シンポジウム 2 トキを軸にした島づくり報告




平成13年10月19日(金)〜20日(土)
主催:環境省、新潟県、佐渡市町村会、トキシンポジウム実行委員会
後援:農林水産省、佐渡青年会議所




 平成12年度から始まった「共生と循環の地域社会づくりモデル事業(佐渡地域)」は、約一年半を経過しました。この事業は、里の生き物であるトキの野生復帰をスローガンに掲げ、その生息環境(自然環境、社会環境)をつくりあげようとすることで「共生と循環の地域社会」の形成を目指してきました。今年度から新潟県も、トキを指標に地域に循環型社会を定着させようと「トキの島づくり事業」を開始しました。第二回トキシンポジウムは、国と県、市町村会の共催で「トキを軸にした島づくり」をテーマに開催しました。
 分科会は「自然環境の復元」「トキとこれからの農業」「活力ある島づくり」、地元の子どもたちの調査発表を含む「トキ博士講座」の4つを設けました。
 今年度のシンポジウムは、トキへの関心の高まりから約350名が集まり、分科会では活発な意見交換がなされました。
 なお、詳細な報告書は、別途発行致します。報告書ご希望の方は、里地ネットワークまでご連絡ください。

 基調講演1「トキと共に生きる社会をつくる−霞ヶ浦のアサザプロジェクト」では、NPO法人アサザ基金代表理事飯島博さんから、霞ヶ浦での経験を元に、持続可能な社会つくりについてヒントをいただきました。
 アサザ基金では、霞ヶ浦の水質浄化を目的に、そこにもともとあった水草であるアサザの栽培と植えつけをはじめました。しかし、定着させるには消波堤を設ける必要があることがわかり、昔ながらの技術から学んで木の枝で粗朶をつくる事業に着手。そのための材料を、霞ヶ浦の水源の森の整備により調達することとし、森林整備を行う会社を設立しました。また、流域には放棄田が多いことから水田の管理も請け負って行っています。さらにこれらの事業は、行政、森林組合、農協、学校を、NPOが、生活者の発想・視点でつなげています。「自己完結せず次の事業に繋がる事業をすること、そこに暮らす人たちの産業をつくること」が大切であるという指摘がありました。この報告を踏まえ、「トキは当たり前の自然、里山という日本の文化を復興させることで取り戻すことができる。それは昔に戻ることではない。人と人、組織と組織、モノ、カネの循環する動きが新しくできてはじめて実現できる。他の人や組織と、活動の場を共有することが地域作りに繋がる」との提言がありました。

 基調講演2「中国におけるトキ保護の取組について」では、中国のトキ保護の第一人者で日本側との窓口でもある中国陝西省野生動物保護協会事務局長の曹永漢さんから、中国でのトキ保護の方法について報告をいただきました。まず保護組織については、国、省・市を含め、体系化・完成した組織ができており、「コーチン」という、地域ごとに行政部門間を巡回するトキ保護専門員がおり、保護に関する責任制を敷いています。トキ保護の実際に関しては、繁殖期、育雛期、雛の成長期、巣立ってから、とトキの生態と生育状況に即して観察・保護策を講じています。子どもたちを含む地域住民への普及啓発や生息環境の保全のための経済的支援についても報告がありました。

 第1分科会「トキ博士講座」は、子どもたちの分科会です。まず佐渡トキ保護センター長・近辻宏帰さんから今年の繁殖について、日本鳥類保護連盟総務室長の杉本吉光さんから中日のトキ保護協力の経緯について報告をいただきました。その後地元小中学校の生徒から、それぞれの取り組みをもとに発表がありました。これまでの各学校での独自の調査や、身の周りの水辺にどんな生物がいるか調べようという「水辺の生物調査」の活動報告がありました。毎日暮らしている場所を改めて見なおし、その豊かさに気付いたこと、また調査を通してトキの野生復帰に向けて自分たちにできることは何か考えたことなどを発表してくれました。

