ヤマビル生態調査報告会・報告書

 

 

 

日 時 平成181222日() 13:3016:30

場 所 秦野市・羽根地区 里山ふれあいセンター

参加者 北地区まちづくり委員会、 滝の沢保存会、羽根・戸川三屋・菩提生産森林組合、横野造林組合、農業生産組合、アイウエオサークル、かながわ山里会、 まほろば里山を育む会、里地ネットワーク、 環境文化創造研究所、農産課、茶業部、森林づくり課、

総計約50名程度

講 師 環境文化創造研究所 ヤマビル研究会 医学博士 谷 重和氏

目 的 報告内容を2部に分け、 平成1796日から平成18122日にかけて行われた羽根地区ヤマビル生息調査及び、 里山環境整備作業のヤマビルへの影響調査結果の報告会、 今後の秦野茶生産に向けてのヤマビル対策報告会が開催されました。

        1部:ヤマビル生態調査の報告会 13:30~15:00

        2部:お茶づくりとヤマビル対策 15:15~16:30

 

内 容(1部: ヤマビル生態調査の報告会)

平成1796日から平成18122日にかけ、 3.4ha.の土地を調査地試験区として3つに分け、 それぞれを落ち葉かき区・対象区(落ち葉かきを実施しない区)・シカ侵入防止柵. ヤマビル撲滅試験圃場)として、 調査区の杭を全82箇所設置しその周囲3㎡のヤマビル生息調査を行った結果の報告会が行われました。

 

① 秦野市里山における気温の季節的変化と里山整備・ 落ち葉かきがヤマビルに与える影響と効果

シカ柵区内・対象区内にそれぞれ1箇所計2箇所サーモリーフを設置し、 地中と地表の温度を2005年11月から2006年9月まで、1日に8回計測(0・3・6・9・12・15・18・21時) しました。

その結果、冬季においてはシカ柵区で地表部の温度差が1日に40℃近く現れました(対照区では15℃前後)。地表の落ち葉がない事により、 太陽光が直にあたるため温度の急上昇、同理由で放射熱をためておけない為に温度の急降下、 また湿度が保たれないという理由により、生物にとって住みにくい環境となる事が判明しました。また、低温期・ 高温期における地表温度の比較では、温度が0℃を下回る回数はシカ柵区97回・対象区44回、 温度が30℃を超える回数は落ち葉かき区24回・対象区0回と、一定の温度以上では、双方の差が著しくなる結果となりました。 夏季においては、シカ柵区・対象区共に温度差異はほぼ見られなかった為、夏季の落ち葉かきは成果がでないことが判明しました。

 

② ヤマビルはどの程度の高温・低温に耐えられるか

40℃、35℃、30℃、4℃、0℃、-2℃、-5℃の環境において、 それぞれ5匹ずつヤマビルの耐熱耐冷試験を行いました。

その結果、5匹全てが死亡したのは40℃で3時間、35℃で24時間、-5℃で8時間でした。 他の温度では、1匹も死亡することはありませんでした。このことから、比較的高温に弱く、低温に強いことが判明しました。

 

      ヤマビルの大きさから見た秦野市里山のヤマビル生態解析

シカ柵区、落ち葉かき区、 対象区でのヤマビル個体比率は以下の通りでした。

(小:30mg以下 中:30~100mg 大:100mg以上)

 

エリア

年月

総数

シカ柵区

H17/9

81%

14%

5%

44

H18/6

50%

50%

0%

2%

H18/9

17%

34%

49%

41%

落ち葉かき区

H17/9

65%

17%

18%

444

H18/6

26%

38%

36%

65

H18/9

63%

21%

16%

160

対象区

H17/9

22%

38%

40%

161

H18/6

8%

49%

43%

79

H18/9

54%

33%

13%

59

 

 

 

冬の落ち葉かきにより、落ち葉かき区、 シカ柵区では小個体が著しく減っていることが分かります(孵化個体の減少。落ち葉かき区39%減、シカ柵区31%減、対象区14%減)。さらに、平成17年9月と18年9月では、 小型個体の割合が落ち葉かき区では2%減少し、対照区では32%増加しています。 小型個体の割合が平成18年9月に落ち葉かき区と対照区で増加したのは、落ち葉かきによる影響がなくなる4月頃から、 動物やヤマビルの活動が活発になることにより、ヤマビルの吸血・産卵・孵化が行われて小型個体数が増加、 またにシカの採食期が重なったためと考えられます。この事から、夏場は落ち葉かき意外の防除対策が必要とです。また、 生息数が多い場所では少ない場所と比べて、ヤマビル防除対策を実施した後でも、個体数増加傾向が見られました。

