韓国の里地里山を旅する(5) 長谷川巌先生のレポート
大韓民国慶尚北道の英陽郡英陽邑も生き物大韓民国慶尚北道の英陽郡英陽邑の道すがらの生き物雑感
2006年5月25日 越前市役所 希少野生生物専門員 長谷川巌
1.はじめに
里地ネットワークの竹田純一氏に招待され、訪韓調査団の一員として、例年になく春の到来が遅く、
朝晩の冷え込みが厳しい2006年4月20日から24日に、大韓民国の仁川(ソウル)から200Kmほど離れた慶尚北道の農村・
英陽郡英陽邑を訪問した。今回の訪問団の目的は、延生大学国際文化研究所と英陽郡と訪韓調査団の三者の合同で現地調査を実施して、
英陽邑にあった農村開発と地域の活性化の方向性、エコビレッジ、生物多様性の保全の方策を日本の実践事例から具体的に提言し、
共同で模索することにあった。この稿では、朝鮮半島の東海岸に沿って太白山脈と小白山脈に囲まれた、
標高600m前後の山里に位置する宿泊拠点の英陽邑首比里の体験修練場周辺や英陽邑首比里の分校跡の裏山周辺(資料1・2)と、
民泊した英陽郡英陽邑龍化里の吾知理氏宅周辺を中心に、調査途中で垣間見た生物の調査報告をする。
2.訪問時の英陽郡英陽邑の山並み
英陽邑の体験修練場のゲストハウスから見た対岸の山並みは、中生代の中葉に褶曲と断層を伴った激しい変動があったため、
カンブリア期の水成岩系の堆積岩が変成作用を受けた変成岩とジュラ紀の片麻岩との複合体の地質構造である。
所々に柱状節理や板状節理が見られ、表面近くが瓦礫場となっており、表土が流出した貧栄養の地質である。訪問時には、
赤松や朝鮮唐松の緑がまばらに成育し、芽吹きを待つ細い落葉樹林が林立する貧相な土地景観である。農家周辺も薪に使用されためか、
芽吹きを待つ雑木林で覆われ、大木が育っていない。また、英陽邑の2004年の月ごとの平均気温の値から、
生物が活動する最低気温の5℃を下回るのは12月から2月にも及び、しかも夏の季節風と台風時に降水量が集中し、
10月から翌年の4月には極端に少ない。同じモンスーン帯の福井県や東京とは生き物の生息には厳しい環境といわざると言えない(資料3)。
また、4月20日から24日は湿度34%から小雨の降った時(23日)でも64%であり、最低気温が5℃から8℃、
最高気温が15℃から18℃とさわやかな春日和であった。

3.目視された哺乳類
北の朝鮮人民共和国を含む朝鮮半島で確認された哺乳類のリストは、韓国環境部:
韓尚勲博士の未発表の資料を含めて資料4(1997年)の85種類である。今回、昼間の行動であり、黙視された哺乳類はシマリス、
チョウセンイタチ・アカネズミ(ハントウアカネズミ?)・モグラのトンネルのみであった。
朝鮮日報で紹介された英陽邑の喫茶店に迷い込んだカワウソ(2005年10月)は、ダムなどに生息していると話題になったが、
朝鮮半島に生息するツキノワグマは40頭、ジャコウジカは20頭前後と哺乳類の生息は非常に少ないらしく、
哺乳類そのものの個体数も激減しているらしい。首比面松下里でも日月面龍化里でもイノシシ、クマ、サル・キツネは見かけないという。しかし、
家畜の有機肥料の元になる朝鮮牛・雑草駆除と乳絞り用にヤギを飼い、漢方薬に角を利用するニホンジカ・
アカシカを飼育している農家も見られた。
(漢方薬に使う鹿の角)
(飼育中のヤギ)
(朝鮮日報に報道されたカワウソ)
4.確認された鳥類
朝鮮半島には371種の鳥類が確認されている。今回、英陽邑の首比里の体験修練場付近では、ヒヨドリ・カワラヒワ・キジバト・ヤマガラ、
セグロセキレイ・キセキレイ・シジュウカラ・カラス・キジバト・ムクドリ・クロツムギ・スズメ・ミヤマホオジロが確認された。
英陽邑 龍化里ではカワラヒワ・カケス・コゲラ・ジョウビタキ・キセキレイ・ヤマガラ・シジュウカラ・(ダルマ?)エナガ・キジバト・
ヒヨドリ・ミヤマホオジロが確認された。さらに、松下里ではムクドリ・ヤマガラ・ミヤマホオジロ・ミヤマガラス・カササギの巣が確認された。
また、ソウルから英陽邑への道中カササギの巣が多く見られた。
(カササギの巣)
(ジ ョウビタキ)
(ヤマガラ)
5.両生爬虫類
朝鮮半島には、39種類以上の両生類や爬虫類を確認している。冬季の降雪が消えてすぐ、産卵に来る両生類はアカガエルの仲間である。
写真はチョウセンヤマアカガエル(Rana dybowskii)の抱接する個体であり、体長はオス37~48mm、メス42~54mm程。
繁殖期は10月~4月にかけて。伏流水中に90~110個ほどの卵塊を産む。今回、山麓に近い英陽邑の首比里の体験修練場付近や、
近くの唐辛子畑のチョウセンサンショウウオの産卵地となっている排水路で確認している。その他、英陽邑の松下里の裏山の農家の水深50cm、
12㎡程の雨水を溜める池に、色鮮やかなチョウセンスズガエル(Bombina
orientalis)が16匹産卵に来ていた。このカエルは中国北東部(南は安徹省まで)、ロシア沿岸州、朝鮮半島、
済州島の山地にも平地にも生息する。背は緑地に黒の斑紋があり、腹面は赤か朱色地に黒の不規則斑があり、
四肢と体を反らして対捕食者姿勢をとる。3月初旬から4月中旬頃に繁殖し、雌は約300卵を水草に産みつける。
日本で一番美しい沖縄のイシカワガエルを小型にしたカエルである。
(朝鮮ヤマアカガエル雌雄)
(カエルの卵嚢)
(朝鮮アムール)
(朝鮮スズガエルの腹面)
(産卵にきた唯一の天水溜池)
また、今回の英陽邑の首比里の体験修練場付近には、数多くのチョウセンサンショウウオ(Hynobius
leechii)の産卵が見られた。このサンショウウオは、平地から山地にかけて見られ、3月~5月頃、
湿原や湧水の流れる水溜りなどで産卵するが、渓流でも産卵する例も報告されている。全長85~114mm。腹側面の肋条は13本。
済州島のチョウセンサンショウウオは別亜種とする学者もいる。体色は淡灰褐色~暗黄褐色で、淡黒色の小斑点を持つ個体もいる。
尾に黄色の条線が現れることから、明らかにカスミサンショウウオの仲間である。

