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寄稿レポート:糸長浩司の欧州エコロジカルレポート(3)
デンマークのオルターナティブ・エコロジーの今 part.1


 デンマークの第二の都市オーフスの近郊林の中で、玄関周囲の草むしりを今終わり、家主のオルタナティブ運動家のクヌッド夫妻とコーヒーをテラスで飲んだ後に、パソコンに向かってこの原稿を書いています。昨日はコペンから車でフェリーを利用して一週間ぶりにここに戻り、夕方はシャワーのお湯を沸かすための薪割りをし、今朝は、近くの麦畑を散歩して、麦のストローの青臭い臭いに、少年時代過ごした田園生活の日々を思い出したりもしています。
 さて、今月は一ヶ月あまり、デンマークに滞在しています。テーマは、3つ。一つは、都市住宅におけるアーバンエコロジー的な試みの現場を訪れること、二つは、30年ほどの歴史があるコハウジングの現場を訪れること、3つは、2年前に訪れた郊外で展開されているエコビレッジでの滞在や世界のエコビレッジ運動をリードしているデンマークのガイヤトラスト等のエコロジー運動家達との交流です。この2週間の間に、とりあえずざっとこの3つのテーマを消化してきたところで、中間報告的な通信を発しています。

糸長浩司 日本大学生物資源科学部助教授
パーマカルチャー・センター・ジャパン代表
 
       
デンマークのオルタナティブとエコロジーの波の背景

 今回、デンマークの滞在でお世話になっている人物は、クヌッド・P・ピーターゼンです。雑誌『BIOCITY』のNO15に、デンマーク・北欧でのエコロジーの動向を執筆している60代後半の人物です。彼は、『ノルディック・ネットワーク』という新聞の編集者でもあり、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン等のオルタナティブ運動の中心的な人物です。先週は丁度、EUの議会選挙でしたが、92年にデンマークはマスコミ等の予想を反して、EUの大きな経済的統合に関して国民は、NOと回答した歴史があります。これ以前から、ヨーロッパが、巨大資本や巨大政治、巨大市場化する傾向に対して、もう一つの別の地域自立と連帯の新しい将来ビジョンを北欧で追求しようとしている人達の運動の成果でもあるし、また、小国デンマークの長い歴史的な遺産が大きく寄与しているわけです。
 彼らが、丁度92年の選挙の後に出した出版物『もう一つのヨーロッパ、デンマークのビジョン』という本には、エコビレッジの運動を展開している、ガイヤトラストの主催者のジャクソン、クヌッド、風力発電等の代替エネルギー開発の先駆者であるフォルクセンターの主催者のメゴード等が執筆しています。巨大集中化に対して分散、巨大市場経済化に対して地域経済に支えられたエコロジーな経済、そして、その先進的なモデルを北欧の中で実現してみせていくというビジョンが書かれています。90代の最初の時期に、ノルディック・オルターナティブ・キャンペーンを展開しています。ECとしてのヨーロッパ・コミュニティの形成は良いとしても、マスとして巨大化し、トップダウン的で密室型の政治や、巨大市場経済により多様な地域の歴史や、文化やコミュニティが崩壊していくことに対する大きな危機感が彼の運動を支えてもいるし、また、それに変わる新しい地域社会の形成のバイキング的な先駆性の歴史もあるのでしょう。グルンドビのフォルクセ・フォイスコーレという農民ための生きた学びの場づくり(国民学校と日本では戦前翻訳され、日本での戦前の展開は大陸侵略との結びつきで不幸な歴史があるが。)の歴史は、今の継承され、試験のない自由な学びの場が青年から老年までを対象に作られてもきている。
 こんな背景の中で、もう一つの地域社会の形成の将来ビジョンとして、コハウジングの試みやエコビレッジの試みが起きてきていると洞察することができます。ガイヤトラストの主宰者のジャクソン達も、30年に始まったコハウジングの先駆的な推進者であり、そこで子供達を育ててきたと言っていました。
 
