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「多自然川づくりと地域との連携」
「河川」H18年11月号への寄稿原稿です。詳細は、「河川」をご覧ください。
「多自然川づくりと地域との連携」
特定非営利活動法人 全国水環境交流会
代表理事 山道 省三
●はじめに
オーストリアやスイスあたりから、近自然河川工法の考え方や事業の情報が耳に入るようになったのは、1970年代前半の頃と思う。
日本の河川管理者やコンサルタントなどが、足繁く現地に赴き、調査やヒアリングを重ねていた。私も何人かの川仲間とスイス、
ドイツなどを訪れたことがある。その時知ったこの川づくりの思想は、「川の中の自然復元は、水の流れに任せる」、「川の中に何も持ち込まず、
何も運び出さない」という徹底した技術思想であったかに思う。果たしてそんなことが可能なのか?
当時の日本の河川管理からは考えられないことだった。事実、いくつかの事例を見るうちに、小規模な河川改修にあたって、
数本の柳を切らざるを得なくなったドイツの河川管理者が、住民から裁判所に工事指し止めの請求を起こされ困り果てている姿が印象深かった。
どうやら、ヨーロッパでも全ての川に近自然工法を採用するとは限らず、川づくりの精神として、
あるいは運動論としての性格が当時は強かったようにも思える。
日本で「近自然」ならぬ「多自然」という表現を日本なりの理念をもって事業化が始まったとき、全国でこの成果がどうなるか議論が伯仲した。
なかでも、川の自然環境に関心を寄せる人たちからは、多自然型川づくりの名のもと、また川をいじるのかという意見が多かった。また、
本来日本の伝統工法は自然共生の技術なのだから、外国のまねをする必要はないということで、
市民団体が主催してシンポジウムを行なったこともある。
そして、16年経った今、多自然型川づくりが日本に誰もが評価するいい川をもたらしたかを考えるとき、
何ともやり切れない思いで急勾配の護岸に設置された緑化護岸の枯れ果てた草花や、砂に埋もれた魚巣ブロック、
ホタルブロックの風景を思い浮かべる人は多い。ただこの問題は、工法や施工材の問題というより、
むしろ日本の川の望むべき将来像や川や自然に対する感性の欠如ではないかと思う。
既に川で遊んだことのない世代が現場で指揮をとる時代になっている訳で、多自然型川づくりの理念をどう理解、
消化すればいいのか分からないままの12年ではなかったかと思う。
●住民の声
多自然型川づくりのレビューが始まった昨年の秋、全国水環境交流会の会員に、これまでの多自然型川づくりに関する意見を求めた。そこには、
理念、制度、技術、地域との関係など、各地での現場経験からさまざまな意見が挙がってきた。その中からいくつか紹介する。
<川で活動する住民・市民へのアンケート(2005年9月実施)より抜粋>
・ 常に攪乱が生じるという物理的環境と、それにより見え方が常に変わるという景観の捉え方、
同時に独自な生態系が消長を繰り返すという事とともに、その地域の人とのかかわり(歴史)が存在している。
これまで行なわれてきた多自然型川づくりは、そうした日本の川に対する理解が不足している中で実践されていることで各種の批判が生じている。
・ 合意形成上の問題としては、実施設計段階で市民参加を行なうため川づくりの検討に期間的な余裕がない。また、
実施設計後に市民の意見を聴く場合も少なくない。合意形成のノウハウや技術が河川管理者に不足している。
合意形成において学習のプロセスや専門家の参画がないため、地先住民の要望と関心のある市民や専門家等の参加が充分でない。
・ 「近自然型河川工法」の原則、自然生態や河川景観の専門家をつける制度にすべきだ。「多自然型川づくり」事業が
「近自然型河川工法」の地域産業化や地域職業化のように、地元の土建屋さんが「生態学を学ぶ土木技術者であり、住民やNPOとの連携交流者」
であること。その中で、地元での職業管理、NPO管理、住民管理への道筋をつける必要がある。等々(部分記載)
河川法の改正の直前、「今後の河川環境のあり方」とする審議会答申(平成7年)がなされ、川での生物生息環境づくり、
健全な水循環の回復、川と地域の関係の再構築が提言された。この時、
地域と川との関係の再構築とはどんなことか河川管理者を含め議論したことがある。私なりに整理したストーリーとしては、
「川は通常時でもある程度の水量と良好な水質が保たれて流れ、
その流れが形成する河川地形の中で育まれた生きものが世代を交代しうる環境こそが大切である。そして、そうした川に地域の人々が関心を示し、
触れ合い、自然の脅威や恵みとどうつきあっていくかを改めて考え直そう。そのことが、
ひいては災害に対する心構えや対応能力をつけていくことにつながる。従って良好な河川環境の保全や整備は、減災が大きな目的でもある」
と理解した。多自然型川づくりであれ、「型」をとった多自然川づくりであれ、大きな目的、住民の関心は、この点で変わりはない。今日、
各地で川をフィールドにして活動している人たちは、思い思いのさまざまなメニューを持ち、川から流域へ、あるいは教育、福祉、
まちづくり等へと多岐に多様に広がりつつあるものの、
