シンポジウム 3
トキを軸とした島づくり 概要報告





2002年10月19日(土) 新潟県両津市 佐渡島開発総合センター



 環境省の「共生と循環の地域社会づくりモデル事業」も一区切りの3年となりました。2002年10月19日には、第3回目のシンポジウムを開き、現在、3月にとりまとめのビジョン(島づくり構想)作成が、(財)自然環境センターを中心に行われています。このシンポジウムの報告集も、ビジョン作成に合わせ発行する予定です。
 3回目となったシンポジウムは、佐渡島各地で行われている「トキを軸とした島づくり」への佐渡島民からの答えとなる、具体的な活動報告が行われました。また、会場には、各集落、小中学校、NGO、農業者組織、研究機関などが、それぞれの活動をパネルで展示しました。
 2000年の第1回シンポジウムは、トキの野生復帰に向けた地域社会づくりのあり方について「考える」会となりました。佐渡島民の関心は高かったものの、その背景には農業者を中心とした不安があり、また、具体的に何ができるのか、誰が主体なのか、そういったことからはじめてきっかけをつくる会でした。
 2001年の第2回シンポジウムは、わずか1年ですが、すでに佐渡島内で行われてきたトキに関わる活動や、有機農業、小中学校での取り組みなどが発表されました。日本各地から、その地域の自然環境を保全しながら地域づくりをしている先進的事例のリーダーを招き、手法を発表してもらいました。その結果、これまでの佐渡で行われている活動の延長にトキの野生復帰と地域づくりがあることを再認識する会となりました。
 3回目の今回は、佐渡島民の活動と全国のトキに対する注目がつながりながら、新しい地域社会づくりを可能にするのではないかという期待を持たせる会になりました。すでに、佐渡島内や島外から佐渡に来ての活動は勢いを増しています。佐渡島民の主体的取り組みと、希望も大きくなり、合わせて具体的な問題も明らかになりつつあります。問題が明らかになれば、解決の糸口も見えてきます。なせばなる、という、明るい雰囲気に満ちたシンポジウムとなりました。
 シンポジウム3と、それに先駆けて行ったプレシンポジウム「環境保全型農業を考える車座トーク」の概要を報告します。


プレシンポジウム「環境保全型農業を考える車座トーク」

日時・場所:9月7日、両津市久地河内長安寺

 トキの野生復帰は、自然環境の整備もさることながら、農業との関係がもっとも大きな課題となります。トキは、水田の小動物を主な餌にしており、水田稲作という人間の活動に密着した動物です。野生復帰後は、農業との共生が必要になります。農薬の問題、水路の保全や棚田が放棄されないようにするための方策など、佐渡島のみならず、全国的な問題です。
 蛍を復活させる活動を行っている両津市久地河内地区の長安寺で、農業生産者を中心に集まり、トキを軸として環境保全型農業を佐渡島内に普及・拡大するための方法について報告と議論を行いました。

 報告は、JA佐渡組合長・山本茂樹さんが「すでに多くの人が環境保全型農業に取り組んでいます。今の段階では、それをやっても付加価値がつかないかも知れませんが、将来、佐渡は安全安心の農産物をつくっている島だという誇りと評価になり、佐渡農業の生き残る道となるはずです。そのために、がんばっていこう」との挨拶を行ない、その後、アイガモ農法、鯉農法による除草、米ぬかとくず大豆による抑草、不耕起農法、成苗2本植えや直播栽培など、稲作での除草剤を使わない農法が紹介されました。ビオトープづくりや、トキの最後の餌場となった生椿での棚田保全の状況が報告されました。さらに、久地河内のホタル米が都市部との産直で広がっていることやインターネット販売、生協や産直団体との販売についても紹介されました。小学校でのビオトープづくり、環境保全型農業に取り組む農業者の団体結成の動き、農村環境整備センターによるビオトープ水田づくり補助事業の動きなども紹介されました。
 その後議論がはじまり、水田稲作で無農薬にした場合、たとえばカメムシによって黒い点が米につき等級が下がってしまい、経済的に問題となることをどう対処するか、あるいは、具体的な農法、販売先などについて、島外から参加した流通団体やNGOなどのメンバーらと、佐渡島内の農業者間でさかんな議論が行われました。
 佐渡の農業全般については、他の日本全国と同様、高齢化や主に棚田などでの耕作放棄、また、雑木林や山の荒廃、農産物の価格の低迷などの問題があり、いかにして今後の農業が生き残るかという大きなテーマがあります。それを背景にしながらも、なんとかしなければ、なんとかできるはずだという思いにかられ、午後7時からはじまった車座での議論は、つきることなく、最後の話し合いの輪が解けたのは、とうに日付が変わった午前2時過ぎのことでした。
 何か具体的な結論が出る会ではありませんが、議論の後の参加者の表情はより明るくなっていました。