       
コハウジングの暮らし

 コハウジングという、集合住宅で個別の住宅の他に、コモン・リビング、コモンキッチン・ダイニング、大型洗濯機等がコモンルームとしてセットされ、週に何回かの共同の夕食をするというような暮らし型であり、働いて子育てをしている若夫婦や、老人の一人暮らしの人達にとっては、快適で、コンビニエンスな集住の魅力の場となっています。
 最初はコミュニティの崩壊等を含めて、新しい社会的な実験として先駆的な人々によって60年代の世界的な若者革命の時代に始まったものです。現在では、デンマークに1000以上のコハウジングがあると言っていました。この考え方は米国に輸入され、米国では現在非常に盛んになっているようで、コハウジングという雑誌も発刊されています。
 さて、今回のデンマーク滞在中も何カ所かのコハウジングを訪ねています。クヌッドの従兄弟で60年代からコハウジング運動に関わり、現在もシミアー的色彩の強いコハウジングの居住者の建築家の自宅を訪問した。彼は、まだ現役の建築家であり、オーフス市が今年実施しているオーフスの近郊住宅地開発のアイデア・コンペの応募案の下書きを見せてもらった。60才を過ぎているのにトレペに自分でドローイングをしているのには驚いた。現役である。また、夢を持っている。コハウジング一筋という感じである。コンペへの提案も、電車で4000人規模のコハウジングの住宅地を郊外につないでいくというものである。また、中心部のハーバーにも、船を利用したコハウジングの開発計画も提案されている。中国の水郷地域を思わせるような提案ではある。ただ、基本的には、住宅地としての提案であり、そこでの自給自足的な計画にはなっていない。中心部の都市に通うという計画のようである。
 また、クヌッドの娘夫婦が10年ほど住んでいるオーフス近郊のコハウジングも訪れ、住民の人達との共同の夕食に参加し、その後は、北欧の長い夜の一時をサッカーをして楽しみました。昔懐かしい、子供時代の青梅の農村で暮らした時の夕食後の夕涼みでの近所つきあいの風景が脳裏をかすめました。
 ここは、12年前に建設されたコハウジングで、建築事務所がプロモートして、人達を集め、約一年近くのミーティングと計画づくりを共同でした。基本的な建築は建築会社がしたようだが、多少の建築の仕上げ作業は住民が参加している。36世帯の表札がある。中心にコモンハウスがあり、その周りに二つのクラスターの住宅群で形成され、中心がコートになっている。その外側に芝の運動場がある。開発後の管理運営は、住民の自治組織で行っている。集会は月に一回程度。共同での食事は一週間に4回であり、5週間に一回の割合で当番が廻ってくる。共食に小生も参加した。雰囲気は、勝手に各グループでテーブルについて食べ始めている。小生も紹介された時だけ、みんなの意識が集中した程度で、普通のレストランの食事風景ではある。食費は、一日大人一人当たり、15クローネの供出というから、300円程度である。共食は義務として出なければいけないという感じではなく、献立を見てどうしても食べたくないメニューの時はこないということらしい。その点は自由さはありそうだ。住宅の価格は、150万クローネというから、日本円で3000万円程度。ただ、小さい子供の家族の割合が多い感じであった。彼女に言うには、子供のケアー等が十分に出来るメリットがコハウジングにはあるという。従って、子供が大きくなった家族はコハウジングから出ていくこともある。最初の計画から参加者で現在まで居住している家族は全体の25%程度というから、定住率は高いわけではない。旦那と話している時では、コミュニケーション関係の煩わしさを言っていたが、食事後、みんなとサッカーを遅くまで楽しんでいるところを見るとそんなでもない。楽しいコミュニティ生活、ゆったりとした居住地での暮らしをしている感じである。
 コモンハウスは、一階のフロアーがキッチンとダイニングで、中二階が会議とサロンの居間的な部屋であり、地下に幼児の遊び場と卓球台、アスレチックの部屋と音楽室、共同の洗濯室が用意されていた。夕食後近くの4人で散策。周囲は住宅地の開発状態であり、オーフスまで30分程度で、駅も近いこともあり、比較的良好な住宅地となっているためか。民間開発の住宅地が大分建っている。小学校は10学年(7才〜16才)で300人程度というから、それほど大きくはない。また、近くに幼稚園もあったし、児童館も用意されていた。小川もあり、大きなサッカーのできる広場もあると住宅地の一角に位置している。隣の敷地には、民間の住宅地開発地となっていた。
 エコビレッジをリードしているジャクソンの書いている記事に、3つのエコロジー(生態系、精神性、社会性)的な内容があり、コハウジングは新しいソーシャル・エコロジーの伝統をエコビレッジに引き継いでいくことになる。