(全長103mm、9.7gの体験修練場の溝で確認されたチョウセンサンショウウオの雄個体)
(体験修練場の溝の雄個体)
(唐辛子畑の溝の幼生13mm)
今回のチョウセンサンショウウオの調査で、首比里の体験修練場付近の山際の斜面工事をしている45cm幅×45cm深さの溝に、 雄2個体、雌1個体、完全卵嚢95個、一部破損17卵嚢。計112卵嚢が確認された。 周辺に適当な産卵地がないため集中して産卵したものと考えられる。工事の進捗状況により、溝から脱出できる成体や変態幼体は望めない。また、 グランド下の体験広場の西側の同じような溝に、7卵嚢。体験修練場への進入道脇の唐辛子畑の排水溝の湧水口付近に雌1個体、完全卵嚢45卵。 31号線から体験修練場へ行く道路脇の水田の湧水口のある溝で5卵嚢が確認されている。 周辺の様子から体験修練場付近は一大産卵地であるといえる。
産卵地に共通することは、①流れが緩やかな止水域、②湧水口があり、③水温がやや高い場所、④卵嚢を付着させる落葉・ 地下茎や根がある。⑤外敵に見えない物陰である。
(体験修練場の溝)
( 体験広場の排水溝)
( 唐辛子畑の湧水のある溝)
(サンガク マムシ)
また、蛇類には活動ができない低い気温だったが、松下里の裏山の捨てられた農作業板の物陰で、唯一サンガクマムシ (Agkistrodon saxatilis)だけが捕獲できた。この蛇は全長50cm~75cm。胴体の斑紋は楕円形ではなく、 横帯状となる。斑紋の色は赤褐色から黒褐色。眼の後ろの黒っぽい帯は幅が広く、上縁がぼやけて不明瞭。毒はそれほど強くない。胎生。 日当たりの良い林縁の石の多い場所に多い。ネズミ食で、幼蛇は蛙なども食べる。
6.魚類
朝鮮半島には130種以上の淡水魚が確認されている。今回、河川の調査は十分出来なかったが、目視による観察では龍化里ではカワムツ・
アブラハヤ・カマッカの魚影が見られたが、清流域で他に魚類は見られなかった。
松下里の農家から出された川魚のから揚げにはカワムツしかいなかった。ただ、魚屋にはフナ・ボラが水槽に活かされ販売されていた。
7.その他の貝類・昆虫類
松下里の川では、竹田氏がタモ網で採集したが、アブラハヤと一緒にカワニナ・モノアラガイが採集されたが、生息数は多くないようである。
また、ホタル公園のホタル水路で捕獲した生き物はマツモムシ、ミズカマキリ、クロズマメゲンゴロウ、ヤマアカガエル、ギンヤンマのヤゴ、
タイコウチ、ミズムシ、カワニナであった。ホタル復活を願うには、あまりにもカワニナの数が少なく、
護岸が人目の景観を重視した河川の巨石で、ホタルの幼虫が上陸し土まゆを造る草地もなかった。

また、昔ながらの自然の恵みを大事にする龍化里では養蜂が盛んであり随所に工夫した養蜂箱が多くみられた。 春の日差しにミツバチが活発に活動し、モンシロチョウ・ミヤマチャバネシジミが各1頭乱舞していた。
(龍化里のミヤマチャバネシジミ)
( 養蜂セット)
今回の韓国訪問での調査は、気温が低く、生き物が目覚め活動することも少なく、時期的に早かったようである。また、 チョウセンサンショウウオ観察に力が入り、他の生き物には眼が届かなかったようである。
最後に、韓国側では延生大学国際ヨーロッパ社会・文化研究所(YONSEI UNIVERSITY, Institute of European Society and Culture Center for festival Studies) のYong-Min Kim主任、Yoon Sukyim女史、英陽郡環境部長、観光課職員のPark sang hwan氏、また、 民泊でお世話になった吾知理ご夫婦、調査団として同行した竹田純一団長や竹田氏親子・茂木登志子・牧下圭貴・島田幸子・戸星真央・ 小関緑各氏には大変お世話になり深く感謝しお礼申し上げる。
資料1.2 yonyan0102.pdf - 62.7 KB
2007年06月17日 [レポート]