鳥獣・ヤマビル対策としての里山整備(北地区羽根)平成18年6月6~7日、6月26日

【主旨】
秦野市では環境省の里地里山保全再生モデル事業として、平成17年9月から北地区羽根で鳥獣・ヤマビル対策の鹿柵設置、下刈り、落ち葉かき、 枝打ち実施等の環境整備作業を行ってきました。
環境整備作業が有効な防除手段であるかどうか、整備実施から9ヵ月後のヤマビル生息数調査と、くずは青少年野外センター周辺地域の鳥獣・ ヤマビル調査を実施しました。また、ヤマビルの生態を理解し、里地里山で活動するときの予防やヤマビルの活動を低下させる方法等について、 専門家である環境文化創造研究所ヤマビル研究会の谷重和氏を招いてのヤマビル対策講演会が開催されました。


【内容】
・平成19年のくずは青少年野外センターリニューアルオープンに際し、周辺の鳥獣・ヤマビルの現状調査を行い、 夏季に野外センターを来訪した人々が安心して里山に入れる方法を検討する。
・泰野市内の里山に生息するヤマビルの生態を理解し、里地里山で活動するときの予防やヤマビルの活動を低下させる方法等について、 専門家((株) 環境文化創造研究所)の講演会を実施する。
・ヤマビル対策効果検証のため、専門家((株) 環境文化創造研究所)の指導により、検証区域内のヤマビル生息数調査を行う。

経過および予定
○6月6日 くずは青少年野外センター周辺の現状調査、ヤマビル対策講演会
○6月7日 整備地のヤマビル生息調査
○6月26日 ヤマビル調査 中間報告会
○12月2日 里山整備(下草刈り)
○平成19年1月20日 里山整備(落ち葉かき)


 

 ○6月6日(火)  くずは青少年野外センター周辺現状調査  10名参加スギ林
環境文化創造研究所の指導により、菩提滝の沢保存会、菩提生産森林組合のほか、 秦野市の職員やボランティアが参加して現状調査を実施しました。
まずはくずは青少年野外センターからすぐのウォーキングコースの周辺をポイントとして、現場調査を行いまし た。 周囲の環境はスギ植林地および竹林で、落ち葉かきや枝打ち・間伐などの環境整備は入っていません。林内は薄暗く、 ヤマビルが活動するにはもってこいの環境のようです。鹿柵も設置されていますが、全体を囲ってはいないため、 結果的にシカの出入りは自由になってしまっています。しばらく雨が降っていないこともあり、 やや湿気がなくヤマビルが出現しやすい環境ではありませんでしたが、約3平方メートル範囲内で1~3匹が確認されました。

ウォーキングコース   ヤマビル

 [自然体験・森林体験を実施できるようにするには? ]
谷先生から、次のようなアドバイスをいただきました。

○林内がやや暗く、落ち葉も堆積しているので林内の環境整備を行う。
スギの落ち葉は広葉樹の落ち葉に比べ分解しにくく、地中の温度が高くなってしまうので必ず落ち葉かきを行うようにする。 シカが林内に入り込まないためにも間伐や枝打ちを行い、林内を明るく見通しを良くし、ヤマビルが生息しにくい環境に変えていく。
○山の際(きわ)の雑草などを除去し、できれば鹿柵を設置してヒルの移動を阻む。
林内にヤマビル(野生動物)が進入しないようにすると効果的。また、梅雨に入った時期くらいに1度だけ薬剤を獣道・ ウォーキングコースのみに使用して生息数を減らすのも効果がある。
○環境整備などの整地を終えた上で山の管理人を置き、広く告知・案内する。
雨が降った後など、必ず山の中を見回り、発生したヒルを殺すだけで生息数平均が1以下になる。
山の管理人が見回って防除していること、山には様々な生態系があり、 その一部としてヤマビルも存在していることをパンフレットや看板などで広く告知・案内する。ヤマビルだけを前面に出すのではなく、 「生態系の一部として野生動物の血を吸う動物もいて、人間の血も吸うので気をつける」といった内容にする。


 

 ○6月6日(火)  ヤマビル対策講演会  約110名参加
環境文化創造研究所の医学博士、谷 重和氏をお招きし、 ヤマビル対策講演会を開催することにより泰野市内の里山に生息するヤマビルの生態を理解して、 里地里山で活動する時の予防やヤマビルの活動を低下させる方法について学びました。