 
       
エコビレッジの暮らし

 デンマークには、新しい実験的で、かつ、環境に配慮した、エコロジーで持続的な暮らしの場づくりの運動として、エコビレッジづくりの運動がある。それを中心的にリードしている団体が、ガイヤトラストという非営利団体で、第三諸国のエコビレッジ運動や、パーマカルチャーの普及に対して助成もしている。また、95年に英国のスコットランドで開催された第一回世界エコビレッジ会議を主催した団体であり、その延長線上で、現在、GEN(グローバル・エコビレッジ・ネットワーク)の組織が結成され、その中心的な機能を果たしているのがガイヤビレッジです。国際会議の開催に先駆けて、ガイヤトラストは、世界のエコビレッジ的な調査レポートを出版している。その主宰者のジャクソン夫妻の婦人に今回、事務所で会った。クヌッドの昔からのノルディック・キャンペーンの知り合いでもある。彼女たちはコハウジングの先駆者であり、コハウジングでの自立性や、持久性、及びエコロジー性の限界に気づき、もっとサステーナブルで、エコロジーなコミュニティづくりとして、エコビレッジのモデル形成の必要性を感じ、その世界的な動きを起こそうとしているデンマークのグループである。
 2年前には、5、6カ所のエコビレッジを急いで廻ったので(この報告は、雑誌『BIOCITY』の1998年版で報告しています。)、今回はじっくりと2,3日滞在する予定できている。コペンハーゲンから西に、電車で1.5時間ほどの海岸線に近いトーラップのエコビレッジで3日間過ごしてきた。
 駅のすぐ裏がエコビレッジである。デンマークで最初のエコビレッジの試みであり、パッシブ型のドームハウスや、壁がストローベールで地下住居風の建物や、ユニークな住宅が建ち並んでいる。基本的には、南面してグラスハウスを持つタイプの住宅である。建設方法は、最初にエコビレッジの組織を立ち上げ、土地を13●●ほど購入し、その内の5●●が住宅地用地であり、この住宅地は5つのコハウジンググループ形成されている。現在も、最後のグループの住宅建設が始まっていた。ストロベール建築である。その他の土地は、農地等である。完全な自給は難しいようである。また、汚水処理も自前の植物浄化のシステムを建設しているが、冬期間の性能低下のため、現在別の処理施設の新設工事が始まっている。ここのビレッジの特徴としては、コモンハウスが既存集落のはずれの古農家の建物を活用していたり、また、同じ敷地内に既存集落の人達と共同で利用する集会施設を建設している。その建物の中には、国が補助している地域版のエネルギー・環境センターの事務所があり、スタッフにはエコビレッジ人がいる。電力も敷地内に既存の集落の人達との共同組合で設立した風車の電力供給でまかなっています。
 エコビレッジが孤立してあるのではなく、既存の集落の活性化にも寄与するような仕掛けとなっている。この建物の隣は幼稚園をエコビレッジ人達で経営している。また、地域でのエコロジーな暮らし型の先駆的な場所の近くにこのような情報センターを設置することのメリットを感じる。もともと、このエコロジー・センターの設置も、地域の草の根運動の成果として、国から獲得したようである。その中心的な場所が、フォルクセンターである。
 ここでの居住者は、現在大人70人、子供30人程度であり、比較的小さい子供世帯と老人居住が目に付く。建設当初から続いて住んでいる人達は10人弱である。段々建物が増えて現在の居住者になっている。老人達と話していると、コミュニティを支えていく若い世帯の居住を希望している。3日間の滞在期間中でも、2回の老人グループのエコビレッジの見学があり、それを案内しているのは、最初から個々に住んでいる老人達である。
 今回の小生の対応役のイグおばさんの自宅でお茶をごちそうになる。3人の独身おばさんが居住しているテラスハウスであり、玄関と居室は別であるが、表のグリーンハウスのテラス部分は、コモンスペースとなっている。なかなか快適なコモンスペースである。65才以上の老人居住者は10〜15人程度という。若い人達の居住を望んでいる。ただ、若い人達も外で働くので、日常的にビレッジにいる人達がほしいようである。
 新しい住宅を作っている建設担当者のクリスチャンに会う。彼は古いメンバーであり、最近離婚したらしく、妻と子供は前の家に住み、彼はドイツ製のコンテナに住んでいる。現在新しい住宅を建設中である。また、その住宅の横に、若い人達にレンタルするための住宅をストロベールで作る予定で基礎工事をしていた。ユニークな点としては、床の断熱材として、貝殻を敷いていた。安く大量に入る有機材料の活用ということか。彼が言うには、建設材料にも環境を考慮したものを活用するようになっている。彼の新しい家も同様に貝殻を土の上に敷き、その上を土で固めて、床を張るという方式のようだ。屋根の断熱材は新聞紙のチップの断熱材の利用である。壁は、古材を活用していた。
 夕食は、事務所のある建物の共食に参加した。参加者は、比較的少なく、子供を含めて30人程度であった。若い人達は外の芝で食事をし、年寄りは中の食堂で食事をするという感じであった。食事代として、小生は25DKKは払った。安いものである。
 どうも、ここのエコビレッジも世代交代が進んでいる感じであり、リーダーは若い人達に変更しつつある。3年前からの新しいチェアウーマンは、40代であろう。現在の理事会は6人のメンバー構成であり、頻繁に会議を持っているようである。住民集会は年に4回程度という。
