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寄稿レポート:中島恵理の欧州里地レポート(2)
スウェーデン エコビレッジの旅路

目 次
1. 「手作りのエコビレッジづくり」 パワフルなガングラウグさんとの出会い
2. Smeden 美しい里地のエコビレッジ
 
     
1.「手作りのエコビレッジづくり」 パワフルなガングラウグさんとの出会い

  ストックホルムの中心街から、地下鉄、バスを乗り継いで約40分程度の距離の地に、手作りで作り上げられてきたEKBOと名づけられたエコビレッジが存在する。
 ここは、以前療養所として用いられていた建物をエコロジカルなコーポラティブハウスとしてよみがえらせたものである。スウェーデンといえば湖と森の国、ここも美しい湖の湖畔に位置する雑木林に囲まれたスウェーデンの魅力にあふれた美しい場所である。
 1994年に、ストックホルムのある保育所に子供達をあづけていた数人の人々が、若者も年よりも一緒に暮らせる生活を実現することを目指して小さなグループを作ったのがこのビレッジの始まりである。このグループは、北欧諸国のコーポラティブハウジングについての研究調査活動を行っていたガングラウグさんに彼らの夢の実現の手法を相談した。この夢の実現に関心をもった彼女は、そのグループといっしょになってエコロジカルコーポラティブハウジングの建設にメンバーとして関わり、現在このエコビレッジの中心的な存在となっている。
 ここのエコビレッジの特徴は,既存の建物を自分たちで改造していること、リサイクルの家具、施設をふんだんにもちいていること、共有空間、共有物を数多く有しているところである。この療養所を購入した後、各メンバーは、建築家のアドバイスをうけながら、自ら、各自の居住空間の改造を約1年かけて行っている。この作業には子供も積極的に関わっている。興味深いのは、全ての水洗トイレを小便、大便2分式のコンポストトイレに改造しているところである。各トイレからの小便は、まとめて一つのタンクに集め、森の中に還元し、大便はそれぞれのトイレの中に設置されたごみ箱の中に集められ、しばらく森のそばで放置された後、コンポスト化され、これまた森林への肥料として還元されている。家具や台所、浴室等の用品としてどのようなものを用いるかは各自にまかされており、多くの人は、街で用いられなくなったリサイクル家具やレストラン等での台所製品を、美しくペンキを塗りなおすなどして用いている。、一方共有部分は建設会社の助けを借りながら進められている。現在30世帯がすめるように、ワンルームから5LDKまでさまざまな形でのハウスがあるが、それぞれ住む人の個性にあわせて、自由に、おしゃれに、そして住みやすい形にデザインされている。
 共有部分は、テレビルーム、洗濯機のほか、冷凍庫(一つの冷凍庫に複数の人の冷凍スペースが作られている。)サウナ、作業所、事務所そして、みながいっしょに食事をするための食堂と台所等である。また,自動車等についても、3つのカープールと1つのバイクが共有されている。このような「共有」が進められている背景にはみなが一づつ所有するよりは、共有したほうが省資源、エネルギーであるし、共有を通してコミュニケーションが図られるという理念がある。一方これらのものを個人が個別に所有することが禁止されているわけではない、メンバーが各自の好みに合わせて自由に選べるようになっている。食事については冬の間は毎日みなで食事を楽しめるように、皆で交代で食事が作られている。この食事に参加するか否かももちろん、各自の自由である。また、このような食事作り、掃除、共有部分の改造、新設等コーポラティブハウスにおける各種の仕事をこなすためにグループが作られ各自が交代で担当するようになっている。現在、各種の共有部分のスペースが建設中である。このエコロジカルな共有に関して、一つ満足していない部分があるとグングラングさんは語る。エコロジカルハウスにおける最も重要な部分、エネルギーについてである。冬の寒さの厳しいスウェーデンでは,住宅をどのような手法で暖めるかはとても重要な課題である。そのエネルギー源として、住民の間での議論の末、木質ペレットを用いたバイオエネルギーが導入された。 議論の中では、湖の水のエネルギーをもちいるという案もあったが、ポンプアップをするために新たな電気を要すること等から現在の仕組みが合意された。しかし、大規模な設備による多額な設置コスト、大きな騒音、ペレットを貯蔵するための広い場所が必要であるなどの問題を抱えている。
 現在大人40人、子供20人が居住しており、家族、単身者、離婚した夫婦(コーポラティブハウスの中で別々のハウスを有している)等さまざまな形での入居が可能となっている。またその中には重度の身体障害者の方もいて、彼が自由にアクセスできるよう、建物はさまざまな工夫がこらされている。コーポラティブハウスは、孤独になりがちな都市生活の中で、個別のプライバシーを保ちながらも、共有部分を持つことで、お互いが助け合いながらともに生活をする場である。このEKBOでは、ここに住む全ての人々の生活を尊重しつつ、お互い協力をしながら各自の夢が実現できるような場づくりが目指されている。将来のプランとしてハウス内のデイケアセンターや保育所、LETSシステムの導入等が考えられている。
 このエコビレッジのシステムは、GEBERSという法律上のコーポラティブハウジングの協同組織とエコビレッジとしてのEKBOとの2重構造で構成されている。土地、建物はGEBERSが所有し、住民は入居する権利を購入し(約100m2 のハウスの場合270,000クローネ=約324万円)、月々光熱費、管理等のコストをGEBERSに支払うこととなっている(約100m2 のハウスの場合4500クローネ=約5万4千円)。住民は、エコビレッジから出たい場合は、自らこの権利を売ることができるが、これは利益団体ではないことから、個人が購入した額と同じ額で売ることとされている。この額は市場価格と比べればかなり低廉なものとなっている。運営組織としては、GEBERS上の委員会とEKBOの委員会が設置されている。18歳以上の住民による選挙により、毎年委員が選定される。GEBERSの委員会は、このハウジングの経済的側面、政府への報告等を、EKBOはその他このエコビレッジの生活にかかわる全ての事柄を扱っている。意思決定は、基本的に全会一致、場合によっては多数決で行われる。EKBOの委員会は基本的に住民にオープンにされているが、GEBERSは個人の経済的状況等プライバシーに関わることを扱うこともあり、公開されていない。グングラングさんは、組織の民主化を徹底するため、住民への十分な情報の提供、オープンな議論の充実がまだまだ必要であるとしている。政府からの援助としては通常の住居取得に関する利子補給を受けているほかは、ハウジングの建設のためには特別の補助は受けていない。政府からの支援は、完了した工事について支給されるものが多く、常に成長、変化をして終わりのないこのエコビレッジとして補助金を得るのは非常に難しいという。一方、エコロジカルなコーポラティブハウジングについての研究調査のための費用を環境保護庁から得て、普及啓発のためのパンフレットを作っている。
 
