目次
里地里山保全活動
里地里山保全活動
00 里地里山保全活動とは?
01 秋田県鳥海山
ブナの植林
02 愛知県美浜町
竹炭焼き
03 島根県三瓶山
山地放牧と野焼き
04 長野県飯山市小菅
山の手入れ
05 三重県鈴鹿市
石組み
06 山形県最上町
地元学 (小学生版)
07 岩手県西和賀郡
地元学 (地域版)
08 北海道白滝村
水路と有機農業
09 神奈川県横浜市
ケビンの観察会
10 埼玉県武蔵野台地
落ち葉掃き
11 埼玉県小川町
自然エネルギー
12 新潟県佐渡島新穂村
棚田の復田
13 秋田県二ツ井町
杉の活用
14 三重県藤原町
里山テーマパーク
15 宮城県田尻町蕪栗沼
冬期湛水田
16 京都府綾部市
ふるさと拠点
17 沖縄県恩納損村
かまどづくり
18 神奈川県横浜市寺家町
ふるさと村
19 千葉県印西市
都市の里山
20 まとめのシンポジウム
◆寺家ふるさと村体験農業振興組合の方のお話。
【税制の厳しさ】
 土地は、市街化調整区域になっているから売るといってもただ同然で、一方、相続税は莫大にかかる。しかもこのような土地だと相続税は物納できない。だから相続が発生したとき市が買い上げることになっているが市も財政にそんなに余裕がないので、月賦で払ったり財政に余裕ができたときに払っている。そのため土地は国から担保に取られてしまう。結局は個人の土地も、市、国のものになってしまうが、そうしないと残せない。だが市の財政も苦しいので、ふるさと村の継続も課題が多いのが実情だ。また、保護がかかっていて建築許可がおりないので、子どもの家を建てようとしても許可がおりない。

【田んぼの所有と耕作について】
 寺家町の35戸のうち多少とも農業をやっているのは20戸くらいだ。町内の人は、町外の土地はみな売ってしまっている。町内にも第三者の所有地になっているところもある。現在は、所有者が高齢で耕作できないところは中学校が農業体験をするなど、貸すという形をとって何とか田んぼらしく残している。高齢化の進む現状で維持するのは大変だ。荒らしておけば荒廃農地だといって税金がかかる。

【ふるさと村設立について】
 寺家にも住宅団地化の話があった。しかし農家が団結してそれを拒み、保全することにした。先祖のものを残そうというのが先決でふるさと村にしようとまとまった。ふるさと村って何だといろいろ話しているうちに、土地はあるからやってみようということになった。

【ふるさとの森(横浜市民の森)】
 里山は市民の森ということでみんなで整備してくれる。手入れは大変だ。木というのは一定程度で切らなければならないし、切っても昔と違って使い道がない。緑はあっても困るし、なくても困るものだ 。
 
町田市三輪町


かつてはアズマネザサで覆われていた
 寺家町から、東京都と神奈川県の境界にもなっている里山の尾根を越えると、三輪町に入ります。
 つい40年前頃まで、三輪では典型的な里山の暮らしが営まれ、あらゆる物が循環し、小さな水路にも生き物がたくさんいて、子ども達が遊ぶのに事欠かない場所でした。現在は、造成された住宅地の狭間に谷戸が残っており、大変貴重な空間となっています。
 

椎茸を栽培している
◆保全団体と地元との協働
 残された雑木林で、NPO法人樹木・環境ネットワーク協会<聚>が地元の方に協力して里山再生活動を行っています。その現場に伺い、一緒に活動をしている地元の斎藤さんに話を伺いました。活動は、広葉樹林の下草刈り、伐採、もやかき、キノコの栽培、竹林の整備と炭焼きなどなどですが、もとは放置された山を以前の様子に蘇らせたいと齋藤さんが地元の方と手入れを始めたのが最初だったといいます。斉藤さんに話を伺いました。
 
◆斎藤さんのお話
 ここの開発は、昭和45年里山の買収から始まり、昭和50年頃から住宅地ができた。その前は本当に緑がいっぱいだった。なんとかこういう場所を守りたいと思っていた。私としては、里山は一つの関わり合いで大事にされてきたわけだから、何か山から恵みをもらってそのお返しに木を育ちやすいようにしたいと考えている。
 山から得る物質的なものは今はほとんどどないのだが、落ち葉は堆肥にして使っている。樹木・環境ネットワーク協会と一緒にキノコを栽培し皆で囲んで食べたりしたことを通じて、やはり皆で関わっていくことが大事だと感じている。精神的な面では山から得られるものがある。寺家や三輪の里山は多くの人が訪れる。それは私たちに緑が必要だということを物語っている。
 里山を残すには地権者だけではどうにもできない。町田市では、地権者から土地を借りて管理をボランティアなどに任せる方法を検討中だ。ここでの活動がサンプルになればと思う。
 

正面の風景、かつては山であった
◆下三輪:ふるさとの風景
 細長くのびる谷戸を挟む山の一方に上がって驚いたのは、正面の景色です。この大きな建物のある場所は、かつては山だったそうですた。まるで紙を切り貼りしたかのような山の削り方に、切ない思いさえしました。また、現在の道路は昔は川で、魚がたくさん取れたそうです。この谷戸で生まれ育ち、現在地元の農業委員をしておられる方に話を伺いました。
 