 タイチーの先生でもあるエレンおばさんの土の家を見せてもらう。壁と屋根の断熱材に紙、及び、ストローベールの利用である。彼女は東洋神秘主義とタイチーが好きで、建物の頭部の光窓は、北極星の光が射し込むようになっている。その場所は、昼間は診療所を兼ねた居間であるが、夜には、温水を引いて浴室に変化もする。入り口を入って、左右にグリーンルームがある。とても暖かい感じである。右側の温室は台所になっている。トイレはコンポストトイレであった。寝室は中二階の棚を活用している。また、入り口を入ってすぐの部屋には、フィンランド製というマスストーブの大きなのが設置されていた。室温は、15度程度は保てるようである。床下暖房も温水でしている。
 その後、彼女にタイチーを習い、その後、日本の農村やパーマカルチャー関連のスライドをコモンルームでする。日本の情報に興味を持っている。
 最終日は、朝、コモンハウスの前の庭で、エレン達とタイチーをする。女性4人と若者一人が参加していた。その後、ドームハウスの居住者のハンナを訪れる。彼女は、最初からの居住者である。彼女は以前は先生をしていたらしいが、その後、結婚、離婚でその後、スウェーデンにも住んだことがある。デーマークに帰ってきてから、雑誌でここのエコビレッジの試みを知り、また、ドームハウスの構想が気に入って個々に住むことを決めたらしい。一種のニューエージムーブメントに興味のある人であるらしい。現在は一人で住んでいるが、姪が隣のドームハウスの居住者である。ドームハウスにも色々タイプがあり、彼女の物は、地下室があるタイプであり、地上は、正面の奥の左側がキッチンで、その上が寝室となっている。全部開放型である。窓が目玉型のドームである。ストーブは最新式のマスストーブであり、湯を沸かして集中暖房にも使用している。とても、光の明るい室内である。冬でも室内は、10度程度には下がらないという。ストーブも薪を6〜7個程度で足りるという。ただ、新鮮な野菜の生産が少ないのをこぼしていた。彼女のドームハウスには、グリーンハウスが付いていないので、野菜づくりは敷地の外の農園での利用しかなく多少不満の様子であった。ドーム型のグリーンハウスが農園の奥にあり、その活用を若者に任せたが、結局だれも利用していないという。どうも、居住地から遠いことが原因ではないか。彼女は、現在の暮らしに十分満足している感じ。共食の当番は、月に一回程度はある。そのときは一人で全てするという。月の夕食費を出さなくてよいらしい。
 小生がエコビレッジの第1世代は納得してここに住んでいるが、第U世代はここでの生活を不満に思うことはないのかの質問に対して、絶えず、新しい考え方で発展していくようにしていくことが必要である旨の意見を言っていた。新しいものにいつでもチャレンジできる環境があることがのぞましい。比較的、小さい子供持ちの家族と一人暮らしの老人達のコハウジングの大規模な居住形態であり、環境に配慮した住宅建設という点での、エコビレッジであり、それ以上の総合的な自給自立型のエコビレッジを実現していくにはまだまだ乗り越えるべきハードルは大きい感じである。デンマークのエコビレッジの歴史は、ガイヤトラストのジャクソンが言っているように、コハウジングの延長線上にあるという意見が腑に落ちる。
 彼女は絵が好きであり、彼女の家をスケッチした水彩画をあげたら非常に喜び、同様のタッチの近くに住む絵の先生のポスターを小生にくれた。
 デンマークのコハウジングやエコビレッジの運動をリードしている人達との出会いでした。社会生活、近隣生活のあり方として、住宅がどうあるべきか、どう住むべきかの視点から、コハウジングや、エコビレッジが形成されてきた感じです。もちろん、パッシブソーラーや、環境配慮型の建築材料による断熱や、二重ガラスでの共同通路やテラスのグリーンハウス化が、新しい環境配慮型の住宅では一般化しています。ハードな建物建設だけでなく、コミュニティの再生、コミュニティの構築が大きなテーマです。
 デンマークは福祉国家ですが、近年の高齢化率や生産年齢人口の減少等で5割の税金と25%の消費税だけでは、老人の介護を老人ホームで続けることは財政的にも難しいし、また、老人の自立を促すためにも、ホーム対応ではなく、個別での自立的な暮らしを地域社会が支えていく方向に代わりつつあり、その点では、若い世帯と共同住まい的なコハウジングやエコビレッジの暮らしは関心が持たれているようです。滞在していたエコビレッジでも老人の団体が見学が見られたのもそんな背景があるのだと思います。
 日本での将来的なエコハウスやエコロジカル居住地の形成の視点も同様です。どういう住まい方、どういうコミュニティ社会を形成するのか、そしても環境に対して配慮し、持続性のある住宅とは何かというソフトな視点が抜けた住宅展は、所詮、建築家や建設産業のためのものでしかない。どういう住まい方なのか、人間関係はどうなのか。高齢化の中で、100年持つ住宅としての住まい方のソフトな提案も含めて、どう共同で住み続けるのか。田園地域でも、新しい共同的な住まい方を提案し、集住することの魅力や持続性、相互扶助の関係を住宅建築の段階から進める等のアプローチが必要だと思います。技術主義的な対応に陥りがちな日本での大きな課題でしょう。