     
2. Smeden 美しい里地のエコビレッジ

 ストックホルムから南へ電車で3時間程度の場所にヤンシェーピンという町があるが、園町の中心街から4キロほどはなれた農村地域に、Smedenとよばれるエコビレッジが建設されている。ビレッジの建設前は農地として用いられていた場所であるが、現在は、住居の周辺に植生復元がなされており、またビレッジの周辺は自然保護地となっていて、自然と人の生活が調和された非常に美しい場所になっている。
 このビレッジは、行政の環境政策をきっかけに建設がはじめられている。1988年にヤンシェーピン市がエコロジカルな町作りを進めるための取り組みが開始され、1990年には、エコビレッジ研究会が設置され、エコビレッジ作りに関心のある市民がこのプロジェクトに加わり、自らの参加によりエコビレッジを計画し、建設する機会をえることとなった。この過程を経て、エコビレッジに住むことを希望する数人のグループにより、環境建築家と建設会社との協力のもと、エコビレッジを建設することとなった。今回訪問したピアーラッセンさんはその当時の中心メンバーの一人である。
 このグループでの議論の末、以下の基本理念のもと、エコビレッジの建設が始まった。

1 自然のメカニズムとの調和−−地域の気候、地形、文化に合わせた住居作り
2 賢明な資源の管理−−省資源、省エネルギー、自然素材の活用
3 閉じた循環の実現−−エコビレッジ内での循環システムの実現
4 健康的な家作り−−自然素材の活用、十分な換気システム