◆地元農業委員の方のお話
【開発と「生産緑地」としての農地保全】
 もとは上三輪と下三輪で農家が100戸、人口300人ぐらいで生活していたが、現在では住宅地が造成されて人口で17000人ほどになっている。だから山などはどんどんなくなっていった。
 宅地開発が公然と行なわれる市街化区域の中でも、「生産緑地」に農地を指定されれば固定資産税は減免され、年間300坪で1800円ぐらいだ。ただし、いつ売却しても構わないという申請もしないと年間300坪で70万円程度課税される。しかも必ず耕作しなければならない。また、解除すると翌年から通常の固定資産税がかかるので、解除したら早々と売らなければならない。それでも、「生産緑地」にしなければ宅地開発されてしまうので、それを避けるために、昔は山(原野)だったところを無理に造成して畑にしたところもある。
 宅地化したとはいっても、現在みえる緑地はこのまま保存される緑地だ。区画整理では周囲に約2割〜3割緑地を残すことになっている。それで我が家の裏の竹林が残っているが、一般の人が出入りするなどトラブルも多い。畑の作物を取られることもある。

【百姓をやめていく人が多い】
 町田市38万人の中で、今農業をしているのは2700戸。我が家の米の収穫量は約180俵。しかし、国は米が余っていて買わないという。だから学校とか地元のスーパーへ行って地場産だからとお願いして何とか消費している現状だ。私は最近まで(自家用に)谷戸の田んぼをやっていたが、東北の親戚から米をたくさんもらい余るので、その田んぼは今年はやめようと考えている。
 最近では、農産物も安すぎて肥料や労力をかけては採算が合わない。地場産ということで市場に出荷せずに無人販売所に置くこともあるが、品物は減ってもお金はほとんど入っていない。見張り番にアルバイトを雇えば、また採算があわない。
 そんなわけで百姓をやめていく人が多い。

【相続税の問題】
 数十年前は土地を売るときは、1坪約6万の相続税と30万の控除だったが、現在は1坪30万を越える相続税に対して、土地の売値は40万を切ることもある。土地の単価によって相続税を下げてくれれば良いのだが、一定の評価をするため、売却金額が税金より安くなることがある。それで、税金が払えない場合は更地にすれば物納できる。国は物納された土地を競売にかけるが、それが売り渡したときより大幅に高額なことがあるのでその金額は不思議だ。
 農地には相続税猶予制度というのもある。20年間耕作し続ければ免税するという制度だ。しかし、相続のときに例えば子どもが60歳だったら、とても耕作し続けることはできない。もし耕作していなければ当初の重課税を払わなければならないし、20年間続けてもそのころにはもう高齢になっている。それで亡くなるときには、また息子に相続税の負担がかかり、息子が結局売ってしまったりする。そんなことなら、20年も我慢しないでさっさと売っておけば良かった、ということになりかねない。
 そんなわけで、この辺のお百姓は財産は持っていても楽な生活ではない 。
 

残された谷戸を歩く。隣はごみ処理場。
◆都市近郊の里地づくり
 今回は、里地里山保全の問題点である、税金の負担、高齢化に伴う担い手の不足、農業が成り立たない現状などの真相について、実に生々しい声を伺うことができました。
 社会環境の変化の中、里地里山を保全していくためには、所有権と利用権の分離による地権者以外の人々の参画、農産物の地産地消による物流・卸のコストの軽減と地域農業の見直し、市町村独自の助成措置、などの方法があります。しかし、これらを実行するにしても、幾多の、場合によっては非常に深刻な問題がからんでくることが分かりました。
 それでも、各地域ごとに小さなモデルを作ってみて、その可能性や新たに生じる問題を考慮しつつ、これからの仕組みづくりを進めていくというのが、遅いようでいて確実な方法ではないかと思われました。
 
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里地里山保全活動
0. 里地里山保全活動とは?
1. 秋田県鳥海山/ブナの植林
2. 愛知県美浜町/竹炭焼き
3. 島根県三瓶山/山地放牧と野焼き
4. 長野県飯山市小菅/山の手入れ
5. 三重県鈴鹿市/石組み
6. 山形県最上町/地元学 (小学生版)
7. 岩手県西和賀郡/地元学 (地域版)  
8. 北海道白滝村/水路と有機農業
9. 神奈川県横浜市/ケビンの観察会
10. 埼玉県武蔵野台地/落ち葉掃き
11. 埼玉県小川町/自然エネルギー
12. 新潟県佐渡島新穂村/棚田の復田
13. 秋田県二ツ井町/杉の活用
14. 三重県藤原町/里山テーマパーク
15. 宮城県田尻町蕪栗沼/冬期湛水田
16. 京都府綾部市/ふるさと拠点 
17. 沖縄県恩納損村/かまどづくり
18. 神奈川県横浜市寺家町/ふるさと村
19. 千葉県印西市/都市の里山
20. まとめのシンポジウム
人と自然が織りなす里地環境づくり
トキの野生復帰プロジェクト

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