里地ネットワークの活動

2000年10月28日 生活文化と地域資源を調べるたんけん隊
(両津市野浦地区)

これ、なんだっけ
 標高610メートルの大隅山山麓に降った雨が、400メートルの谷平で湧きだしています。この山と森と水をたくみに活かして広がる美しい棚田が野浦地域にあります。棚田から棚田を流れ、水路をつたわり、集落に入る山の水。人々が暮らす集落は海沿いにあり、海の幸も山の幸も人々の生きる糧です。
 この野浦地区は全部で45世帯。地元学を使っての「野浦地区たんけん隊」をやろうという呼びかけに、事前の説明会から全世帯が参加。地区を挙げての「水のゆくえ」「あるもの探し」となりました。

 子どもからお年寄りまでみんな長靴、子ども達は玉網をもっての参加です。
 開会のあいさつもそこそこに、さっそく作業開始。5000分の1の地形図、色鉛筆を前に、お母さんと子どもたちが凡例を用意します。野浦地区の特色である、棚田や竹林、それに川の状況をとらえるためにコンクリート張りの状況を凡例に加えます。
 お父さんたちは、「水のゆくえ」のために水系を色を塗りります。頭を寄せ合い、小さな流れや大きな流れを確認していきます。「あそこの川はここに流れるんだろうか」と、知っているようで知らない、知らないようで知っている水の流れを地図に追いかけます。
 大まかな流れが地図に落とし込まれたところで、よく知っている地区ごとに大きく4つに分かれました。大人の男の人だけでなく、おじいさん、おばあさん、おかあさん、おとうさん、子ども達…、それに、学校の先生、トキ保護センターや県庁の人などヨソモノも加わった混成チームを組みました。そして、地図、ポラロイドカメラ、色鉛筆、玉網を持ち、軽トラックに分乗して集落の裏に切り立つ山に上っていきます。目指すは水源。
 すでに稲刈りは終わり、稲も干し終わって、途中のほだ木には、大豆や小豆が干されています。山は深く、あちこちから水が湧いているので、車でいけるところから水の流れを追いかけました。

 佐渡の多くの集落がそうであるように、野浦地区も海沿いに集落があり、集落と海岸の間、海岸沿いに道が通っています。この道が、今、車で集落と集落を結び、集落とマチを結ぶ道になっています。そして、山には稜線沿いに林道が走り、道が山水の流れを切って作られています。
 昭和のはじめまで海岸沿いの道はなく、隣の集落へ向かうのには山道を通ったと言います。また、今の林道とは違い、山の低いところを伝ってかつての道がありました。
 山道は当時の子どもたちの通学路であり、仕事の道であり、モノやヒトやコトを運ぶ大切な街道でした。その街道あと、山道あとにはお地蔵様が辻ごとに残っていて、道しるべとなっています。そして、たんけん隊に参加した地区のおばあさんは、お地蔵様を見かけるたびに近くの花を供えては手を合わせていました。
 そのおばあさんが、問題です。それまでどちらかと言えばおとなしかったおばあさんたちが、山に入った途端、急に生き生きとしてきました。もちろん、おじいさんたちもです。
 こちらがビックリして「これなに」と聞く間もなく、次から次に草木や花を採取しては、見せてくれます。これをポラロイドカメラで撮影して、「あるもの探し」も同時にすすめていきます。
 かつては竹を売って生活できていたというこの地区で、「竹は竿だけでなくてね、竹の皮も売れたんだヨ。いいお金になった」とおばあさん。山の幸の話もたくさんでてきます。

 さて、それぞれのたんけん隊には「水のゆくえ」をしっかりしようという指示がでていたので、小さな沢でもひとつひとつ確認していきました。まずはチョロチョロとほんの少しだけ流れる沢。ここでは子どもたちが大活躍です。ひとつずつ小石をめくっていきます。するとサワガニがあらわれてきました。「ばあちゃん、ばあちゃ、バケツ、バケツ!」と子どもたちの叫ぶ声が沢に響き渡ります。大きいものは甲羅の幅が4cmほど。「イタタッ」と声を上げるのはサワガニに指を挟まれてしまったおとうさん。サワガニをとった沢にはクルミも落ちていました。沢のすぐ横には大きなクルミ木が立っていました。「昔は競ってクルミを拾ったものだけど、今は拾わないね。昔を思い出すねぇ」。

