鳥獣・ヤマビル対策としての里山整備(北地区羽根) 平成17年8月27日、9月6~8日、9月20~29日、12月3日
鳥獣・ヤマビル対策としての里山整備(北地区羽根)
平成17年8月27日、9月6~8日、9月20~29日、12月3日
主 旨
秦野の里山はかつてタバコ生産のために落ち葉かきをしていました。人が歩ける明るい里山でした。今、
秦野の里山の多くが暗く湿った森になっています。もう一度、人と自然が共存できる里山に戻すため、
落ち葉かきができる明るい里山づくりのための作業をします。また、秦野の丹沢山系側の里山ではシカやイノシシがヤマビルを持ち込み、
広がっています。山を明るくすることで、ヤマビルが住めない里山にするための試行事業を実施するものです。
北地区において、里山に関する地元の最大の問題意識はヤマビル・鳥獣被害にありました。丹沢の麓にあたる北地区は、
山をおりてきた鹿による食害とともに、鹿について分布を広げているヤマビルが非常に多く、夏場は山にはいれば知らぬ間に血だらけになるほど。
庭や家の中にまで入ってくることもあります。
地区別意見交換会や懇談会でも、里山保全の提案に対し、「地元の者でさえヤマビルが多すぎて山に入れる状況ではない。
まずヤマビル対策とヤマビル拡散の要因であるシカ対策が先だ」との意見が多くだされました。
ヤマビルの防除方法としては薬剤散布がありますが、秦野市では飲用水の約7割を地下水から得ているため薬剤散布はできません。一方で、
ヤマビルが潜む落ち葉をかくことによって数が減ることが知られていました。地区別意見交換会では地元の農家の方から
「落ち葉かきをしている山は、確かにヤマビルは出ない」との発言もありました。そこで、
落ち葉かきなどの里山整備が本当にヤマビル対策として有効なのか、実際に検証みようということになりました。
平成18年から平成19年にかけ、広葉樹林の草刈・落ち葉かきなどを実施してヒルが生息しにくい環境にし、
整備の前後でヒルの生息調査を行い、検証します。ヤマビルについては、
専門家である環境文化創造研究所ヤマビル研究会の谷重和氏に指導していただいています。
内 容
・里山整備の阻害要因となっているヤマビルは、落ち葉の下などの湿った環境を好むため、
広葉樹林で試行的に落ち葉かき等の里山整備をし、ヤマビル減少の効果を検証する。
効果が確認できれば徐々に周囲への整備範囲を拡大しボランティア活動・研修や体験の場として生かしながら継続することを検討する。
・ヤマビル対策効果検証のため、専門家((株) 環境文化創造研究所ヤマビル研究会)の指導による調査を実施し、
検証区域の設け方や落ち葉の処理方法等を検討する。
・検証区域(別図参照)
約3.4haをA~Dの4つの区画にわけ、それそれ下の①②③の検証区 域、比較検証のための④ヤマビル撲滅試験圃場を設ける。
①すべて落ち葉かきを実施し搬出する場所
②落ち葉かきを実施し搬出しない場所
③落ち葉かきを実施しない場所
④ヤマビル撲滅試験圃場を設ける。
経過及び予定
○8月27日 地元生産森林組合員と現地下見・打合せ
○9月6~8日 整備前のヤマビル生息調査
○9月20~29日 ヤマビル撲滅試験圃場(試行区画図④)の設置
○12月3日 下草刈り・間伐
○1月28日 落ちかき
○平成18年初夏 整備後のヤマビル生息調査
○8月 27日(土) 事業地の下見・打合せ 15名参加
○9月 5~8日(火)整備前のヤマビル生息調査 18名参加
環境文化創造研究所の指導により、
地元生産森林組合員、秦野市役所職員で実施しました。調査方法は、ヤマビルを誘引し捕獲する方法。
調査区ごとに杭をうって調査ポイントを設置し、ポイントごとに約3㎡の円内で、地面に振動をくわえ呼気を吹き、
出てくるヤマビルを採取します。一箇所およそ5分間。動物や人が通る道沿いに特に多くみられ、多いところでは30頭以上が採取されました。
また小さいヒルが多く、今年産卵・孵化したものが多いようでした。5月ころから動き出し吸血すると2ヶ月で卵を産むそうです。
