「協働公益活動の合意形成及び逆システム学による検証」

本稿は、2004年、2005年に行った中央大学 日本比較法研究所の特殊講義 「日本法制2010年」において、 「環境運動と公的主体」というテーマで行った講義をもとに、「日本法制2010年研究蔵書」の原稿として寄稿したものです。
中央大学においてご指導いただいた恩師小島武司教授、渥美東洋教授、 大澤恒夫弁護士をはじめとする法制研究メンバーの参考になる部分が一部でもあればと願いっています。

同時に本稿は、地域社会を対象に、さまざまな公共政策を実施してこられた方々、行政担当者、学識経験者、専門家、コンサルタント、各種団体、 そして、市民、市民団体等の方々にご一読頂きたい内容を中心に執筆いたしました。地域共同体と個人の関わり、 地域共同体の中への環境政策の啓蒙の方法を、地元学、逆システム学、合意形成手法から、現場での体験をもとに解説を試みたものです。 長文になりますが、おつきあいいただければ幸いです。また、本稿に対するご意見ご指導等お送りいただければ幸いです。
 ご意見ご指導等の送付先: tegami@satochi.net


中央大学 日本比較法研究所 「日本法制2010年」研究蔵書 原稿
「協働公益活動の合意形成及び逆システム学による検証」

竹田 純一

目次
第1章 個人の生き方と環境問題
1.人の生き方と環境問題
2.協働公益活動の主体
3.利己的な個人と共同体の意識
4.環境政策を担う地域共同体
  地域共同体の分類
  地域共同体における維持管理
  自治内容の区分と地域共同体にもとめられている機能
  地域共同体を構成する個の集団
5.集落の形、自然環境と文化のしくみ
  災害と生活文化の智恵
  民俗学者のまなざし

第2章 合意形成と協働公益活動
1.合意形成の用語
1.合意形成のこれまでの経緯と概況
  パブリックコメント・パブリック・インボルブメント
  河川管理
  都市計画
  公共事業における用地買収
  道路整備と交通政策
  コンセンサス・ビルディング
  コンセンサス会議
  参加型まちづくり
3.合意形成の手法とポジション
4.地元学による合意形成事例
  新潟県佐渡市野浦地区における協働公益活動と地元学
  新潟県佐渡市久知河内地区における協働公益活動と地元学
  新潟県佐渡市城腰地区における協働公益活動と地元学
  愛知県美浜町における協働公益活動と地元学
  神奈川県城山町小松城北地区における協働公益活動と地元学

第3章 逆システム学とと協働公益活動
1.逆システム学とは
  対象となる現象
  現象の把握の仕方
  調査のポイント
  要素還元論と全体論の解析方法
  非市場的な諸制度の取り扱い
  生命科学における解析方法
2.地元学による地域共同体への介入と逆システム学による解析方法の比較
3.生命科学における調節制御のしくみ
4.フィードバックがこわれている事例1
  フィードバックがこわれている事例2
  フィードバックがこわれている事例3

第4章 協働公益活動の創出
1.多重フィードバックと制御系が地域共同体に果たす役割
  多重フィードバックの段階
  越えられない本質的な問題の壁
2.公共政策に果たす地域社会(個の集団)の役割の重要性
  公共政策への希薄な国民意識
  個人と地域共同体の価値感とパラダイムの転換
3.公的主体としての「制御系」の意義と役割の考察
  崩壊集落の農地、山林と自然災害
  公的主体としての集落組織とNPO
  新たな公共事業の萌芽
4.集落における制御系とは何か
  集落会合の基本的なスタンスとスタンスを変えるコーディネーターの役割
5.地域共同体における制御系の働き
  制御系はどの方向に機能するか
6.制御系の構築方法
  市街地における制御系の働き方
  集落における制御系の働き方

図表目次
図 1セーフティーネットの再構築
図 2 社会的合意形成
図 3 共同体の意識
図 4 共同体の意識形成過程
図 5 合意形成の手法とポジショニング
図 6 地元学による合意形成(事例1 野浦地区)
図 7 地元学による合意形成(事例2 久知河内地区)
図 8 地元学による合意形成(事例3 城腰地区)
図 9 地元学による合意形成(事例4 美浜町)
図 10 地元学による合意形成(事例5 小松城北地区)
図 11 地元学・事前の包括的合意形成の実現
図 12 利己的な遺伝子と反応の束 

 