 

また、ヤマビル20個体に対し血液によるDNA診断法を用い、吸血元の動物の同定を行った結果、 ヤマビルはニホンジカ(25%)・イノシシ(20%)を主に吸血元としている事が判明しました。

 

質 問

Q: ヤマビルが吸血している血は、ニホンジカの25%とイノシシの20%以外に何を吸っていますか。

A:吸っていません。

Q: ヤマビルがニホンジカに付着して移動する以外に、広範囲の移動をするのですか。

A:土砂で流されたり、落ち葉にくっついて風に飛ばされたり、動物にくっついたりという以外は大幅な移動はありません。逆に、数が多い・ 大型がいるといった場所は常に何らかの移動手段があるということなので注意が必要です。

Q: ヤマビルの大きさが大きくなる程、産卵期が早くなるのですか。また、産卵数が増えますか。

A:産卵期に関しては、大きさは関係がありません。吸血してから約1ヶ月で産卵し、 その後1ヶ月で孵化します。 しかし、吸血をしっかりした(複数回吸血している)ヤマビルは産卵した卵のうは大きく、数が多いのが特徴です。

Q: スギ・ヒノキ林のヤマビル個体数は里山林(落葉広葉樹林)に比べ、多いのですか。

A:圧倒的に数が多いです。特にスギ林(針葉樹林)は落葉してもその葉が分解するのに時間が掛かるため、 落ち葉と表土の間の気温が常に暖かく、そのため、ヤマビルにとっては過ごし易い環境となっています。

 

総 括1

里山において小枝やツルの伐採などの森林整備と落ち葉かきをすることにより、 冬季から春季の間は落ち葉かき区で85.2%、 シカ柵区で96.5%と著しい減少となり、 ヤマビルの生息数を大幅に減少させることができました。

【理由】

     落ち葉かきによるヤマビルの除去

     森林整備(落ち葉かき)による冬季のさらなる低温化がヤマビル生存環境を悪化

     森林整備・落ち葉かきによって冬季に直接太陽光が地表に達して30℃以上の高温の日数が多くなり、 ヤマビルにダメージを与えた

     冬季に35℃の温度差が生じ、 ヤマビルの生存環境が悪化

     落ち葉除去による土壌表面の保湿効果の減少

     里山が明るく、障害物が少なくなり遠くまで見通せるようになり、シカ等の野生生物に警戒心を起こさせ、里山に出没する機会が減少し、 ヤマビルが持ち込まれることが少なくなった

総 括2

1年後の夏から秋期には、 落ち葉かき区、シカ柵区ともにヤマビルの生息数が増加していました。

【理由:シカ柵区】

     シカ柵の破損によるシカ等の野生生物の侵入があった

     大型のヤマビルが多く見られ、外部から持ち込まれた可能性が高い

     葉が茂り、太陽光が地表まで届かなくなり、夏場の更なる高温化が見られなかった

【理由:落ち葉かき区】

     葉が茂り遠くが見通せなくなり、野生動物の往来を抑制できなかった。

     夏から秋期には、シカの出産期・子育て期で活発な採食活動のあることから、シカの往来が多くなった

     葉が茂り、太陽光が地表まで届かなくなり、夏期の高温化が見られなかった

     小型のヤマビルが多く見られたことは、野生動物からの持ち込みによってヤマビルの吸血・産卵・ 孵化が活発に行われたことを示している

 

 

内 容(2部: お茶づくりとヤマビル対策)

「ヒルよけお茶づくり」を実現する為に、秦野市・茶農家・ヤマビル研究所が連携し、効果的なヤマビル対策を模索する。

 