○講演要旨
[生態]
体に2つの吸盤 (前吸盤、後吸盤)を持ち、シャクトリムシのようにして進みます。雌雄同体で、一匹でも吸血をすると卵を産みます。寿命は3~4年で、 落ち葉や石の下など湿ったところを好みます。全国に分布し、吸血被害地域は25県1府45市町村にものぼります。(北海道・四国をのぞく)
ヤマビルの前吸盤の中には様々なセンサーがあり、呼気・振動・炭酸ガス・体温・体臭などを感知して、吸血動物を探し出します。 前吸盤の中にある三唇状の歯で皮膚を切り裂きながら、血を吸いますが、その際にモルヒネ様物質を分泌しているのであまり痛みは感じません。 また、ヒルジンという抗血液凝固剤も一緒に分泌しているため、流れ出た血液はなかなか止まらず、 ズボンやくつしたが血だらけになってしまいます。
講演中会場内

[防除方法]
衣類・靴への付着防止のための忌避剤として塩水20%に漬けて乾かした衣類や皮膚塗布用防虫スプレー(ヒルガード・ヤマビルファイター) などの忌避剤が効果的です。
取除には塩や消石灰、木酸液を直接ヤマビルにかけたり、タバコ(火)を押し付けたり、殺ビル剤(ヤマビルジェット・ヤマビルキラー) を使用します。
また、下草刈り、落ち葉かきなどの環境整備や野生動物の生息数管理、里山や奥山の保全・再生管理をすることで、 効果的な環境的防除になります。
「ヤマビルは怖いし、よく分からないから気持ち悪い」といった意識を変えるために、ヤマビルのことを含めた環境教育研修を開催したり、 分かりやすいパンフレットを配布したり、山の入り口やヤマビルの多い所に吸血注意の看板を立てることも重要です。

[吸血された場合の処置]
・ 吸血しているヒルをすぐに除去します(口下片が残るマダニとは異なり、無理に除去しても問題はありません)
・除去したヒルは必ずその場で死亡させます
・傷口から血を押し出すようにしてヒルジンなどの体液成分を搾り出しておけば治癒が早くなります
・傷口を流水で洗うか、アルコールなどで消毒します(レスタミンコーワ軟膏などの抗ヒスタミン剤を塗布し、 カットバンで傷口をふさいでおきます)

[質疑応答]
Q:人間が通る道が一番ヤマビルが多いとの話ですが、獣道はどうですか?
A:人の道よりも、獣道の方がヤマビルは多いです。
Q:よく登山者からヤマビルが木の上から落ちてくるという話を聞きますが、木の上にいるのでしょうか?
A:ネパールやタイのヒルは上からぶら下がるタイプで落ちてきますが、日本のヒルはほとんどそういうタイプはいないとされています。
Q:環境的防除は時間がかかるので、科学的防除ですぐに、効果的に防除する方法はありますか?
A:薬剤は一番手っ取り早い手段ですが、山の中に有機リン系の殺虫剤を撒くというのはあまり良くないことであり、 また神奈川県はなるべく薬剤を使用しない方針です。
もし自分の畑などに撒く場合には環境に安全な薬剤を選択したいところですが、いかんせん値段が高くついてしまいます。ですが、 一度生息数を劇的に減らすのには効果的なので、年に1度梅雨時あたりに散布すると良いです。
Q:1匹のヤマビルに噛まれたら、大体そこには何匹くらい居るという想定でいればいいですか?。
A:およそ3~5倍のヒルが生息しているのではないかと思われます。


 

  ○6月7日(水)  羽根の整備事業地内の調査  22名参加
環境文化創造研究所の指導により、森林組合、横野造林組合、北地区まちづくり委員会、菩提滝の沢保存会、菩提・戸川三屋生産森林組合、 北地区まちづくり委員会、地元森林農家、秦野市およびボランティアが参加して調査を実施しました。
今回は平成17年9月~18年1月に環境整備を行った4つの検証区域を再度生息数調査し、環境整備によるヤマビル防除効果を検証します。
・検証区域(別図参照)

 約3.4ヘクタールをA~Dの4つの区画に分け、それぞれ下の(1)(2)(3)の検証区域、比較検証のための(4) ヤマビル撲滅試験圃場を設ける。 3.4ha.(AtoD)

(1)すべて落ち葉かきを実施し搬出する場所    
(2)落ち葉かきを実施し搬出しない場所
(3)落ち葉かきを実施しない場所
(4)ヤマビル撲滅試験圃場を設ける。

 

調査方法は前回と同じく、ヤマビルを誘引し捕獲する方法です。調査ポイントを設置し、ポイントごとに約3平方メートルの区画内で、 地面に振動を加え呼気を吹き、一箇所およそ5分間、出てくるヤマビルを採取します。
計82ポイントを調査し、総出現頭数は17年調査時が655頭、18年が147頭、平均出現数にすると17年調査時は7.9頭、 18年は1.79頭まで下がりました。
各エリア毎で見ても平均出現数は軒並み下がっており、環境整備の有効性が発揮された、嬉しい結果となりました。 特に鹿柵設置地域は17年の45頭から、今回はなんと2頭まで減っていて、素晴らしい効果が発揮されました。
前回調査から1年経っていませんが、中間成績としては上々の滑り出しです!