シンポジウム3 トキを軸にした島づくり

10月19日 佐渡島開発総合センター(新潟県両津市)

主催:環境省、新潟県、佐渡市町村会、トキシンポジウム実行委員会/佐渡青年会議所



 シンポジウムは、約300人の参加で行われました。主催者の環境省・小野寺浩審議官、新潟県庁・川上忠義出納長、佐渡市町村会・石塚秀夫会長からの挨拶、来賓として、農林水産省・富田友幸農村振興局資源課農村環境保全室長の挨拶ではじまり、「それぞれの活動宣言〜地元からの報告」を里地ネットワーク・竹田純一事務局長の司会で行いました。
 行谷小学校からは子どもたちによる総合学習でのトキとビオトープの取り組み報告、新潟大学農学部附属フィールド科学教育研究センターによる調査と餌場づくりモデルの報告、片野尾地区の活動と中国視察報告、プレシンポジウム報告および会場の各取り組み展示の紹介が行われました。
 その後、野浦地区の双葉会による演劇「10年後の野浦」が披露され、トキが順調に増え、飛来するようになった日を楽しく演じ、会場から笑いを誘っていました。
 ビジュアルプレゼンテーションとして、
「トキ野生復帰に向けた自然環境調査の概要報告」(財)自然環境研究センター
「トキ野生復帰に向けた共生と循環の地域社会ビジョン」里地ネットワーク
「人と野生生物が共生する農山村地域構築事業について」農林水産省
 の報告がありました。
 ここでは、3月にとりまとめられるトキ野生復帰にむけた順化施設の設置案の紹介や、野生復帰のための天敵回避や森林復元などの問題整理と解決手順案が紹介されました。
 トキを軸にした島づくりのために、観光や産品開発の手法、島内外との連携手法についての整理と提案も行われました。そして、環境省や新潟県の事業だけでなく、農水省の事業としてもトキの野生復帰と農業環境の調和をはかるための事業提案が行われています。
 これを受けて、ビジョン検討委員会座長の大島康行さんの司会による意見交換が行われ、この中では、会場より、JR東日本として新幹線の名前にトキを復活させることや、都市と佐渡を結ぶために交通機関として、他の交通機関と協力しながら、観光やボランティア活動に役立てる取り組みができないかといった、具体的な提案も出されました。
 また、トキの野生復帰をめざす農業者の会が設立され活動がはじまったことなどが紹介されました。
 生椿の農家・高野毅さんが最後に、「関係機関の支援と協力を得て、それぞれの地域で息吹が芽生えています。地域住民にとっては大きな期待となり、子どもたちも生き生きと熱心に事業に取り組んでおります。これらはそれぞれの地域での点となっていますので、これらを体系的な情報交換をして、活動の拠点を拡大していくことが必要だと思っています。
 トキが安心して暮らせる環境は、人間にとっても健全な環境だということは、誰もが信じてやまないことだと思います。この運動を盛り上げ、自然や文化とのふれあい、あるいは心の豊かさを大切にしながら、失われた日本人のライフスタイルを取り戻し、掘り起こすことが必要だと思います。自身の暮らしを見つめ直し、食料の生産、供給、エコツーリズムなどを発信できる地域、島をつくっていきたいと思います。地域の住民が一体となって取り組まなければなりません。ここにお集まりのみなさまをはじめ、佐渡に関わるすべての人達がそれぞれの立場からご意見をいただき、佐渡を世界に誇れる島として生きていかなければならないと思います。自然の恩恵は、トキや動物たち、人間にとっても大切なものです。共生と循環の社会づくり、トキが佐渡の空に舞うような空間づくりに取り組むことは、佐渡島民の生活と、次世代にとって大きな意味のある事業だと思います。
 このビジョンを通じて、この事業を継続し、みなさまとともに取り組んでいきたいと思います」と発言し、この意見を全体のとりまとめとして、シンポジウムを終了しました。



2000年11月 トキとともに佐渡(c) 里地ネットワーク