 
       
コペンハーゲンでのアーバン・エコロジーの見聞

 2年前に入手した『アーバン・エコロジー・ガイド/コペンハーゲン』に記載されている住宅地や、コモンスペースを見る機会をもった。
 デンマークの環境政策は、ここ10年ほど非常に熱心である。92年のリオの環境サミット以降、風力発電の開発、バイオガスエネルギーの開発等盛んであり、かつ、大きな経済効果をあげている。世界的にもこれらの技術の輸出国となつている。日本でもデンマークの第一の風力発電メーカーのミーコン社の風車が立川町に建っている。国内消費電力の10%を風力発電でまかない、そのほかには、バイオエネルギーとして麦藁を燃料にした発電施設や、畜産糞尿を集めて大規模バイオガスプラントで発電と温水を生産し、地域にパイプで供給しているプラントを、オーフスの近郊の田園地域で見てきた。そこで処理された液肥は、有機農家に供給されるエネルギー対策、畜産糞尿対策、有機農産物の生産との同時性を進めている。
 アーバン・エコロジーの動向は、1995に中央政府の環境省から、『THE ECOLOGICAL CITY DENMARK』というレポートが、OECDに対するナショナル・レポートとして作成されている。都市の住宅地の再開発に当たり、パッシブ型の住宅への立て替え、南面や西面するバルコニーを二重ガラスで囲み、グリーンハウスをつくるタイプ、また、コハウジングのような集合住宅での入り口とコモンスペースとなる通路やテラス等は、ガラスの大屋根が設置される。また、熱吸収率をあげるための、壁面が真っ黒という住宅も見られる。殺風景な中庭をビオトープ的に改造している都市住宅も出てきている。ただ、その中でドイツで試みているような汚水の植物浄化システムまで採用しているものはまだないようである。
 日曜日のコペンハーゲンの市庁舎前の広場では、イベントが開催されていて、環境系の団体の催しがあった。風力発電のデモンストレーションを市民がしていました。40mもある羽を設置して、コペンの湾岸に設置する計画を市民が提案しているものです。そのほかには、海の波力での発電機械の紹介等もあった。
 都市住宅でのアーバンエコの試みは、コペンの事例を見た限りでは、パッシブとアクティブでのソーラーシステムの採用、ガラスによるテラスのグリーンハウス化、雨水の地下貯水利用等が中心的なところであろうか。中央政府が支援している情報センターとして、近年、オーフスに、「アーバン・エコロジー・センター」という機関が設立された。ただ、小さい機関であり、まだ、情報収集とセミナー開催等の活動だけのようである。来週には、そこが主催するドイツのアーバンエコに関するセミナーに参加予定。
 以下に、ガイドブックで紹介されていたコペンハーゲンのアーバン・エコの場所の幾つかを紹介する。
●NO2, BO20, TJORNEGADE 9 インナーシティのコハウジング
 比較的参考となる集合住宅で、コハウジングで改造された都市内の住宅。屋根は一面、古い建物と新しい建物が一緒に一つの街区を形成している。中庭は、みどりが適当に配置され、子供の遊びや、集会のできるグリーンがあり、丁度、街区住民の野外パーティの準備を住民達がしていた。中庭には、ゴミステーションもあり、分別収集されていた。みどりも比較的豊である。ただ、菜園のようなものは見えなかった。建物角は、コモンの食堂のようであり、今日の昼食の準備を若い女性がしていた。コペンの都市内の住宅は街路からは閉鎖的で中庭の感じはほとんど外からは見えないが、ここは、外に対して開放的であり、中庭でのアーバンライフが見られた。

