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寄稿レポート:糸長浩司の欧州エコロジカルレポート(1)
英国のシティ・ファーム、コミュニティ・ガーデンの現在


日本の皆さんへ

 ご無沙汰しています。英国に来て2ヶ月が経過しようとしています。調査の方は、都市及び農村でのエコ的な取り組み、農的な取り組み、パーマカルチャーの取り組みの場所を英国の南のデボンからスコットランドまで旅して調査しています。
 チャリティ団体の活動が盛んな状況ですが、一方でブレア政権での第3の道での、民間団体・チャリティ団体を含めてのパートナーシップで、小さい政府での市民生活の保証と、都市生活の再生を図る方向のようです。リジェネレーション、パートナーシップ、サステーナビリティがよく使用されています。
 チャリティ団体も、共同して一つの地域での取り組みを図ることが予算的にも推奨されているようで、ワイルド・トラスト、グランド・ワーク、パーマカルチャー、BTCV等の共同活動を見ることも出来ます。都市部に関しては、今回は特に、シティ・ファームとコミュニティ・ガーデンを中心に調査しています。その一部を、『ビオシティ』の最新号に掲載予定ですが、その原稿を近況報告を兼ねてメールします。参考にしてください。
 農村部のパーマカルチャー的な試みとエコビレッジに関しては次回に報告します。今週は、ウエールズのCATで、ストロー・ベールでのシアター建設の仕事に行きます。月末は、アイルランドのパーマカルチャー・プロジェクトの現場を見に行きます。6月7月は、スカンジナビアのエコ・ビレッジです。


糸長浩司 日本大学生物資源科学部助教授
パーマカルチャー・センター・ジャパン代表
 
       
REGENARATIONの実験の始まり

 私は大学の海外派遣研究制度を活用して、英国と北欧での「エコハビテーション」の調査旅行を3月中旬から7ヶ月間の予定で実施している。都市・農村部でのパーマカルチャーのサイトへの訪問や、都市内でのボランタリーセクターでの環境形成活動、コミュニティ活動についての現場を訪ね歩く予定である。
 拠点大学はバーミンガム大学であり、大学の近くにはハワードのガーデンシティよりも早く実験的な田園居住地として建設されたボーンビル・ビレッジがある。20世紀初頭にトラスト団体として田園居住地開発と運営を始め、現在も継続しており、住宅地の管理や更新、開発も持続的に行っている。歴史的な場所は保存区域として保護される一
方で、ソーラー住宅と称して、パッシブ型の住宅開発も実験的に進められている。田園都市の歴史と現代的な居住地形成の課題を同時に学ぶことのできる場所でもある。
 英国での農村地域でのエコロジカルな居住地形成については、別稿で詳細は述べるとして、こちらに来て改めて認識した点だけ述べておく。英国の広大な牧草地で覆われた農村景観を「グリーンベルト」として評価認識することの限界と課題である。大規模土地所有者による環境負荷の高い近代的な農業経営、そして農地管理は、エコロジカルな
環境の維持、形成、農村経済の活性化、農村社会の維持、そして、サステーナブルな地域開発という視点から大きな限界に来ている。そんな中で、農村での自然環境と共生し、あるいは、森林の再生を含めた自然復元活動を、もっと自由に農村で展開できるように、行政計画やシステムの変更を働きかけている人達がいる。そして、その実験的な
農場経営の取り組みもパーマカルチャー的な手法も取り入れられながら始まっている。また、地域でのコミュニティ活動の一部として、「コミュニティ・コンポスト」という循環型の地域づくりが、「LETS」(ローカル・エックスチェンジ・トレーディング・システム、現在英国には350以上のLETSがある。)と併用して進められている地域がデボンにある。
 今、英国は都市も農村も、コミュニティの再生をテーマとして、住民の参加による環境の再生(REGENERATION)は、ニューディール政策(雇用対策)と併せて、政府、民間を通して大きな地域づくりのテーマである。行政とボランタリーセクター、企業でのパートナーシップでの地域づくりは、ブレア政権の「The Third Way」の
大きな目標となっている。その流れの中で、都市における環境再生の場の形成も多様な団体の交流で進められている。
 
