秦野市からのメッセージ

秦野の里地里山とは(秦野市からのメッセージ)

美しく豊かな自然に恵まれた「秦野」は、三方が山や丘に囲まれ、北には神奈川の屋根と呼ばれる丹沢連峰が連なり、 南には渋沢丘陵と呼ばれる台地が東西に走っています。
そして、雄大な丹沢のふところの山々から流れでる川は清く豊かです。
私たちの祖先は、その水を飲料水や農業用水として利用してきました。
特に秦野市は豊富な湧水を利用し、横浜、函館に次ぎ、明治23年に公営水道(曽屋区水道)を開設したことで知られています。

秦野は、こうしたことから「名水の里」であるとともに水にまつわる伝説も多く、 水に対する戒めを語ることによって祖先からの預かりものである「水」を大切に保全してきました。

しかし、その名水が平成元年、有機塩素系物質により汚染されていることが判明しました。
当初、地下水の浄化には50年以上の期間と200億円以上の経費が見込まれまるなど、大変な問題となりました。
けれども、そうしたことにもめげず市民は皆んなで立ち上がったのです。平成6年には地下水汚染の防止及び浄化に関する条例を制定し、その後、 事業者と市が協力して汚染拡大を止める継続的な活動を進めてきた結果、期間15年、経費5億円と予想より期間、経費とも大幅に短縮、縮減し、 平成17年1月には名水の復活宣言をするまでに至りました。

復活への道程は悲観的、絶望的でさえありましたが、それを見事に克服したのです。 市民総ぐるみで取り組んだこの地下水浄化事業は115年前、我々の先人が進取の精神で成し遂げた水道事業と共に全国に誇れる秦野らしい知恵、 勇気、努力を結集した大事業であると言えます。
 
また、秦野は今から40年ほど前まで、日本三大葉たばことして名を馳せた秦野葉の生産地として知られていました。
たばこ栽培に欠かせない資源として、クヌギやコナラの落葉を苗床の肥料に、また、幹や枝は乾燥用の燃料(薪)に活用し、 里山の原風景を保ちながら、伝統的な農村文化として自然界との調和を図ってきました。

残念ながらわれわれの世代は、経済優先の仕組に流され、手間のかかる伝統的な農作業を拒み、その結果、 先人から引き継いだ豊かな自然環境の象徴である里山と、それを管理する知恵や技術を失いつつあります。
 
「水」、「空気」、「緑」は私たちの祖先が里山を守り育てたことによって、私たちに、たゆみない恵みを与えてくれていることを、 忘れてはなりません。
そして、私たち市民が生きる上で最も大切な秦野の自然環境を、子々孫々に、より健全な形で継承することが、 今を生きる私たちに課せられた責務ではないでしょうか。

希少動物の保護、地下水の保全、有機系ゴミの資源化、更には、自然災害の未然防止に、安心安全な農産物の生産、遊休・荒廃農地の解消、 有害鳥獣対策など、秦野市民が自然環境とのかかわりを通して抱えるさまざまな課題に対し、先人の知恵と勇気と努力に根ざした取組を想起し、 行動する時が来ました。

恵まれた環境を活かした秦野の里地里山の再生をまちづくりの一つとして位置づけ、「秦野らしさ」を全国に発信していきたい。

 

2005年12月14日 [保全再生モデル事業]

鳥獣・ヤマビル対策としての里山整備(北地区羽根) 平成17年8月27日、9月6~8日、9月20~29日、12月3日

鳥獣・ヤマビル対策としての里山整備(北地区羽根)
平成17年8月27日、9月6~8日、9月20~29日、12月3日

主 旨
秦野の里山はかつてタバコ生産のために落ち葉かきをしていました。人が歩ける明るい里山でした。今、 秦野の里山の多くが暗く湿った森になっています。もう一度、人と自然が共存できる里山に戻すため、 落ち葉かきができる明るい里山づくりのための作業をします。また、秦野の丹沢山系側の里山ではシカやイノシシがヤマビルを持ち込み、 広がっています。山を明るくすることで、ヤマビルが住めない里山にするための試行事業を実施するものです。