 午前中の活動を終え、各チームそれぞれいろいろな収穫物を持って戻ってきました。
 紅葉した葉のついた木々、ドングリ、栗、薬草、アケビ等々。他のチームのみんなに見せるまでは「食べちゃダメ!」ということでしたが、アケビの中身のないものも……。
 各班が採取してきた宝物を品定めをしてから昼食会です。
 各自持参のお弁当ですが、野浦地区のお母さん達が作ってくれた豚汁がふるまわれました。そして、みんなが持ち寄ってきたお弁当をお裾分け。「目の前の海で採れたイカだよ。うまいぞォー」。自家製の漬け物、柿、煮豆…。「いやー、歩いて疲れたねェ。疲れを取るには、やっぱりコレがなくちゃな」。赤い顔になってしまったお父さんもいましたが、午前中に体験したことの情報交換に話がはずみました。

午後からは野浦の集落を探検します。
 家の裏の畑には、この時期なのにトマトやナス、トマトなどの夏野菜をはじめ、白菜やカブ、ダイコンなどの秋冬野菜、来年収穫するジャガイモ、ユズや柿といった果物、それに、お供えに使う花など30種類を超える作物が育てられていました。「今頃のトマトは赤くならないから、酢漬けにして、カレー粉をまぶして食べるとサラダになる」とはおばあさんの知恵。ほとんどの野菜が自給できるそうです。
 家の倉庫や納屋をのぞくと山の道具、海の道具、農機具など海のモノから山のモノまで、古いのも新しいのも次々にあらわれます。

「前の海は、おかずの海だよ。さっと潜ればすぐにサザエが採れるからね」。
「タコも捕れるよ。魚の頭を餌にした棒と引っかけて取るための棒と、2本で取るんだ」。「棚田の米はうまいよ。籾はあそこに保管するんだよ」と、そこには漢数字や数字が書かれた木製の大きな引き出し。味噌を昔ながらの木桶で作っている家あり、豆腐や醤油を手作りする道具なども大切に保管されていました。さらに、今年採ったという笹の葉は、殺菌効果もあるため、ラップがわりに使うそうです。のきには洗濯ばさみがずらりとならび、イカやワカメなど、たくさんとれたらいつでも干せます。柿を干している家、タマネギを干している家、大豆、小豆、カヤの実、クルミなどなど、山の幸、畑の幸、海の幸が、乾燥した気候の中で保存食として大切に干されていました。
モミを保存するタンス クルミ割り

 公民館に戻ってからは、ポラロイドカメラで撮影した写真をもとに、「地域資源カード」をつくっていきます。聞いた話だけではなく、その場で分からないことを、知っている人を探して聞き出します。さらに次々に古くて新しい話が、1枚のカードをきっかけに広がって、広いとは言えない公民館が熱気に包まれました。
 4つの班は、それぞれ歩いたエリアの地図をつくり、「水のゆくえ」を完成させます。あるもの探しの「地域資源カード」は、生活、水、田畑、神様などテーマ別に分けてずらりと並べ、みんなで野浦の豊かさ、「あるもの」を確認しました。最後に、班の発表と参加したヨソモノが驚いたことを発表して、かけあしの探検隊が終了しました。

 地元の人も、ヨソモノも、みんなが野浦を発見した1日。「水のゆくえ」地図と「地域資源カード」はそのまま野浦地区に残り、これから積み重ねられていくことでしょう。参加した小学校の先生は、これを活用して学校での教育活動に活かしたいというお話しでした。



2000年11月 トキとともに佐渡(c) 里地ネットワーク