 第2分科会「生息環境の復元」では、阿寒国際ツルセンター代表取締役の松本文雄さんによるツルの先進事例報告と自然環境研究センターの邑井徳子さんによる、これまでに佐渡で行われた水田の餌生物の調査報告をうけ、討論を行いました。参加者・パネラーからは、渓流の再生、小魚道設置など農業現場における物理的条件の改善、農薬影響調査の実験的条件設定の必要性、営巣地となる里山の現状と保全への課題、トキの生態を考慮した上での対策考慮の必要性等の意見が述べられました。また、これらの意見がでるなか、農業等の社会環境と自然環境で別々に議論するのではなく、同じ土俵で総合的に考えるべきとの指摘もありました。

 第3分科会「トキとこれからの農業」では、山形置賜産直センター代表・平田啓一さんから、農薬や除草剤を使わない稲作技術について、民間稲作研究所代表・稲葉光國さんからは米ぬか・大豆除草と圃場内ビオトープの提案を、吉川町・上野泰弘さんからは棚田オーナー制度の実践報告をいただきました。これを受け、参加した農家からは、「トキの野生復帰の条件整備より、農家が農業を続けられる状況を」「現在の圃場整備の状況では、野生復帰といわれても矛盾する」などの率直な意見も出ましたが、「いきなり全島でなく、やりやすいところからモデル地区を作ろう」「有機栽培米の需要は高いので消費者側も農作業を手伝いたい」などの意見が出されました。

 第4分科会「活力ある島づくり」では、まず屋久島のエコツアー専門会社・屋久島野外活動総合センター代表取締役・松本毅さんから自然環境をどう生かすかについてお話がありました。ツアーでは生態系を支える小さな生き物一つ一つの価値について情報提供していること、それに伴い、料金をガイド一人あたりりでなく参加者1人あたりで設定していること、地域の宝物探しが産業に繋がることを、経験を元にお話しいただきました。そして「エコツアーとはこちら側から価値観を打ち出すことだ」との提言もありました。
 続いて四賀村づくり株式会社・橋本和加一さんからは、クラインガルテン事業の設立経緯やシステム、都会との文化交流がもたらす効果について報告がありました。「佐渡は、自然や先人の残した文化があまりに豊かなため、何かしなければという意識がないのでは」との指摘を受けました。
 最後に里地ネットワーク事務局長の竹田純一が、今まで行ってきた、地元学や水辺の生き物調査について報告しました。その上で、ヨソモノの「びっくり」が地域の文化であり、その物語を確認し価値にかえていくこと、その価値をなるべく多くの人で共有することが、地域の活力を生むことになると指摘させていただきました。その後、先進事例の組織形態や経済的しくみみについて、参加者からさかんに質問が寄せられました。

 2日目はエクスカーションとして、次の二つのコースがあり、それぞれ約40名が参加しました。
1)トキの野生復帰をたずねて
 佐渡島総合開発センター発→トキの森公園→国仲平野の田んぼ→清水平(昭和42年〜平成5年までのトキ保護センター。当時餌場の一つでもあった)→両津市椎泊谷平(佐藤春雄先生がトキの観察に通った場所)→片野尾(最後の5羽捕獲地。同地区の大平山は最後のねぐら)→野浦(昭和46年以降の営巣地の一つ。公民館で野浦の方々から取組の紹介)→佐渡汽船両津ターミナル
2)ケビン・ショートの里山自然観察会(久知河内集落)
 久知河内は、小佐渡山脈東部の生椿付近を水源とし両津湾に注ぐ、久知川流域の地区です。ホタルが有名で、集落ぐるみでホタルのすむ川の環境保全を行っています。農業においても農薬の使用などをおさえ、生産する米を「ホタル米」として都市部に流通するなど、環境と農業との共生においても先進的な活動を行っている地域です。ここで、日本の里地里山の自然と文化に明るいケビンさんと集落の方の案内で、川沿いに自然観察会を行いました。下流はコンクリート護岸されていますが、上流域の休耕田とその周辺の森林の状況、そして集落の方々の取組みは、トキ野生復帰が現実のものであることを教えてくれます。



2001年10月 トキとともに佐渡(c) 里地ネットワーク