 北地区において、里山に関する地元の最大の問題意識はヤマビル・鳥獣被害にありました。丹沢の麓にあたる北地区は、 山をおりてきた鹿による食害とともに、鹿について分布を広げているヤマビルが非常に多く、夏場は山にはいれば知らぬ間に血だらけになるほど。 庭や家の中にまで入ってくることもあります。
 地区別意見交換会や懇談会でも、里山保全の提案に対し、「地元の者でさえヤマビルが多すぎて山に入れる状況ではない。 まずヤマビル対策とヤマビル拡散の要因であるシカ対策が先だ」との意見が多くだされました。
 ヤマビルの防除方法としては薬剤散布がありますが、秦野市では飲用水の約7割を地下水から得ているため薬剤散布はできません。一方で、 ヤマビルが潜む落ち葉をかくことによって数が減ることが知られていました。地区別意見交換会では地元の農家の方から 「落ち葉かきをしている山は、確かにヤマビルは出ない」との発言もありました。そこで、 落ち葉かきなどの里山整備が本当にヤマビル対策として有効なのか、実際に検証みようということになりました。
 平成18年から平成19年にかけ、広葉樹林の草刈・落ち葉かきなどを実施してヒルが生息しにくい環境にし、 整備の前後でヒルの生息調査を行い、検証します。ヤマビルについては、 専門家である環境文化創造研究所ヤマビル研究会の谷重和氏に指導していただいています。


内 容
・里山整備の阻害要因となっているヤマビルは、落ち葉の下などの湿った環境を好むため、
広葉樹林で試行的に落ち葉かき等の里山整備をし、ヤマビル減少の効果を検証する。 効果が確認できれば徐々に周囲への整備範囲を拡大しボランティア活動・研修や体験の場として生かしながら継続することを検討する。
・ヤマビル対策効果検証のため、専門家((株) 環境文化創造研究所ヤマビル研究会)の指導による調査を実施し、 検証区域の設け方や落ち葉の処理方法等を検討する。
・検証区域(別図参照)ヤマビル区画
 約3.4haをA~Dの4つの区画にわけ、それそれ下の①②③の検証区 域、比較検証のための④ヤマビル撲滅試験圃場を設ける。
①すべて落ち葉かきを実施し搬出する場所
②落ち葉かきを実施し搬出しない場所
③落ち葉かきを実施しない場所
④ヤマビル撲滅試験圃場を設ける。


経過及び予定
○8月27日 地元生産森林組合員と現地下見・打合せ
○9月6~8日 整備前のヤマビル生息調査
○9月20~29日 ヤマビル撲滅試験圃場(試行区画図④)の設置
○12月3日 下草刈り・間伐
○1月28日 落ちかき
○平成18年初夏 整備後のヤマビル生息調査

 


 

○8月 27日(土) 事業地の下見・打合せ  15名参加
○9月 5~8日(火)整備前のヤマビル生息調査 18名参加
環境文化創造研究所の指導により、 地元生産森林組合員、秦野市役所職員で実施しました。調査方法は、ヤマビルを誘引し捕獲する方法。 調査区ごとに杭をうって調査ポイントを設置し、ポイントごとに約3㎡の円内で、地面に振動をくわえ呼気を吹き、 出てくるヤマビルを採取します。一箇所およそ5分間。動物や人が通る道沿いに特に多くみられ、多いところでは30頭以上が採取されました。 また小さいヒルが多く、今年産卵・孵化したものが多いようでした。5月ころから動き出し吸血すると2ヶ月で卵を産むそうです。 6日の調査のあとには環境文化創造研究所ヤマビル研究会より講義があり、ヤマビルの生態、防除方法、咬まれたときの対処方法、 他地区の事例等についてスライドを用いての説明がありました。
*詳細のヤマビル生息数調査の報告は、検証後の報告とあわせておこないます。
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○9月20(火)~29日(木) ヤマビル撲滅試験圃場の設置 16名参加
草刈・落ち葉かきしたのち、全面からヤマビルを捕獲・頭数調査し、ヤマビルを持ち込む鹿が一切入らないように柵を設置しました。 面積は約600㎡。

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↓整備前                  ↓整備後
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○12月3日(土)下草刈り・間伐
日 時 平成17年12月3日(土)9:00~15:00
場 所 北地区羽根 約3.4ha
参加者 約160名
(菩提生産森林組合・菩提滝の沢保存会31名、横野造林組合16名、羽根生産森林組合11名・戸川三屋生産森林組合生産森林組合13名、 北財産区、北地区まちづくり委員会4名、農業生産組合1名、森林組合2名、荒廃農地解消ボランティアの会6名、寺山農楽塾6名、 まほろば里山林を育む会4名、ボランティア養成研修21名、里山整備ボランティア27名、秦野市、環境省、里地ネットワーク)
指 導 地元林業関係者、(株)環境文化創造研究所ヤマビル研究会 谷重和氏