やはり究極は自然とどうつきあってくかの感性や技術を個々が獲得することにあるように思う。
多自然川づくりの目的もそこにあるのではあるまいか。
全国での動きや目的を整理すると、図-1の様である。
図-1 地域住民による川や水辺の活動の概要

ただ、こうした活動が多様化しても地域住民にとっては、まだ地先での活動や関心のあることに集中していて、
水系や流域といった広域な視点や川や国土管理に戦略的に踏み込もうとする意識は希薄である。
ただこれまでの活動歴やボランティア活動としての立場からすれば無理からぬところもでもあるが、これをどう乗り越えるかを考え、
行動しなければならない。
●地域の連携策
多自然川づくりの今後の展開にあたり、理念、技術、手続き等を抜本的に改革し、加えて地域との連携を密にすることで、
官民ともに納得のいく川づくりをめざすため、住民、市民団体の立場から、今、作業部隊の一員としてワーキングに参加している。そこで、
提案したことは、
① 「多自然」は、自然はもちろん、川と地域の歴史や文化も含む概念であり、川の文化の醸成や継承の主役は地域住民である。
多自然川づくりはその条件整備に他ならない。
② 地域住民は、多自然川づくりによる“いい川”を育てるため、川の自然や歴史、文化を地域情報として把握し、“いい川”の保全、
整備に積極的に参画をする。
③ 住民と河川管理者は、“いい川づくり”のビジョンを共有し、事業の推進に当って、密接な連携を図るとともに、
協働の推進体制をつくる。
といった考えのもと、図-2に示すような推進体制と、当面、全国キャンペーンの展開について提案し、ワーキングで検討することになった。
この図に示した主な事項について概略紹介したい。
図- 2 多自然川づくりを普及、推進するための制度づくり・仕組みづくり 提案

【(仮称)多自然川づくりサポートセンター】
これまで、川の管理、整備については河川法に見られるように、住民の参画を推進してきた。しかし、中身は、意見を聴くということで、
いわばガス抜きではないかとの批判もあった。このセンターは、情報は無論、事業展開に当ってさまざまな形で住民が参加し、
協働で推進するためのプラットホームである。これは、事業を採択し、執行する河川局の各セクションと地域住民、
学識者による中間支援型の組織として位置づけるもので、相当な規模や権限を有するものとする。ここでは、情報の管理や運用、合意調整、
人材育成、事業やモニタリング等の中心的役割を果たす。そして同様の地域センターを各地に展開する母体にもなる存在である。
【当面キャンペーンとしての展開事業】
① 「次代に遺したい川、水辺の魅力再発見運動」は、地域住民が獲得し、
継続的に多自然川づくりを推進するためのキャンペーン化するもので、体系的に地元の川や流域の情報を官民共同で収集しデータベース化する。
この情報は計画、設計、管理の情報に資するとともに、日常の活動の中で体験学習やリバーツアー、まちづくり等への資料となる。
またこうした活動を通して地域の川のマイスターやアドバイザーといった人材を育てることや、川の交流拠点づくりを推進する。
この情報の共有一つで官民双方の川に対する考え方や川づくりの中身も大きく変わるはずである。
② その他、多自然川づくりの制度や技術等が大きく変わるにせよ、現場の技術者、学者、住民等への研修は繰り返し行われるべきで、
10年や20年のプログラムとして推進する確固たる信念が求められる。
「多自然型川づくり」が通達された8年後、現場の事例がそろそろ出始めた頃、官民連携による「川の日」ワークショップ(第1回,
1998年7月)が始まった。このワークショップのテーマは、「“いい川”、“いい川づくり”とはなんだろう?」と、全国の人達に呼びかけ、
これこそ我が川のいいところであるというメッセージを持ち寄り議論し、その共有を図ろうとする公開選考会である。今年で9回目。
これまで全国から約650件がエントリーし、4500人以上が参加した。このワークショップは韓国にも飛び火し、
韓国の全国大会も5回目を迎えている。また、国内の8つの地域や流域で同様の選考会が毎年行われるようになった。このワークショップでは、
毎回新たな発見や“いい川”とは何かのイメージが共有されつつある。やはり“いい川”の筆頭条件は、
地域の人達との濃密な関係の上に成り立つ、見てくれや水質の良し悪しの判断だけとは違う、愛着の持てる川という点だろう。
多自然川づくりは、日本の川のありようを大きく変えようとしている。永年、地元の川とつきあって来た人たちにっとっては願ってもないことだ。
この事業が、これまで毎年のごとく出された新規事業やモデル事業のように短命であってはならない。
官民とも腰を据えた取り組みをしていかなければならない。
Title;“Nature-oriented River Works with local community”
NPO全国水環境交流会代表理事 山道 省三
Representative Director, National Association for Local Water
Environment Group
Shozo Yamamichi
2007年01月06日 | 川の再生