6日の調査のあとには環境文化創造研究所ヤマビル研究会より講義があり、ヤマビルの生態、防除方法、咬まれたときの対処方法、
他地区の事例等についてスライドを用いての説明がありました。
*詳細のヤマビル生息数調査の報告は、検証後の報告とあわせておこないます。
○9月20(火)~29日(木)
ヤマビル撲滅試験圃場の設置 16名参加
草刈・落ち葉かきしたのち、全面からヤマビルを捕獲・頭数調査し、ヤマビルを持ち込む鹿が一切入らないように柵を設置しました。
面積は約600㎡。
○12月3日(土)下草刈り・間伐
日 時 平成17年12月3日(土)9:00~15:00
場 所 北地区羽根 約3.4ha
参加者 約160名
(菩提生産森林組合・菩提滝の沢保存会31名、横野造林組合16名、羽根生産森林組合11名・戸川三屋生産森林組合生産森林組合13名、
北財産区、北地区まちづくり委員会4名、農業生産組合1名、森林組合2名、荒廃農地解消ボランティアの会6名、寺山農楽塾6名、
まほろば里山林を育む会4名、ボランティア養成研修21名、里山整備ボランティア27名、秦野市、環境省、里地ネットワーク)
指 導 地元林業関係者、(株)環境文化創造研究所ヤマビル研究会 谷重和氏
内 容
A~Dの区画ごとに班を編成し実施しました。地元生産森林組合員の方が刈払い機で草刈りし、他の参加者は刈り草を集めたり、ナタ・
カマで刈り払いを行いました。チェーンソーで潅木、枯れ木、倒木も整備し、萌芽更新で株立ちしたものは間引きしました。ササが多いところ、
斜度がきついところなど様々でしたが、それぞれ地元生産組合員等の指導のもとに作業を進めました。仕上げには、
1月に実施予定の落ち葉かきで熊手が引っかからないように、地面に這うツル植物を刈りはらう作業を行いました。
また②の検証区内には伐採した草木で堆肥置き場を作りました。
最後に環境創造文化研究所の谷氏よりヤマビルについて説明がありました。
[生態]
・ヤマビルは日本には一種類で秋田が北限、北海道と四国にはいない。
・シカなど野生動物の血を好む。ヒルが吸った血を調べると、秋田では6割 がカモシカ、兵庫では5割がニホンジカ、2割がイノシシ。
野生生物とともに生息域を広げる。
・吸盤にセンサーがついており、二酸化炭素、温度、その他呼気に含まれる物質を感知する。感知すると1m/分の速さで近づき、
一回2cc位吸血する。マウス等小動物は3匹位に吸血されると血液が減りショック死することがあるが、人間はそのようなことはない。
・吸血すると1ヶ月で産卵し、その後1ヶ月で孵化する。9月にここで行った調査では子ビルが多かったので今年、産卵・
孵化したものと思われる。冬は地面に潜って越冬するか、寒さに耐えられず死ぬ。
・3つのあごがあり、一つに約70の小さな歯がついている。吸血する際、ヒルジ ンを分泌する。ヒルジンには抗血液凝固物質、
血管を広げる物質、痛みを感じさせないモルヒネのような物質等が含まれているため、気づかぬうちにかまれ血がとまらなくなる。
[症状と対策]
・症状は、血がでてなかなかとまらない、かゆみ、腫れなど。
・吸血されたら、すぐに取って確実に殺す。手でとる、タバコの火を近づける、水をかけるなどしてとる。ヒルジンを絞りだし、
カットバンを張っておく。
・吸血により死ぬことは殆どないがヒルを媒介に動物由来感染症になる可能性がある。
[防除方法]
①薬剤散布
②環境 乾燥した環境にする(草刈り・落ち葉かき等の整備をする)
野生動物対策(整備して見通しよくすればシカも出てきにくいのではないか)
[質疑]
Q:今日の活動で卵などが体についていることはないか?
A:冬は冬眠で土にもぐっているのでそのようなことはない。
Q:ヒルの餌は血のみ?天敵は?
A血のみと言われている。土壌有機物等を食べるかは調 査中。自然界に天敵はない。
Q:川のヒルとは違うのか
A:川には日本では30種くらいのヒルがいる。ヤマビルは1種。水田にいて血を吸うのはチスイビル。瀉血療法に使われる。
2005年12月08日 [レポート]