韓国の里地里山を旅する(6) 食文化レポート
農業と食の視点から
英陽訪問を、日本の食と農業事情から考える
1.日本の農業と食生活事情
日本では、農村部、都市部とも、その地域で生産している第一次産品(農産物、畜産物、水産物)の一部を除いては、ほとんどすべての食材を
「購入」し消費している。
近年、WTO体制の下で極端に低い食料自給率(カロリーベース4割)への反省や、地域の産業保護、地域文化(食文化)や伝統食の見直し、
健康志向から、地産地消が広がっている。地産地消は、その地域で生産された第一次産品を、その地域内で消費しようという動きであり、国、
地方自治体、民間がこぞって地産地消を高く評価している。
消費者にとっては、高い国産農産物の中でも、産地で直売所など生産者が直接販売する場所で購入すれば少しでも安く、
新鮮な農産物が手にはいるとして、購入動機も高い。
生産者も、大市場向けに形や量を揃えた生産をすれば農薬や化学肥料を大量使用し、かつ、
輸入品に対抗するため常に価格競争にさらされているため、地産地消による直売を支持する者も多い。生産者の高齢化がはげしいため、
それが顕著である。

2.韓国の都市と農村
韓国については、ソウルなどの都市部と農村部での食生活はどうであろうか?
ソウルなど都市部の一般家庭における食生活は承知しないが、報道や輸入統計などをみれば、
都市部での食生活が変化しつつあることは明かであろう。
一方、今回訪問した英陽の食生活では、3カ所の民泊すべてで食材、調味料を含め、「購入」品はきわめて少数に限られていた。
民泊の食事が日常生活の延長にあるならば、少なくとも英陽の食生活は、きわめて伝統的な「地産地消」「地場消費」「身土不二」
型の食生活であろう。
これが、韓国の農村部の一般的な姿かどうかは調査をしていないので不明である。
ただし、日本とは違い、現在の韓国には、都市部と農村部での食生活の違いが生じていることは確認できるのではないか。
今後、韓国においてもWTO体制強化、自由貿易体制の中で、食料の輸入や国際分業論が高まり、
主に都市部の食生活は外部経済化していくであろうことは想像に難くない。
これに対して、韓国の農村部が、ソウルなどの都市と同様の経済水準を望むのであれば、それは工業化、都市化するほかない。もちろん、
現実的な解決ではない。
WTO体制、都市での食の外部経済化が進む限り、韓国の農村は、おそかれ早かれ日本の農村と同様に、疲弊し、高齢化し、過疎化し、
崩壊の憂き目にあうであろう。
3.日本におけるグリーンツーリズムと伝統食
日本の場合、農村部と都市部の所得格差が比較的小さいこと、農村部でも非農業分野の就労がある程度可能であり、
兼業的農業者が中核を占めていることが特徴である。
そのため、食生活については、農村部と都市部で大きな差はない。
しかし、農村は高齢化、人口過疎化、食料の輸入増加による農業の競争力の低下を受け、
自らが生き残るためにグリーンツーリズムに代表される新たな産業や特徴づくりをはじめた。かつてあった「食生活の差」=「貧富の差」を、
「食文化」「伝統文化」の再発見、再評価の上に立ち、「健康」「生活文化の豊かさ」と認識し、農村の地域内部での誇りと共通意識とし、
同時に、外部に対して提示した。それがグリーンツーリズムであり、食のツーリズムであり、農村体験となっている。
そのうちいくつかは成功し、多くは失敗している。
成功事例は、すべて、自らの農村の特徴を把握し、その住民(生活者、農業者)が自ら参加し、目的や方針、
方向性を共有して取り組んだものである。
里地ネットワークが、その成立以前から取り組んだ事例としては、長野県四賀村のクラインガルテンがある。これは、
滞在型農村体験施設であり、都市住民がクラインガルテンの山小屋を2年単位で契約、付属する小さな農地を自ら耕すとともに、
農村生活を体験するという者であり、1件のクラインガルテン契約者(クラインガルテナー)には、ひとりの農村住民(農家)が仮想的な