●NO33, OKOLOGISKE LGANGSAETTERE, GULDBERGSGADE 8 アーバン・エコパーク
 コペンでの若い連中の最初の都市内のエコ的な公共の場所の建設箇所であり、街区の中央部分を子供達が楽しめるような自然公園や、菜園、遊び場、池等が建設されていたが、どうも様子がおかしい。荒れている感じで、バンダリズムもある。池には水がない。グリーンハウスも利用していない。どうも、活動を熱心にしている雰囲気がない。事務所もない。そこで池にいた人に聞くと、どうも市当局がここに住宅計画を持ち上げたようで、いままで活動していた住民達が活動を中止しているようである。良くあるパターンである。彼の印象では、エコロジーブームが5年ほど前は盛んであったが、現在はどうかということか。

●NO5, MARIENDALSVEJ 14-18 シミアー型コハウジング
 老人達の居住を対象としたコハウジングとエコ型の集合住宅のプロジェクトである。95年に出版された、『エコロジカル建築 デンマーク』等でも紹介されているエコ集合住宅である。内部等は別の日に訪れる予定にしている。開放的な中庭とそれに面したテラス等の感じが比較的落ち着いていてよい感じではある。ただ、シミアー型のコハウジングはその持続性に対して、多少不安を感じるところである。

●DANNEBROGSGADE 18 都市内集合住宅
 旧来の集合住宅の一部を西向きのテラスをガラス張りにし、かつ、雨水を地下貯蔵している初期の計画のもの。建物周囲は、バンダリズムの宝庫という感じではある。壁面は、確か、以前、パーマカルチャーリストのリーハリソンがコペンの事例として、地域住民が再開発に対して反対し、立てこもっていたという団地の景観と似ていた。この場所かもしれない。壁にコミュニティの壁画が大きく描かれていた。

●NO13 EGEBJERGGAR 環境共生型郊外住宅地
 モデル住宅地として整備された場所で、南側にそれぞれガラスのテラスを持ち、熱効率をあげている。周囲にも、数多くの環境配慮型の共同住宅が建っている。特徴的な物としては、円形の土楼型の集合住宅もあった。同じように、南側の外面の共同空間の部分やテラスに相当する部分がガラスの張りの部屋となっている。雨水の貯蔵、断熱、ガラス室の採用、ソーラーパネル、パッシブ・アクティブのソーラー住宅は、90年代のはじめ頃から、環境共生型の住宅の一般解としして普及しているようである。コートを囲む建物形態を多い。また、外壁を真っ黒に塗っている住宅もある。熱吸収をあげるためであろう。
 変わった住宅が、池に面してあった。屋根が一種のこれら葺きといえるもので、外壁の板と同様の素材で仕上げられている。