内 容
A~Dの区画ごとに班を編成し実施しました。地元生産森林組合員の方が刈払い機で草刈りし、他の参加者は刈り草を集めたり、ナタ・ カマで刈り払いを行いました。チェーンソーで潅木、枯れ木、倒木も整備し、萌芽更新で株立ちしたものは間引きしました。ササが多いところ、 斜度がきついところなど様々でしたが、それぞれ地元生産組合員等の指導のもとに作業を進めました。仕上げには、 1月に実施予定の落ち葉かきで熊手が引っかからないように、地面に這うツル植物を刈りはらう作業を行いました。 また②の検証区内には伐採した草木で堆肥置き場を作りました。
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最後に環境創造文化研究所の谷氏よりヤマビルについて説明がありました。
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・ヤマビルは日本には一種類で秋田が北限、北海道と四国にはいない。
・シカなど野生動物の血を好む。ヒルが吸った血を調べると、秋田では6割 がカモシカ、兵庫では5割がニホンジカ、2割がイノシシ。 野生生物とともに生息域を広げる。
・吸盤にセンサーがついており、二酸化炭素、温度、その他呼気に含まれる物質を感知する。感知すると1m/分の速さで近づき、 一回2cc位吸血する。マウス等小動物は3匹位に吸血されると血液が減りショック死することがあるが、人間はそのようなことはない。
・吸血すると1ヶ月で産卵し、その後1ヶ月で孵化する。9月にここで行った調査では子ビルが多かったので今年、産卵・ 孵化したものと思われる。冬は地面に潜って越冬するか、寒さに耐えられず死ぬ。
・3つのあごがあり、一つに約70の小さな歯がついている。吸血する際、ヒルジ ンを分泌する。ヒルジンには抗血液凝固物質、 血管を広げる物質、痛みを感じさせないモルヒネのような物質等が含まれているため、気づかぬうちにかまれ血がとまらなくなる。

[症状と対策]
・症状は、血がでてなかなかとまらない、かゆみ、腫れなど。
・吸血されたら、すぐに取って確実に殺す。手でとる、タバコの火を近づける、水をかけるなどしてとる。ヒルジンを絞りだし、 カットバンを張っておく。
・吸血により死ぬことは殆どないがヒルを媒介に動物由来感染症になる可能性がある。

[防除方法]
①薬剤散布
②環境 乾燥した環境にする(草刈り・落ち葉かき等の整備をする)
野生動物対策(整備して見通しよくすればシカも出てきにくいのではないか)

[質疑]
Q:今日の活動で卵などが体についていることはないか?
A:冬は冬眠で土にもぐっているのでそのようなことはない。
Q:ヒルの餌は血のみ?天敵は?
A血のみと言われている。土壌有機物等を食べるかは調 査中。自然界に天敵はない。
Q:川のヒルとは違うのか
A:川には日本では30種くらいのヒルがいる。ヤマビルは1種。水田にいて血を吸うのはチスイビル。瀉血療法に使われる。
 

2005年12月08日 [レポート]

上地区竹林整備活動 報告書

日 時 平成17 年11 月26 日(土) 9:00~15:00
場 所 秦野市上地区三廻部 竹林2,000 ㎡
参加者 上地区竹林部会 約10 名
         ボランティア養成講座21 人、応募者22 人、
         炭焼き研究会6 名、四十八瀬川自然村5 名、
         秦野市、環境省2 名、里地ネットワーク2 名 総計70 名程度

指 導 竹材業 鍛代権之助 氏
     (全日本竹産業連合会員・県竹林協会副会長)

目 的
竹は、かつてはタケノコや資材として利用されてきました。秦野にも集落の近くに
竹林がありますが、最近は利用が減り放置されるところが増えています。放置され
た竹林は過密になり、景観が荒れ、表土を抑える力も衰え、植生は単調化して生物
多様性の低下を招きます。さらに放置すれば周囲に拡大してしまいます。このよう
な竹林をもう一度整備し、人が入れる、タケノコのとれる楽しい身近な竹林として
再生します。

内 容
9:00 現地に集合(案内図のとおり)
9:05 あいさつ・作業日程の説明
9:15 竹林管理の必要性・管理の方法 
       竹材業 鍛代権之助 氏
10:00 実習作業開始
12:00 昼食休憩・交流
13:00 作業再開
14:00 作業終了。片付け
14:15 竹林整備のまとめ 里地ネットワーク
14:35 竹の活用 部会長
15:00 連絡事項・解散


・始めに上地区竹林部会会長の小宮氏と環境省から挨拶があったあと、本日の指
 導者である鍛代氏から、竹林の整備方法について話があった。鍛代氏は、全日
 本竹産業連合会員・ 県竹林協会副会長。平塚の七夕祭りで使用する竹をほぼ
 全て納めている竹産業の専門家です。