 まず1に関して、全ての住居は南向きに建設され、各住居には、太陽の光を十分取り入れることのできるパッシブソーラーシステム及び屋根に太陽電池が導入されている。また、家の前面には、家の内部と外庭とのバッファーとしてのガラス張りのサンルームが設置されており、ピアーさんは、露地では栽培が困難なきゅうりを栽培していた。日の当たらない北側に面する部分には貯蔵庫が設置されている。
 2に関しては、スウェーデンの木材を用いた木造作り、自然素材を用いた断熱効果の高い壁作り(側面25cm、上部50cm)がなされており、壁の表面には蜂のワックスが塗られている。家の外部のペンキとしては、スウェーデンの銅鉱山での加工過程で生じる廃棄物であるえんじ色の酸化鉄(Iron Oxide)が用いられており、木の防腐剤としての役割を担っている。(スウェーデンの多くの家が美しいえんじ色に塗られているが、これはこの酸化鉄のペンキによるものである。地域資源の有効利用が、美しいスウェーデンの家並みを形成しているのである。)エネルギー源としては、太陽光及び暖炉の熱を用いた温水による床暖房システムを導入している。水は深井戸から得られる地下水で全ての家庭の水をまかなっている。
 3については、各家庭に割り当てられた200m2の農園において各自の好みに応じて、有機野菜や花が栽培されており、新鮮な野菜をふんだんに用いた食卓が実現されている。生ごみや庭から生じる廃棄物はコンポストとして畑に戻されている。また、トイレは小便、大便の分別式水洗トイレとなっており、各家庭からの小便及び下水汚泥は一箇所にまとめられた後、地域の農家に販売している。大便は、各家庭の地下に設置された細菌コンポストにおいて分解された後、各家庭の農園に還元されている。分別式水洗トイレには大、小別の水を流すためのスイッチが設置されており、節水に役立っている。各家庭からのトイレの排水またその他の雑排水は、1箇所にまとめられた後、ビレッジに設置された水生植物が豊かに茂っている池に流され、あし、がま等水生植物等により浄化された後、湿地、小浄化池を通って付近の河川に放流されている。この浄化システムによる排水は、法律上の規制値を十分クリアしているとのことである。またこの池は、鳥や昆虫のすみかともなっており、ビレッジの美しいビオトープにもなっている。この水生植物は冬には刈り取られ、コンポストにしているとの事である。この話を伺ったときに、日本では伝統的には、このあし等を用いて紙を作ったり、屋根やすだれを作ったりしていたという話をしたが、ピアーさんの主人はリサイクル紙を作ることを趣味にしているので是非手法を学びたいとのことであった。日本の伝統技術も外国のエコビレッジ作りに役立てることができそうである。
 4としては、住宅における自然素材の活用、日光を十分にとりいれることのできる間取り作り、十分な換気等により人々が快適に健康に暮らせる設計となっている。

 エコビレッジの建物や設備の管理等は、全ての住民により交代で行われている。また各仕事別にグループも作られている。また年に数度、エコビレッジの管理活動を皆で一斉に楽しく行い、交流を進めるようなイベントが行われている。たとえばその中では、カヌーを用いて浄化池に茂った植物の除去作業などが行われていた。ビレッジの組織としては、18歳以上の住民の選挙で選ばれた委員で構成される運営委員会が形成されており、ビレッジでの意思決定はこの運営委員会で行われている。ビレッジには住民のための共有の家が設置されており、この場所で会合やパーティが開かれているとのことである。また外部からの客の宿泊のための部屋も設置されている。

 このビレッジの住民は、全てヨンシェーピンの市内に住んでいた住民であるが、ピアーさんは、自家農園を楽しみながら環境にやさしい生活をおくれる現在の生活に大変満足しているという。このプロジェクトは市の積極的なイニシアティブで始められ、ビレッジの計画に要する費用は、市からの補助で行われた。しかしその後の政権の変化により市のエコビレッジ建設への関心が薄れ、ほぼ市から独立した形で建設が進められ、現在においては、市の政策との関係はほとんどなくなっている。ビレッジは訪問客についてはオープンで、この活動を広めたいと考えているが、現在のところは周囲の関心はそれほど高くないという。
 
       
里地アドバイザー
環境庁・オックスフォード大学修士過程留学中
中島恵理
2000/8/11

 
       
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