●VILLA VISION オートマチック型モデル・エコハウス
 研究所が郊外の田園地域に立地しており、その一角にモデル住宅として建設されたもの。全部電動で室内環境をパッシブ的仕掛けも含めて調整する。花びらが開いたり、閉じたりするような形態の一種のSFチックな建物である。ただ、環境的には、孤立して、工場の間にある感じであまり周囲の環境は良くない。トップの遮蔽は、電動で区分されたテントが覆ったり、巻き取られたりする仕組みである。ここまで、機械仕掛けですることもないとは思うが。ガイドブックではモデル家族がここでの生活を体験していると書いているが、今は、事務所的な機能だけのようである。この建物の後ろには、ソーラーパネル等の展示場所もあった。

●ENGHAVE PLADS アーバン・コミュニティ・ガーデン
 コミュニティが中心となって整備したはずのアーバンガーデンのはずであるが、建物には落書きがされ、建物の前の農園か花壇も手入れが行き届いている感じではない。活動は不活発のようである。時期的にまだ、夏ではないからかもしれないが。主要道路の交差点の広場部分を活用している。期待していた、コミュニティ・ガーデン的な雰囲気にはほど遠い。騒がしい交差点の中の広場では。

●KARENS MINDE コミュニティ・ファーム
 エコロジカル・コミュニティセンターというふれこみ。古い建物の一部は喫茶店になっていて、その周囲には小学校の子供達が世話をしている動物たちの畜舎と運動場がある。丁度子供達が動物の世話をしていたが、日曜日であり、喫茶店と事務所はしまっているようである。英国のシティ・ファームの小型版のようである。

●コペンハーゲンの解放区の自治区・クリスチァーニア
 知る人ど知る、コペンハーゲンの解放区であり、かつての軍の施設を都市の若者が占領し、自治区を形成している場所である。コペンのかつての星形のお堀の一角を占領して、自治的な機構を構築し、自治運営している場所である。都市計画の中で、この場所を再開発する計画もあったが、現在は法的にも公認された自治区になっている。外観は、派手なペイントが壁が描かれていたり、メインストリートで大麻を販売したりもしているが、地区内はみどりもあり、占領当時からの思想である都市の中の自由で環境的にも優れた居住地の形成を自主的に進めてきた中で、多少、2年前より環境的にも良くなってきているし、雰囲気も明るい。多くの観光客が来ている感じである。ここで、昨年、オーストラリアのパーマカルチャーリストのジェフがパーマカルチャーのコースを開いたので、そのことを住民の一人の女性に聞くと、彼女も生徒の一人であった。その後のパーマカルチャーの試みは、一カ所の緑化をした程度であまり熱心にしてはいないという状況らしい。自立的な建設作業の住宅づくりがDIYで進んでいる。ここでは、有名な日本のリヤカーを前後逆にしたような、クリスチァーニアバイクという荷台付きの自転車が開発され、コペンの市内を走っている。
 以上、コペンのエコアーバンの試みは、建物に関しては、テラスのパッシブ化。ガラスの利用。雨水の地下所蔵、中庭の緑化等である。多少、コハウジング的なコミュニティの試みと一緒のものもある。しかし、どうも、インナーシティでのバンダリズム等の問題か、他民族の共生の問題か、週末ということか、しっかりと鍵のかかった中庭と落書きの多い住宅の道路景観を見ていると、それほど、エコシティとしての試みが感じられる景観とはなっていない。また、訪れたコミュニティ・パーク的な試みの箇所も活動停止のような状況であり、どうも低調というイメージを抱かざるを得ない。道路は、相変わらず、車が激しく動いている。空気もさほど良い状況ではない。落ち着いた都市の散策という感じにはほど遠い。先に、報告した英国でのコミュニティ・ガーデンや、シティ・ファーム的な市民活動の方がアクティブであると感じる。

 今週は、フォルクセンターでのストロベールのシンポに参加したあと、ガイヤ・トラストのエコビレッジに滞在予定です。
 
 こちらも天候は不純ですが、ここの何日かは天気が良好です。日が沈むのが夜の10時過ぎですので、長い夜をどう有効に過ごすかは、北欧の夏のビジョンでしょう。
 日本は梅雨とのこと、皆さんお体に気をつけてお励みください。

 
       
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