・鍛代氏による竹林整備についての説明:
  ・安全の確保 1、竹林内でタバコは吸わない 2、作業はゆっくり
  ・高伐り(地面から30~40 センチ以上の高さで伐ること)をしたままおいて
   おくと、地下水が通りにくく根が弱くなり、細い竹しか出なくなるので、
   地際で切り直すこと。根を張らせるにはに、古い竹は切って青い竹を残す。
  ・伐るのは9月から2月。使う場合は3~4 年ものがよい。竹の年齢の見分け方
   1年:青い 2 年:少し黄ばむ 3 年:朝日の当たる側が黄色くなる
   4年:全体的に青みが薄く黄色い 5 年:葉が枯れ始める
   6 年:葉がなく立枯れる
  ・作業時は、歩く場所1.5~2mくらいを地面まで完全にきれいにする。
  ・根元はハスに切る。切り口が危険でないように3~4回に分けてノコを入れる。
  ・倒す方向は引き出すのと逆の方向(根元から引き出せるように倒す)。
   長いものは玉切りしてから搬出する。枝はおとして纏める。
  ・籠には4 年目のものが最適。1,2,3 年目のものではしいなびる。5 年目の
   ものは、よじったときに節と節の間が折れてしまう。竹垣をつくるときは、
   竹用のニスをぬって、石鹸と米ぬかを混ぜたものを布にふくませて拭くと長も
   ちする。竹垣は、青竹でつくるのであれば地面にさした方が長持ちする。根が
   なくても多少水を吸うため。地面から離したものより1 年くらいもつ。

・作業は、3 班に分かれ、3 箇所に区切って作業を行いました。まず枯れ竹を出す作業。
 竹林は斜面であり搬出場所の道路は上側だったので、受渡しをしながらの
 搬出でした。縄を利用しながらまとめて道路まで運び、そこでさらにトラックに摘
 みこみ(1 班は作業場近くまでトラックを下ろした)、指定の場所に運搬しました。
 古竹などは 後日焼却することになっています。
・枯竹は出しても出しても切りがなく、トラックでのに合わないほど。そのため途中か
 らは、枯れ竹は玉切りして林内にそろえて積んでおくこととしました。枯れ竹整理後
 は込んだところの4,5年以上の竹を中心に伐採しました。枝を払い、使える竹は
 5mに切り揃えて指定場所に運搬し、積んである。これは希望者が持ち帰ってよ
 いことになっています。
・鍛代氏は昼で帰られましたが、昼食の時間に伐採すべき竹に紐で印をつけてい
 かれたました。午後の作業も順調に進み、鍛代氏がマーキングしたものは全て
 伐採し、班によってはそれ以上に伐採を進めることができました。


   作業前      →     作業後

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・2 時過ぎに作業を終え、竹カップ(一部紙コップ)の甘酒をいただきながらまとめを行
 いました。里地ネットワーク竹田からは、鍛代氏の話を復習し一部追加して、具体的
 な竹林整備方法について確認をしました。その後、上地区竹林部会の小宮氏より、
 竹の利用について話がありました。
 「上地区にもかつては竹屋があり、農閑期には農家の仕事として竹細工などをやったが、
 最近は外国産があふれてしなくなった。引き継ぐものもおらず、竹林は放置された
 ままとなっているところが多い。今でも竹細工をしている人が上地区にいるので、
 希望があれば職人に取り次ぐことができるので連絡を。また「炭焼き研究会」で竹炭を
 焼いている。飲み水に一晩いれると美味しい水になるし、ご飯を炊く時や天ぷらに
 使っても良いので、是非利用してほしい。」

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・参加者について、地元竹林部会はボランティアが沢山集まったことに驚いていました。
 参加者の中では、男子高校生2 人が先生と一緒に参加し大変張り切っていたのが印象深
 いです。先生が授業の一環にとりいれたいとのことです。また、東京農業大学(地球環
 境学部森林総合科学科)の女子学生2 名も参加しました。「環境学習・自然体験」とい
 うテーマで自分で活動を探し、参加してレポートを書くという授業とのこと。教育の場
 としても里山保全活動が活用されることを期待したいです。

・作業の終了するころには、林床に光のさす竹林となり、「今日参加した人にカードを渡
 して春にタケノコ掘りにきてもらうといい」という声が聞こえてきました。まだそのよ
 うな計画はたっていませんが、竹林は、せっかく整備しても継続しなけば3 年でもとに
 戻ってしまいます。整備に参加した人たちがタケノコ掘りなどを楽しむ機会をつくり、
 利用しながら管理を継続できるようにする仕組みづくりが必要です。


2005年12月02日 [レポート]

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