       
シティ・ファーム、コミュニティ・ガーデン

 都市の中の遊休地を地域住民が主体となって、野菜を育てたり、豚や馬等の家畜の飼育の場として再生し、地域の子供達の教育の場とレクリエーションの場としても活用する試みである。アロットメントという英国での市民農園も現在も現在であるが、それとは異なり、チャリティ団体、ボランタリーセクターの活動が中心で、コミュニティの再
生・形成も大きなテーマとなっている。
 現在英国全体の連絡協議会として、コミュニティ・ガーデンと、シティ・ファームの各地の団体が結成した中間団体として「フェデレーション・オブ・シティ・ファーム、コミュニティ・ガーデン」(チャリティ登録団体である。チャリティ団体は、チャリティ委員会によって承認された団体で、代表的なナショナルトラスト等も含めて現在19万団体程度あるといわれている。)である。この組織が把握している1999年2月時点では、64のシティ・ファーム、493のコミュニティ・ガーデン、112の学校ファームがあるという。個々のシティファーム等は、チャリティ団体に登録されているものも多くある。
 協議会のパンフレットのサブタイトルは、「コミュニティ管理された農場や菜園・庭を介して地域の再生を促進する」とある。「コミュニティガーデンの運動は、1960年代に始まり、シティ・ファームは1972年に始まった。この時に、放置された場所、未利用地を地域のコミュニティにとつての生活の質と環境を改善するための場所として再整備することが決心された。1980年に、多くのシティファームとガーデンが集まったメンバー同時の相互の助成や国民に広く知ってもらうために、協議会を結成した。・・・それらは、地域の人々に食べ物を生産する場として、環境を改善する場として、学び楽しむ場所として、コミュニティの発展のための場所を提供している。
 協議会の会員へのサービスは、管理等のアドバイス。スタッフやボランティアのサポート、技術向上、事業資源の的確な運営に関するサポート等である。具体的には、家畜の飼育、コミュニティとの関わり、資金調達と予算、園芸、土地利用・管理、法的処理、計画とデザイン、職員の確保等である。」(協議会のパンフレットより)
 また、1998年度に初めて、コミュニティ・ガーデンだけの国内会議が開催され、そこでの宣言文で以下の点が述べられている。

 コミュニティ・ガーデンの効果・利益
コミュニティの結合力と相互理解を高める
研修、収入の発生、ボランティアと学習の機会を提供する
緑化や環境改善を促進することで、コミュニティの再構築をはかる
コミュニティ運営や研修を経験を通して、地域の人々の社会的能力、雇用される能力を高める
多様な面での発達、障害者対応、若者と老人との協同作業等の価値ある能力を提供する
・目的の明確な実習を介して、肉体的な面での健康改善に役立つ
ストレスの減少と信頼の構築により、精神的な健康を提供する
食べ物を生産することで、貧困層に対する効果
野生生物や地域の多様性を促進する
安全なおしゃべりのできる場所でコミュニティのレジャーとなる場所の提供

 このように、コミュニティの社会面、物理的な面、経済面と環境的な面に貢献が、今まで、全国的にも地域的にもまだ十分評価されていないので、その評価と状況の改善のための組織的な活動の必要性を訴えている。
 英国でもっとも古いシティ・ファームは、ロンドンの「ケンティッシュ・タウン・シティ・ファーム」であり、ロンドン市内の下町的な箇所で、鉄道の高架の残地を活用した農場であり、乗馬や豚の飼育と農園が共存し、地域の子供達への環境教育の場ともなっている。また、有名なドックランドの再開発地の中にあるのが、「マドシュット・
パーク・ファーム」である。再開発された高層建築と牧草地と羊のコントラストは奇妙な都市の風景を作っている。ここは政府の住宅地開発に反対して、もともと合った自然地を活用してシティファームのトラスト団体を結成し運営している。現在は地域住民の憩いの場であり、子供達のための動物教育等の教育センターも持っている。調査時には、多くの幼児を連れたグループが牧場内を散策したり、センター内で学習をしていた。生きたドックランドの姿を見ることができた。
 これらの登録団体の中には、グランドワーク・トラストの支部トラストの関係団体や、ワイルドライフ・トラストの支部団体も入っていて多様である。また、パーマカルチャーの理論と手法でデザイン、整備された場所も出てきており、単なる都市の中の農場、農園というだけでなく、環境再生、循環型の地域づくりを意識した新しい都市の再生の場としての意義を持ち始めている。
 