「村の親戚」となって農作業や農村生活体験の世話をしてくれる。
すでに10年を経過しているが、今も継続契約者が多く、新規の契約者が常に待機している状態である。また、その後、
農村に生活の場を移した例もある。
世界でも例のない大規模公害事件「水俣病」として今も多くの被害者を抱える熊本県水俣市では、「頭石 村まるごと生活博物館」
というしくみを生みだし、全国から注目を集めている。
水俣市には、現在、里地ネットワークが地域づくりの基礎的手法として位置づけている「地元学」の提唱者である吉本哲郎氏がいる。吉本氏は、
水俣病発生後、分断された人と人との関係、人と土地(自然を含む)との関係を再構築するために、現在は「地元学」
とよばれる調査手法を開発し、実践した。
その大きな成果として、村まるごと生活博物館がある。
都市住民に対し、有料で、その集落を案内し、生活者が「学芸員」となって釣りや山遊びや川遊び、農業体験や伝統食の料理、
生活の知恵を訪問者に伝授する。また、英陽での今回の民泊と同様に、地場の農産物を使用して伝統的な料理を振る舞い、かつ、
その意味などを訪問者に説明する。
これを通じ、訪問者に、単においしいもの、変わった体験をさせるだけでなく、人間としての豊かな生活、価値観を教え、同時に、
その地の魅力や人間的な関係性を構築させることができる。
意図したものではないが、結果的に、その地の農産物等が販売力をつけたり、再訪者が増え、また、グループが、地場農産物でつくるお弁当が、
市内中心部で販売され、集落の経済につながるなど、様々な経済的、社会的効果を生んでいる。
詳細は、リンク先を参照されたい。
水俣市ふるさと元気村 頭石 村まるごと生活博物館
九州農政局内のページ
著者のレポート
4.韓国・英陽におけるヒント
すでに、英陽では民泊や自然体験、ホタル村などの取り組みがされているものの、農村の生活者の自発的な取り組みという状況にはない。
地蜂の養蜂台は韓国ではあたりまえなのだろうか? 日本では極めてめずらしいものであった。これも日本では忘れられた生活文化である。
たとえば、地蜂の蜂蜜は、健康食として珍重されているが、この巣の中をみたことのある都市生活者は少ないであろう。
これもひとつの体験である。
英陽の農村、生活者・農業者が自発的に、英陽のそれぞれの集落の特徴を自ら把握し、自ら説明できるようにならなければ、
他の地域と異なる民泊、異なる自然体験、特徴のある英陽にはなり得ない。
農産物として、トウガラシをはじめ様々な良質な生産物に恵まれ、日月山など風光明媚で歴史ある風土に恵まれている英陽は、
その文化的な地域づくりの潜在性を十分に持っている。
たとえば、元気な高齢者の年齢、食生活の歴史(食歴と呼ぶ)、病歴、現在の健康状態などを調べ、日本における「長寿村」の様な形で、
都市住民に対し、健康指導と食指導と自然体験を合わせもった、健康・環境的なツーリズムを提供することが可能かも知れない。
精神的豊かさを体験するための体育と食育を合わせもったツーリズムが成立するかもしれない。。
自然体験も子ども向けばかりでなく、高齢者向け、都市住民向け、あるいは、国内外の高所得者層向けのプログラムをつくることも可能である。
問題は、自然、農業、食文化、伝統文化、伝統技術を含め、英陽にある「資源=リソース」を把握し、
住民自らが主体的に取り組むことができるかどうかである。
なお、先日の議論の場で出てきた、山梨県の長寿村は以下を参考にされたし。
棡原ふるさと長寿館
日本における「長寿村」としての観光成功例は沖縄であるが、沖縄は同時に、日本でも特別な海のリゾート地であり、
英陽の有力な参考とはならないが、著名な事例であり列挙しておく。
沖縄
http://www.nta.co.jp/akafu/kikaku/long_oka/
2007年06月17日 [レポート]

