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里地事務局長 竹田純一執筆原稿:生物多様性と里地(1)
里地里山と生き物(上)

「動物たち」124号 平成14年7月号
財団法人日本動物愛護協会
共生への道を探る 5 里地里山と生き物(上)
里地ネットワーク事務局長 竹田純一

 
       
「ふるさとの風景」

私たちのおじいさん、おばあさん、その又、祖父母…。里地里山には、私たち日本人の先祖が、弥生時代に水稲栽培を始めて以来、絶えることなく続けてきた自然に対する働きかけがありました。豊かな森の恵みを受けて、山と里の境に湧きだす清水や沢水を巧みに活かして、山の傾斜地に棚田を設けて、谷あいの集落には、谷戸田を開き、湿地には、沼田を設けました。それらで水を蓄えながら、平らな里の田んぼには、春になると水路に水を引いて、田んぼに水をはり、夏までの間、絶やすことなく田を潤して、稲が穂をつける頃には、田から水を落すことを営々とくり返していました。田んぼと溜池、小川、沼や湖と、陸と林が織りなす四季を通じた緩やかな水のネットワークがありました。
事務局長竹田純一のプロフィールは、こちらへ
       
「里山の樹木と配置」

田のまわりの草地や雑木林では、田んぼの日当たりを良くするための刈り込みや、落ち葉堆肥をつくるために、人の背丈より少し高めに枝を落していました。草を刈って、落ち葉を集めて、さらに、30年周期で雑木を根株を残して世代交代するように伐採していました。この伐採によって、椎茸のほだぎ、燃料、木炭づくりを行い、森を常に新しい雑木林へと若返らせていました。森の雑木や田畑の周囲、裏庭の山に人々が植えた杉、ヒノキ、桐、竹、柿、梅、桜などの樹種や配置、暮らしに必要な本数なども、地域ごとに、また、家族や水田の面積、家畜の数などにより、自然環境の中での配置を決めていました。
 
       
「里地里山の循環」

家を建て、茅をふき、土を練り、絹や綿を紡ぎ、田畑を耕し、水を引くという人々の暮らし。このありようの中に共生と循環の里地のメカニズムが隠されていました。このあたり前の人々の営みは、世代を超えて営々と継承されてきた生活文化です。この仕組みが、20世紀の後半に断ちきられてしまいました。 人間以外の生き物たちにとっては、人の暮らし方の変化は、自然環境=生存環境そのものの変化であり生存基盤の崩壊でした。永々と変わることのなかった人の営みを、突然、人間が、人間の便利さ暮らしの快適さという観点から、自然との関わり方を変えてしまったわけです。里地里山の生き物たちは、遺伝子の中に、人間がこれまで行ってきた、水を水田に張るという行為や、雑木林を更新するという行為を、自然環境としてとらえ生存してきたわけです。それも、弥生時代以降、数千年にわたった環境としてとらえ、里地里山の生き物の遺伝子が書き込まれていたのです。
 
       
「最近の里地里山」

山の樹木は単一化し、雑木林は更新されず、野鳥や昆虫が飛びまわれていた野や林はうっそうと茂り、山の水田の水は枯れ、水路はコンクリートで固められ、農薬、化学肥料、ダイオキシンなどの複合的な変化によって生存環境は断ちきられました。人々の暮らしの変化、現代文明は、生き物との共生の仕組を見落としたまま、共生と循環の構図を破壊してしまいました。

 
       
「里地の生き物」

このままでは絶滅してしまいます。それは、里地のいきものだけでなく、共生と循環の仕組みを失った人間自身にも、やがて、循環型社会という生存のよりどころを欠く結果となる可能性もあります。私たち先祖が継承してきた私たち自身が持続的に生存していくための共生と循環の構図。里地の生き物、そして、人間の生存環境が完全に破壊される前に、私たち自身の手で、私たちの暮らしと環境を復元することが大切です。
 
       
「里地里山の概念」

「里」という言葉は、かつての中国では、周代25家、漢・唐代100戸、明代110戸という集落の規模単位だったそうです。学研漢和大辞典では「縦横にきちんと区画した田畑。居住地」とされています。日本における、里とは、山から下りてきて、人家のあるところ、ほっとさせてくれる雰囲気があるところ、故郷・故里といったところでしょうか。
 
       
「里山」とは、

田畑と家の暮らしを支える薪炭林や落ち葉堆肥の供給源であり、地域によっては田畑や暮らしを支える水源林として機能している所です。最近では、それに留まらず、身近な自然を唯一の生存環境として暮らしてきた多様な生き物たちの生存環境であるという認識がやっと高まり、手入れされた里山の機能を保全しなければ、生物多様性を保全することはできないというところまでの共通認識が得られたように思えます。
 
       
「里地」とは、

1994年の国の環境基本計画に織り込まれた概念で「山地自然地域」「里地自然地域」「平地自然地域」「沿岸海域」という区分で国土を分けた。山地は人の営みがないところ、平地は、農林漁業がないところ、この中間としての「里地」は農林漁業が営まれ、人と自然が共生した暮らしが営まれている場所です。また、環境基本計画の中での環境省の定義は、循環型社会を前提としたライフスタイルの転換の上での概念でもあります。つまり、持続可能社会の可能性は「里地」にあるとした上で、この里地が存続しうるためには、食料と燃料が持続的に生産される地域内循環の仕組みが完結していなければならない。この為の基盤とは、持続型農業への完全なビジョンの転換、燃料や漁業資源を維持するための森林整備と河川の復元、風土の暮らしを基盤とした文化の継承と教育改革を行わなければ、環境省が「里地」にもとめた機能を達することはできません。
 
       
「新・生物多様性国家戦略では、」

里地里山等中間地域という定義が設けられています。この里地里山は、絶滅危惧種の5割が生息している生物多様性の上で大切な地域です。私たちが身近に親しんできたメダカまでもが絶滅の危機にあります。この里地里山をどう保全していくかが、生物多様性国家戦略にとって重要な鍵を握ってゆくことになります。絶滅防止と生態系の保全、里地里山の保全、自然の再生、移入種対策が今後急速に求められてゆきます。

以上(前半)
 
       
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