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木村 尚
●海辺つくり研究会 木村 尚
きむら・たかし 海辺つくり研究会理事(事務局長) 1956年11月、横浜市生まれ。
■生まれ育った「港町」で
わたしは、「港の歌」を市歌とする横浜市に生まれ育って、小学生のときから事あるごとに「港町・横浜」の意識を刷り込まれてきたんです。
一九五〇年代後半の日本は経済成長期にあり、東京湾内にもたくさん海水浴場がありました。干潟も数多く残され、簾(す)
立て遊びや干潟での脚立釣りも行われていた。江戸川河口ではハマグリが採れ、海苔(のり)漁業も盛んで、
東京湾の漁獲高はピークを迎えようとしていた。
ところが一九六〇年代半ばを過ぎると、東京湾の後背地の人口は爆発的に増え、干潟の埋立も進み、湾の環境が著しく悪化していった。
横浜市でも、東京都内に働きに出る人々の宅地の造成が内陸部を中心に進み、その人口が増加するにつれて、「横浜=港町」
との意識は言葉だけのものとなっていった。並行して港内の水質も悪化の一途をたどり、人々の気持ちはますます海から離れていったのです。
大学は東海大学海洋学部で、もともとの専門は海洋地質。プレート・テクトニクスを専攻していました。オイルショックの後、
一九七九年に卒業。就職難のころで、ほとんど就職ができる状況ではなかった。海のことで何かやりたいと思っていたもののなかなか見つからず、
やっと拾ってもらったのがサルベージ会社でした。
海とのつながりのある仕事に就いた私が、なぜ今はNPOの専従になったのか、「浜」
のない横浜に海辺をつくろうと活動するに至ったのかをお話しします。
■何のための「環境コンサル」
サルベージ会社の仕事の内容は、沈没した漁船の引き上げや海難救助が多かった。とはいえ人の不幸を喜んでばかりもいられない。
では日常的に何をやるかと考えたとき、大学時代にかじっていた環境関係の仕事を始めることにしたんです。会社の中で三人が声を掛け合い、
組織をつくってスタート、それが順調にいき始めて独立した。
環境の仕事といっても、その当時は、ある知事が「今の子どもたちは昔と違って、青い空もきれいな海も知らないから、
大人になってもそんなものを求めない。だから環境行政なんかをやる必要はないんだ」と、そんなことを平気で言っていた時代でした。
始めた会社はコンサルタント会社で、海の調査を商売にしていたんです。最初は会社を何とか大きくしていかなきゃいけないという気持ちで、
海へ行ってはバケツで水を汲んで分析する。一杯汲むと一〇〇〇円とか二〇〇〇円になった。水を汲んで、海を眺めながら、「銭がうなっとるな」
などとやっていました。
そうこうするうちに、「何のためにやっているんだろう」という思いが強まってきた。開発行為のような話がないと、
環境調査の仕事なんてなかなかなくて、環境、環境と言いながら、やればやるほど、何か海全体の環境はますます悪くなっていく、
そんな思いが強まった。
■ボランティア活動で見えたもの
仕事に余裕も出てきて、ボランティア活動に参加し始めた。やっていくと、いろいろな問題点に気が付く。企業としてできることの限界や、
ボランティアの人たちによって、市民活動としてしかできないことがある。そういったことにだんだん気がついていった。
海の分野でいうと、こうした市民活動が行政や民間にはできない“すき間”にあると感じたのがひとつ。もうひとつは、反対運動って、
確かに行政が動き出すきっかけにはなる。でもきっかけにはなっても、結果として、反対運動によってもあまり海がよくなってはいない。
例えば、埋め立ては阻止できたものの、その後、では反対運動がうまく昇華して活動が続き、
そこがよくなっていった事例がどれだけあったのか。戦術的に反対運動というのはどこか限界があるのではないかと感じていた。また、
仕事としてやっていた環境アセスメントは最低限の現状維持であって、「よくする」行為ではないとの思いもあった。
もう少し何か踏み込んでできないかなという閉塞感を抱いていました。
企業にいながらボランティア活動に取り組んで、結構、いわれなき誹謗も受けてきた。当時は、企業にいる人間がこうした活動に参加すると
「企業利益のためにやっている」とみるような人も多かった。「誰がやってもいいんじゃないの」と思いながらやっていたものの、
どうにも納得できないような状況があった。
やっていくうちに、だんだん周りに人が集まってきた。誰かが事務局機能を果たさないと、
平日の晩と土日だけじゃもうどうにもならないなという感じになってきた。「だれかやらなきゃいけないな」といったとき、
自分はちょうど四〇歳を越していた。人生半分終わったから、残り半分は好きなことをやっていこうかなと発足させたのが、「海辺つくり研究会」
です。
(『第1章 森、里、川、海──四分野で目指しているもの 4 「海」』より抜粋)
2005年11月18日 | メンバー