作業中ヤマビル2

ヒル瓶詰め シカ鹿も出没。


 

  ○6月26日(月)  ヤマビル調査 中間報告会
平成17年9月6日~8日に行われたヤマビル生息調査と、 9カ月後の平成18年6月7日に行われたヤマビル生息調査の中間結果報告会が行われました。
日 時 平成18年6月26日(月) 10:00~13:00
場 所 秦野市・羽根地区 里山ふれあいセンター
参加者 上地区竹林部会、竹林保全ボランティア、四十八瀬川自然村、炭焼き研究会、秦野市、ボランティア 総計20名程度
講 師 環境文化創造研究所 ヤマビル研究会 医学博士 谷 重和氏

[目的]
平成17年9月6日~8日に行われた整備前の羽根地区ヤマビル生息調査から、ヤマビル撲滅試験圃場の設置、12月3日に行われた下草刈り、 平成18年1月28日の落ち葉かき等の環境整備作業を経て、 9カ月後の平成18年6月7日に再度ヤマビル生息調査を行った結果の中間報告が行われました。

[内容]
3.4ヘクタールの土地を試験区として3つに分け、それぞれを落ち葉かき 区・対象区(落ち葉かきを実施しない区)・シカ侵入防止柵設置区 (ヤマビル撲滅試験圃場)とし、調査区の杭を全82箇所設置しその周囲3平方メートルのヤマビル生息調査を行いました。 整備前の調査ポイントではヤマビル平均誘引数が19.8を示す場所があるなど、どのポイントも非常に高い誘引数でした。 この誘引数を1.0に近づけることが目標でしたが、落ち葉かき等の環境整備を終え9カ月後のヤマビル生息調査を行った結果、 全体の平均誘引数は7.9から1.7に減少、平均誘引捕獲数では対象区で10.0から4.9(減少率51.0%)、 落ち葉かき区で4.9から0.9(同81.7%)、シカ柵設置区で2.9から0.1(同99.7%)と、 丸1年経っていないとは言え、 良い結果を出すことができました。

捕獲したヤマビルの重量を分類比較すると、昨年9月の捕獲個体では30ミリグラム以下の個体が多かったのに比べ、 今年6月の捕獲個体では30ミリグラム以下の個体は少なく、全ての調査ポイントで同様の傾向が見られました。 (アルコール漬けにした状態で5ミリ程度の小さい固体は生まれたてのヒルで、3~4回吸血すると2~3センチほどの太いヒルに成長する。)
小さな個体が6・7・8月の3カ月で吸血の機会を得、脱皮を繰り返し成虫となり、9月にはまた子供が生まれていることが考えられ、 9月には今より若干頭数が増えるかもしれません。
大きいヒルは歩道部分に多く見られ、これは子ビルが吸血を行い育ったのではなく、野生動物に付いて持ち込まれてきた可能性が考えられます。 環境整備を行うことにより野生動物が近づきにくい環境になれば、歩道部分のヒルも大きいものは少なくなっていくのではないかと考えられます。

中間報告 中間報告2

[質問]
Q:ヤマビル防除には里山の落ち葉かきが有効なのが分かりました。茶畑では根を守るためにワラを敷いていますが、 そのせいでヤマビルが増えているとしたらそれも止めた方がいいのでしょうか
A:茶畑を守る(お茶の品質を守る)ためにも、ワラを退かせることは出来ないと思います。ある程度、 有機リン系以外の薬品を使うのがいいと思います。薬剤と平行して、茶畑に野生動物が侵入してこない仕組み作りと、 残っているヤマビルをまめに始末をしていくことが一番いい方法だと思います。
Q:ヤマビルが良く出没する所に土をかぶせた所、ヤマビルは全く出てこなくなりましたが、ヤマビルは土に潜ると聞きました。 いつか出てきてしまうのでしょうか。
A:乾燥に弱いため、よほどの時は土に潜りますが、ヒルの体の構造から言うとそれほど深くは潜れません。 深く埋めてしまえば出てくるのは無理だと思われます。

2006年06月30日 [レポート]

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