はじめに

私は1990年以降の15年間、「個人の生き方と環境問題」というテーマで、さまざまな活動を企画、プロデュースしてきました。
その一つの結論として、環境問題の解決は、自由できままな個人のライフスタイルから、それぞれの個人の嗜好に合った分野の「協働公益活動」 を行うことが、個人と環境問題の関係を改善するために有効であると考えるようになりました。この考えに確信をもったのは、 三つの概念との出会いです。

 一つ目は、「地元学」との出会いです。戦後日本の公害の象徴であり、環境運動の原点と考える人が多い水俣病は、40年の間、 人と人との関係、コミュニケーションが途絶えていました。水俣市では、この関係性をもとに戻すために、大字単位で地域の自然、文化、 風土と暮らしの見直し作業を“もやいなおし”運動として行ってきました。この人と人、 人と自然とのコミュニケーションを回復させた活動をふりかえり、地元に学ぶ地元学と命名しました。(吉本哲郎2001)この地元学から、 個人と環境問題、地域共同体と環境問題との関係性のあり方を見つめ直しました。

二つ目は、「合意形成」です。この概念は、公共事業を行う際に、地権者、利害関係者の範囲を特定し、行政側の主張と地権者、 住民側の意見の調整を図る手法です。この合意形成は、あくまで、行政側から、住民、利害関係者、国民側へ、 公共政策への合意を図るために構築されてきた手法です。一方、個人と環境問題の関係を見つめると、環境問題は、個人の暮らし方、 ライフスタイルが問われているために、国民の主体的な環境政策への協力が不可欠です。言い換えれば、 国民の主体的なライフスタイルの転換が必要です。この視点から、行政側からの合意形成に変わる、住民、地域社会側からの 「包括的な事前の合意形成」の必要性を痛感しています。

三つ目は、「逆システム学」(金子勝、児玉龍彦 2004)との出会いです。
市場経済を中心とする社会システムは、非市場的なセーフティーネットにより支えられているという概念です。市場経済は、個人、 企業の自由な活動が、自動調和的に最適な市場を形成するという考え方で構築されてきました。この考え方を支えたのは、 要素還元論と全体論です。しかし、市場経済も、生命科学も、この両者の概念では説明できないさまざまな現象が現れました。また、 人間の遺伝子(ヒトゲノム)の解析が進み、この両者からわかった結論は、これまでの、 原因に対して対処するような経済政策や病気の原因を特定し投薬するのでは、数十パーセントの確率で有効に働いても、残り数十パーセントは、 副作用が起こってしまうということです。ヒトゲノムの解析以降、生命科学の領域では、個別の原因に対する処方ではない、 多重な反応の束に対する処方の研究が進んでいます。市場経済でも同様に、年金問題や福祉政策、 ボランティア制度の促進のような非市場経済のしくみが、政策の中心で議論されるようになりました。もはや、生命科学も市場経済も、 市場や制度の中にある無数の企業や個人、商品を分析するのではなく、 日常的に現れているさまざまな現象に対するセーフティネットの張り替えが必要です。このパラダイムの転換が逆システム学です。

生命体も市場経済も、さまざまな要素が複雑に反応しています。その一つ一つの解析は不可能です。逆システム学では、 生命体や市場経済におけるさまざまな反応を「多重フィードバック」として捉え、その多重な反応を、コントロールし、 生命体や市場経済の維持存続を果たしている「制御の束」があると定義しています。これまでの、要素(原因) に対する結果を考察するのではない、それぞれの遺伝子の反応に対する、制御系遺伝子の反応(フィードバック)が、 生命体も市場経済も支えているという概念です。

これまで、都市に対する過疎地、経済活動に対するボランティア活動、賃金労働に対する年金などは、 市場経済のしくみに対する非市場的な副次的なしくみとして捉えられてきましたが、逆システム学では、市場経済は、 非市場的なしくみによって支えられていると結論づけています。私が、この間行ってきた環境を軸とするさまざまな企画やプロデュースは、 全て非市場的な周辺のしくみづくりですが、ふりかえってみると、社会の中に、この15年急速に浸透してきたしくみでした。まさに、 時代が求めていたセーフティーネットの一部を構成する機能だったように思えます。

この三つの概念との出会いから、これまでの活動を、「協働公益活動の創出」という視点で整理しました。 十分な時間をかけて検証したものではありませんので、私の利己的な解釈に走りすぎている点は、読者の感じるところであると思いますが、 合意形成手法のさらなる発展と、社会システムのパラダイムの転換、そして何よりも、 個人と環境問題の関係を改善するための一助として活用いただければ幸いです。

2006年02月04日 [レポート]

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