       
バーミンガム・エコ・パーク

 まだ、コミュニティ・ガーデンとしては登録されていないが、バーミンガム市内でのアーバン・パーマカルチャーの試みでのコミュニティ・ガーデン的な実験を紹介する。「バーミンガム・エコ・パーク」で、現在整備中で今年の6月頃に開園となる。パーマカルチャーのコンセプトで整備している公園で、バーミンガムの「アーバン・ワイルドライフ・トラスト」が担っています。責任者のアンディはなかなかの人物です。専門は園芸で、パーマカルチャーの勉強は10年近くしているらしい。現場では、ボランティアのメンバーが8人程度働いていた。
 敷地は比較的郊外の住宅地の裏手にある約1haの市の遊休地を活用している。敷地の中心部にナースリーが設置されて、その周囲がパーマカルチャーガーデンや、アグロフォーレスト、浄化池、池、コンポスト等がある。全体が周遊できるようになっている。
 以下、出来立てのパンフレットに書かれている内容を紹介する。
 このパークの目的は、オーガミック・ナースリー(有機種苗)、パーマカルチャー・デモンストレーション(パーマカルチャーのモデル展示)、コミュニティ・コンポスティング(地域の堆肥場)、ワイルドライフ・ガーデニング(野生園)、ハビタット・クリエーション(生息地の創造)の場を市民に提供することである。
 バーミンガム・エコ・パークは、持続的な成長とパーマカルチャーに関するワイルドライフ・トラストの実践的なデモンストレーションの場所である。持続性とは、「今と明日を同時に配慮すること」。今の人々の必要と将来の世代の必要が共存できるように、日々の生活を考えること。エコパークで、持続性を実践してみせる。リサイクル、再利用、環境に悪影響を与える化学物質等をさけることを示す。エネルギー、水、空気のような資源を最大限に利用することを計画している。パーマカルチャー(パーマネント・アグリカルチャー)は、自然のシステムから学んで植物を成長させる方法であり、そのシステムをガーデンや菜園、農場までに適用する。パーマカルチャーの多くの原理は、新しいものではない。異なる場所や文化から取り入れられている。英国での伝統的なガーデンニングから森林に住む人達の混裁農法までを含んでいる。伝承による方法と現代的な調査・研究の融合したものもある。パーマカルチャーの哲学は、リサイクルされたものの利用、コンポストすること、マルチング、人工的な堆肥の回避等に反映している。泥炭地は利用しない。その利用は、英国のすばらしい野生生物の生息場所である、泥炭湿地を破壊することになるから。エコパークの土壌状態は、「土壌協会」によって認証されている。
 以上で内容が概ね把握していただけたと思う。このエコパークの建設のための資金は、オスニックグループという民間会社のチャリティ団体から£26,000が提供されている。その理由は、都市の中の荒廃地を有効によみがえらせた功績は高いということ。都市の中に、意識的に野生生物と人間の生活のアメニティを向上させるための、集約的な土地利用の仕方としてアーバン・パーマカルチャーが評価されてきているようである。英国でのパーマカルチャーの活動が始まったのは、1984年に「シティ・ファーム連絡協会」がビルモリソンを招いてパーマカルチャーの催しが最初であるというから、15年程度たったことになる。まだ、まだ、都市でのパーマカルチャーの事例は少ないようだが、このエコパークは先駆的な試みともいえる。
★エコパークの図面説明より

 有機種苗場は、野生生物に有用な野生植物と園芸種を育てている。エコパークは、作物の生産とスペースの最大利用の目的のために、「パーマカルチャー」を取り入れている。 エコパークの遊歩は、駐車場から始まり終わる。30分から1時間で周遊できる。

1) エコパーク種苗場
エコパークの中心に位置する有機種苗場である。泥炭や、人工堆肥、殺虫剤は利用しない。替わりに、生物学的抑制や環境的で有機的な調整の方法を採用する。

2) パーマカルチャー・ガーデン
パーマカルチャー・ガーデンは、典型的な都市の庭のサイズでの野生生物と環境的に融和するガーデンニングの多様な方法で作られる。

3) 水循環システム
エコパークの水は、種苗場で利用されるために、浄化され、再利用される。

4) 植物バイオダイバシティバンク
この場所は、1997年に「ハンソン・ブリック」の支援で作られた。苗床は、バーミンガムと周囲のブラックカントリーにある貴重種や危機種が生息できるように、異なる土壌と条件を保持している。

5) 草地
荒れ地で、雑草が繁茂していた場所で、野生植物や昆虫が多く生息できような草地に作り替えられる。

6) 野生生物のための池
二つの池は、エコパークの排水(雨水)の全てが集まる池である。両生類や水生昆虫が棲めるような水生植物や特徴を持たせる。
 
7) マルハナバチの生息地
泥製のポットがハムスターのために用意され、また、マルハナバチの巣として提供される。

8) 新しい林地
この林地には、オーク、トネリコ、カバノキ、カエデが植えられる。ブルーベリーやアネモネのような花も一緒に植裁されつつある。ダビットが植えたオークの木を探してみてください。

9) 木の育成場
ワイルド・ライフトラストが保護プロジェクトで利用するような、若木のストックや育成場所として利用される。

10) フォーレスト・ガーデン
ファーレスト・ガーデンは、空間と光を最大限に利用する方法である。成長の7層が設けられている。根裁、地上なはう植物、蔓性植物、木である。

11) コミュニティ・コンポスティング
堆肥を作ることは、ゴミとなっている菜園の廃物を有効なものに変える自然の腐敗のプロセスである。
 
       
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