     DDVP乳剤、 スミチオン乳剤、ラウンドアップハイロードのヤマビルに対する殺ヒル効果

それぞれの農薬を濃度を変え、それぞれ5匹ずつ殺ヒル効果試験を行いました。

その結果、5匹全てが死亡したのはスミチオン50%×25で60分後、 DDVP75%×1000で5分後、DDVP75%×2000で20分後、DDVP75%×4000で20分後、 ラウンドアップ×5で90時間後、ラウンドアップ×25で一週間後となりました。

(1)   スミチオン乳剤は、25倍希釈の高濃度であれば殺ヒル効果は期待できる

(2)   DDVPは、4000倍希釈の低濃度でも即効的な殺ヒル効果があるが、 発ガン性が心配される

(3)   ラウンドアップは、 規定の使用濃度ではほとんどダメージがないが、高濃度の5倍希釈では1時間で致死率60%と若干効果が見られたが、 除草剤なので散布すると植物が全て枯死してしまう

 

     竹酢液・食塩水のヤマビルに対する忌避及び致死試験

濃度10%の食塩水と、 竹酢液(原液)、竹酢液(10倍希釈) を容器に用意し、それぞれに中~大型程度のヤマビルを5頭ずつ漬けた後、 余分な液体を紙で拭き取り、その後60分間様子を観察しました。 触っても動かず、呼気に反応しないものを死亡とみなしました。

 

 

10% 食塩水

竹酢液(原液)

竹酢液(10倍希釈)

直後

激しくくねらせながら歩行

0/5

黄色粘液を出し、体をくねらせる

0/5

くねらせながら歩行

0/5

5分後

1匹呼気に誘引、 他じっとする

0/5

5匹とも側面に張り付き歩行

0/5

2匹呼気に誘引

0/5

15分後

小型死亡、他大型歩行

2/5

0/5

小型1匹瀕死、 他反応あり

0/5

30分後

大型2匹呼気に誘引

2/5

1匹死亡、 3匹歩行

1/5

3匹歩く、 2匹じっとする

0/5

60分後

2/5

1/5

5匹歩行

0/5

 

 

 

     硫安、石灰窒素、硫酸カリ、ヨーリン、油カスのヤマビルに対する殺ヒル効果

それぞれの肥料(粒・粉剤)を水に溶いて用い、5匹ずつ殺ヒル効果試験を行いました。

その結果、5匹全てが死亡したのは硫安で5分後、石灰窒素で60分後、硫酸カリで5分後となりました。

また、硫安を4種類の希釈濃度に分け(10%、20%、30%、40%)、 それぞれの殺ヒル効果を検証しました。

10% 60分後に80%が死亡

20% 30分後に100%が死亡

30% 10分後に100%が死亡

40% 5分後に100%が死亡

 

総 括

各薬品自体の効果検証はできましたが、実際の農作業に照らし合わせてみると、使用には現実的でないことが判明しました。 茶農家から年間作業スケジュールを提供してもらい、それを元に現実的なヤマビル対策を計画していかなければならないと考えられます。 (現状は2番茶 (6月下旬から七夕前後まで) と3番茶 (9月下旬から11日前後) の前にDDVPを散布している。 )併せて、現状では実施が難しいと思われる手段も、試験環境を作り、テストを行っていきたいと考えています。

ヤマビル被害は茶摘み時と月1回ほど行われる草取り時。 手間や薬品の濃度、撒く回数など硫安は現実的でありません。また、問題点も複数あがりました。

・複数の栄養剤を使用したり薬品の散布回数を増やすことにより、茶の味が変わってしまう事もある

・石灰が効くという話もあるが、70%以上の致死量が見込めるという訳ではなく、 何もしないよりも忌避効果がある、という話だと思われる

・肥料兼ということでなく、単純に殺ヒル剤として硫安などを使用するのはどうか→DDVPを撒くだけで良いので、 現状と変化なし

・硫安を頒布する際に、ヤマビルを誘引してからということだったが、硫安水が土壌に浸透した結果、 土中にいるヤマビルは死ぬのではないか→土中であると、石の下や木の葉の下など逃げ場が多く、 またヤマビルの一部に硫安水がかかってもあまり効果は得られない上、他の場所にも逃げやすいため非効率的になってしまう。

 

最終的には、「ヒル避けお茶づくり」 のマニュアルが作成できるように、試行錯誤を重ねて行きたいと思います。

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2006年12月28日 [レポート]

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